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22.(後編)

 平常であれば静かな佇まいを見せる、堅牢な城壁に囲まれた飾り気のない辺境伯の屋敷。

 普段は静寂に包まれる武骨なお屋敷が、ここ数日、多くの人で賑わい、華やいでいる。

 そう。雰囲気的には、同窓会が開催されているホテルの宴会場の近辺の様な...。


 初日は、俺たちが荒野から連れ帰ったラトランド公国の公女姉妹と公子の御一行を迎えると共に、開拓村を含めた辺境伯の屋敷近辺から総員が集結。

 二日目は、早くも領都からの第一陣が朝に、第二陣が夕方に、続々と到着。

 三日目には、王都からの第一陣が昼前に、到着。即座に、担当部署へと散っていった。

 流石はハイスペックなローズベリー伯爵家の家臣団の皆様、非常時の応対力が半端なく、仕事が早いです。

 しかも。王都から領都へ応援に入った方々も居るそうで、元々は領都に居た方々は全員が辺境伯のお屋敷に集結したのだとか...。

 臨機応変というか随時最適化というか、脱帽だ。

 兎にも角にも、あれよあれよという間に、辺境伯の屋敷は、立派に賓客をもてなす迎賓館的な機能と品格を十分に備えた施設へと、変貌したのだった。


 そして。

 ラトランド公国から賓客を迎えて、四日目の今日。


 王都から、貴人の護衛のためという名目で派遣されて来た、王国騎士団の一小隊が到着した。

 豪華な装備と青色系統の華美な装飾で統一された隊服を身に纏った派手な一団が、真っ赤な髪をしたワイルド系のイケメンに率いられて、やって来たのだ。

 そう。隊長が、青系統の多用された派手な衣装を着た、真っ赤な髪の俺様系イケメンの騎士。

 アレクとクリスの解説によると、某侯爵家の三男で、実績によって騎士伯の称号も得ている、婚活中の肉食系男子、らしい。

 もしもし、王様。何を考えて、おられるのですか?

 庇護を求めて避難して来た美人公女姉妹の護衛に、何故この選択?

