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25.(前編)

 陽光が差し込み明るい部屋に、華やかで可愛らしい女性的な雰囲気で纏められた調度品。

 思わず此処は何処だと突っ込みたくなってしまう程に周囲とは隔絶しているこの一角は、辺境伯の屋敷の中に急遽設けれた、ラトランド公国の第一公女であるベアトリスさんための部屋だった。


 天気も良く長閑な昼下がり、この部屋で、ベアトリス公女とパトリシア公女とラヴィニアさんが、お茶をしていた。

 眼福、である。

 勿論、このお茶会には、エルズワース公子とアレクと俺も、招かれている。

 つまり。俺に対する自己評価は保留とさせて欲しいのだが...俺以外は、美男美女というか美少女に美少年に美男子が勢揃い、だった。

 そう。実は、アレクも、結構なイケメンだったりするのだ。

 何と言うか、キラキラしい絵柄が、俺の視界一面に広がっていた。


 そんなお茶会をバックアップするのが、王都の邸宅から応援に来ているローズベリー伯爵家のメイド長であるジャネットさん。

 ジャネットさんは、メイド服ではなく侍女のお仕着せを纏い、ベアトリス公女の臨時の侍女として忙しく立ち働きしていた。

 ちなみに、パトリシア公女の侍女には、領都の領主館から応援に来ているローズベリー伯爵家のメイド長補佐であるヴェネッサさんが就ている。

 当然ながら、ラヴィニアさんの侍女としては、ラヴィニアさん一筋のミッシェルさんと出来る侍女と化しているエカテリーナさんの二人がすぐ傍に控えている。

 そして。

 この部屋のメイドとして、ローズベリー伯爵家の若手メイドさん達が、アレクの専属を目指して研修中のグレンダさんが着ていた衣装をアレンジし制作された新作の若手向けメイド服を着用して、キビキビと楽しそうに働いていた。


 そんな女性陣は、今、わいわいきゃーきゃーとフリフリでひらひらな可愛らしいメイド服についての話題で、盛り上がっているようだ。

 ただし。若干(じゃっかん)というか一名ほど、自身のお気に入り衣装の方が可愛いのに、とでも言いたげな表情で、いじけている。

 うん。魔法少女の衣装も、ひらひらメイドさん衣装も、よく出来ていると思うよ、ホントに。

 と。話の輪から脱落しかけていたエカテリーナさんの様子に、ラヴィニアさんが気付き、何やらフォローをしている。

 こらこら、エカテリーナさん。(あるじ)に気を使わせてたら、駄目だろう。

 まあ。仲良くしているようで、何よりなんだが...。


 コンコン。


 部屋の扉が、控えめにノックされた。

 この部屋の主の侍女を務めるジャネットさんが気付き、この部屋の主であるベアトリス公女とアイコンタクトを取っる、

 扉の方へと流れるように移動する、ジャネットさん。が、スッと扉の外へと出て行った。

 かと思うと、すぐに戻って来て、ベアトリス公女の傍に寄り、耳元で何やら告げている。

 すると。ベアトリス公女が、俺の方をチラリと見てから困った様な表情をして、ジャネットさんに小声で何か指示を出した。

 ジャネットさんは、衣装についての話で盛り上がっている女性陣が集う付近を迂回して、俺の方へとやって来る。


「アルフレッド様」

「何か、トラブルでも?」


 周囲の様子に気を配りながら、俺は、小声でジャネットさんと言葉を交わす。

 ジャネットさんは、泰然とした態度を維持したまま、ぎりぎり聞き取れる程度の小声で、話し掛けてくる。


「扉の外に、ハワード・アイザックス氏とウィリアム・ウォルドグレイヴ氏が、来られています」

「は?」

「ベアトリス様は、二名とも迎え入れても良い、と仰っておられますが」

「...」

「アルフレッド様のご判断にお任せする、との事です」

「そ、そうか」

「はい。如何致しましょう?」


 翡翠の赤い小隊長と、紅玉の青い小隊長。

 この二人は、仲良しなのか?

 確かクリスの話では、不仲説が有力だ、という説明だったように記憶しているのだが...。


 何だか、そこはかとなく嫌な予感がする。

 とは言え。入室を拒む、理由もない。

 ベアトリス公女の怪我も、ここ数日のラヴィニアさんによる治療で、ほぼ痕も残らず回復したので、青髪な紅玉の隊長との挨拶も恙無く終わっており、面談を断るような状況でもない。

 赤髪な翡翠の隊長は、到着初日に絡んできて以降は大人しいもので、ラヴィニアさんが困惑するような事態も発生していない、と聞いている。

 と、なると。

 この私的で和やかな会合に、彼らがどういう立場や名目で参加を望んでいるのか、が可否を握る事になる。


「彼らは、何と言っているのですか?」

「我々もお茶会に参加させて貰えないか、と」

「う~ん」

「訪れておられるのは、お二方のみ。騎士団の制服ではなく、私服で。帯剣も、されておられません」

「つまり。レディング侯爵家に連なるアイザックス騎士伯、ウォルドグレイヴ伯爵家の次期当主であるチュートン子爵、として、ですか...」

「はい。そのようにご判断された方が、宜しいかと」

「で。主催者という事になっているベアトリス公女殿下も、迎え入れるのも止む無し、と」

「左様でございます」

「けど。波乱の予感がする、といった感じ、かな」

「...」


 出来る侍女であるジャネットさんも、無言で同意。

 即ち、避けて通りたいが、避けることは出来ない、という結論になる。

 であれば。安易だが、時間稼ぎ、といきますか。


「では。今は少し女性陣だけで盛り上がっている状況なので、迎え入れる準備をする為に、三十分ほど時間を頂きたい、と回答しましょう」

「お二方には、アルフレッド様のご判断、とお伝え致しますか?」

「そうだね。急な来訪で戸惑っておられたベアトリス公女殿下に、当家の主として私がご提案した。といった説明を、当たり障りのないように、頼むよ」

「承知致しました」


 ジャネットさんは、当家のメイド長としても周囲に目配りしながら扉の方へと移動する。

 途中、当家のメイド長補佐代理(?)と思われる熟練のメイドさんの一人に笑顔で何やら耳打ちしてから、そのメイドさんが若いメイドさんの一人に何やら指示するのを見届け、自然な動作で扉の方へと近寄りそっと開ける。

 と、同時に。

 女性陣の方から、わっと、歓声が沸き上がった。

 フリフリでひらひらな可愛らしいメイド服を着た若いメイドさんが、ポケットから何やら新たな装備(?)を取り出して披露したようだ。

 ドジっ子メイドの現在は侍女見習いとして王都で頑張っているグレンダさんに感謝、だな。

 グレンダさんのお陰で、こうして、時間稼ぎが出来る上に楽しい話題を提供できるのだから。


 扉の向こう側の様子はよく分らないが、ジャネットさんに任せておけば、間違いなし。

 とは言え。問題をちょっと先延ばししただけ、とも言える状況なので、追加の策を仕込んでおく必要がある。

 まあ。イケメンのお二方が出直してきたら、その際は、少しお付き合いしてから時間が来たのでハイ解散。と、無難に終わらせられたら良いな、と切実に思う俺だった。


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