 と思ったら。クリスの解説によると、他国のお偉いさんの護衛は、翡翠騎士団か紅玉騎士団かどちらかの第一小隊が請け負うのが恒例、という事情によるものだった。

 因みに。各騎士団の第一小隊は、貴族のみで編成されるのが恒例となっているから、という裏事情にも起因する慣習らしい。

 それと。紅玉騎士団の第一小隊の隊長も、翡翠騎士団の第一小隊の隊長と同じく、二十五歳で恋人募集中のイケメン、なのだそうだ。

 つまり。どちらの騎士団が来たとしても、面倒そうな点に違いはない、という俺にとって救いのない我が国の現状だった。


 そんな頭痛の種が今、俺の目の前で、お約束通りに駄々を捏ねていた。


「王国からの正式な護衛として遣わされた我々が、何故、護衛対象であるベアトリス公女殿下にお目通り叶わないのだ?」

「ですから、何度もご説明した通り、ベアトリス公女様は、襲撃を受けられた際の怪我の状態が思わしくなくてですね」

「それは貴殿の怠慢か? それとも、貴殿が恣意的に、公女殿下たちを隔離しているのか?」

「見ての通り、ローズベリー伯爵家として総力を挙げて、手を尽くしております。それに、私のみの考えではなく養父殿も同意見ですが、当家の判断にご不満があると?」

「いやいや、そんな事は申しておりません。アーチボルド閣下のご判断に異議など、滅相もない。ただ、貴殿からの報告を誤解されておられる可能性も...」


 あー、鬱陶しい。

 何の因果で俺が、乙女ゲームの攻略対象みたいなキラキラ俺様イケメンと、こんな至近距離で会話せねばならんのだぁ~。

 しかも。微妙に、上から目線の言い様。俺のこめかみに、消えない皺が出来たらどうしてくれる。

 思わず実力行使での排除に走りたくなるのを、ガマン我慢。

 ピキピキと亀裂が入っている音が聞こえそうな笑顔で、俺は、赤髪イケメン小隊長殿と、一見すると穏やかに口論を継続していた。


「あのぉ~」

「...」

「おおっ、パトリシア公女殿下! どうかされましたか?」


 背後を振り返り、廊下の角からひょっこり顔を出しているパトリシア公女を確認した瞬間、背後から先程まで対峙していた暑苦しいイケメンの気配が急接近して来るのを感知。

 俺は、素早く、パトリシア公女の方に一歩進んでから振り向き、急接近して来る肉食系イケメンの進路を塞いで、それ以上の前進を阻止する。

 俺よりも頭一つ高く筋骨隆々な威圧感たっぷりな男が、先程よりも更に近い間合いへと接近していた。


「キャー。アルフレッド様、そういうご趣味も」

「んな訳あるか! 綺麗なお姉さんの方が良いに決まってるだろ!」

「もう、冗談ですのに...で、アルフレッド様は、綺麗な女性がお好みと」

「あ~。パトリシア公女殿下、どうかされましたか?」


 俺は、身体を使って赤髪筋肉男の前進を阻止しつつ、首だけ九十度動かして、横目でパトリシア公女を見ながら、自身の一部発言を無かったことすべく、話題を変えて会話を続ける。

 金髪碧眼のお転婆娘の、ニマニマ笑いは、スルーする事にする。


「エルズワース公子殿下のお部屋をお訪ねになるとお聞きしておりましたが、何かございましたか?」

「ええ。エルズワースがアルフレッド様とお話がしたい、と言うので、面会依頼を出そうかと思っておりましたので、丁度良かったですわ」

「そうですか...」


 この後は特に予定がないので問題はないが、この頭痛の種を、どう(さば)くか、だよな。

 微妙に立ち位置を調整してお邪魔虫の前進を阻止しながら、対処策を考える。

 思わずしかめっ面になりそうな表情筋を笑顔状態に戻すよう苦心しながら、イライラ顔を隠しきれていないワイルド俺様イケメンと対峙する。


「ハワード様」

「は、はい! 何でしょうか、パトリシア公女殿下」

「大変申し訳ないのですが、姉さまへのご挨拶は、女性のお医者様か治癒魔法の使い手の方による治療が終わるまで、お待ち頂けませんか?」

「...」

「姉さまも年頃の娘として、出来れば、人前に出ても恥ずかしくない程度まで回復してから、と希望しておりますの。ご理解頂けないでしょうか?」

「左様でございますか。であれば、致し方ありませんね」

「ご理解下さりありがとうございます。それでは、ご挨拶が可能になりましたら、アルフレッド様を通してお伝え致しますので、もう暫くお待ち下さいませ」

「っ。承知致しました」

「それでは、私は、アルフレッド様とお話がございますので、失礼させて頂きますね」

「パトリシア公女殿下にお会いできて光栄でした。それでは、また、後日」


 翡翠騎士団の第一小隊の隊長であり、レディング侯爵の三男坊である、赤髪キラキラ俺様系イケメンのハワード・アイザックス氏は、パトリシア公女にニッコリ笑った後、一瞬、俺にガンを飛ばしたかと思うとサッと背中を向け、颯爽と歩いて立ち去って行った。

 はあ~、疲れた。


「アルフレッド様」

「...」

「そんな、露骨に安堵していると態度で示すのは、如何かと思いますわ」

「ははははは...」

「まあ、わたくしは、構いませんけど。そんな事では、貴族社会で生きていけませんわよ?」

「よく叱られますが、こればかりは、なかなか慣れません」

「そうですか。ところで...」

「ああ。エルズワース公子殿下が、お呼びになってるというお話でしたね」

「はい」

「それでは、今からお部屋に伺いましょうか?」

「ええ、お願いします。わたくしも、ご一緒致しますわ」


 俺は、パトリシア公女による無言の要求に従い、パトリシア公女に一礼してエスコートの体勢を取る。

 そして。エルズワース公子に割り当てられている部屋へと、二人で並んでゆっくり歩きながら向かうのだった。


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