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18.(前編)

 アレクと二人、(くつわ)を並べて、長閑(のどか)な街道を優雅に、南東へと向かう。

 ただし。アレクの前には可愛いメイド服のグレンダさんが、俺の前にはお嬢様ルックのジェシカさんが、ガチガチになって座っていた。

 このまま一気に王都まで馬で早駆けすることも考えたのだが、これは無理だと途中で諦めた。

 折角、アレクとグレンダさんにジェシカさんの衣装を大急ぎで見繕って貰ったのだが、まあ、仕方がない。

 乗った事がないと、馬の上って、慣れるまでは怖いよね。普通は。

 領都であるローズベリーの街で改めて支度して、馬車で王都に向かう、というのが現実的なプランだな。

 俺は、そんな風に、この後の行動をのほほんと考えながら、のんびりと乗馬を楽しんでいた。


「アルフレッド様。そろそろ、少し馬のスピードを上げた方が宜しいかと」

「う~ん。ジェシカさん、大丈夫ですか?」

「は、ははは、はい! 大丈夫です」

「え~、本当に?」

「だ、だ、だ、だい、大丈夫。です!」

「グレンダさんは?」

「...」

「アレク?」

「アルフレッド様。恐怖の時間は、短い方が宜しいかと」

「ま、まあ。それも一理ある、けどね」

「はい。この二人が慣れるには、あと数回は乗馬の訓練が必要かと思われます」

「そうかぁ~。仕方ないね。では、少し飛ばしますか」

「はい」

「「...」」


 俺とアレクは、馬に脚を使って軽く合図し、速度を上げた。

 ジェシカさんとグレンダさんは...。

 俺とアレクは、ジェシカさんとグレンダさんを馬から落とさないよう細心の注意を払いつつ、徐々に騎乗する馬の速度を上げながら、領都への道を急ぐのだった。


 * * * * *


 ローズベリーの街には早々と昼過ぎに到着したので、まず俺は、領主館の中にある領内の行政を司る各種組織のオフィスが集められた執務ゾーンの一室に、顔を出す。

 居合わせた事務官の一人に書類の手渡しと指示出しをしてから、四の五の言わせずに領主の執務室へと移動。

 アイテムボックスである小さな革鞄(ポーチ)から収納していた書類の山をどさどさと取り出し、執務机の横に備え付けられた脇机の上へと山積みに。

 そして、素早く、誰かに捕まってしまう前にさっさと、執務ゾーンから撤退する。


 領主館の中でもローズベリー伯爵家のプライベートゾーンとなっている区域にある豪華だが小ぢんまりした食堂へと、俺が入った時には既に、アレクが寛いでいた。

 アレクのみが一人でお茶を飲んでいる、という事は、まだ、ほのぼの令嬢とおドジな侍女見習いの二人組は熟練の小母(おば)様方に揉みくちゃにされている真っ最中、という事だな。


「食事はまだだって、伝えてあるんだよな?」

「ああ、大丈夫だ。超特急でブラッシュアップしてから、四人纏めて少し遅めのランチをご馳走してくれる、と言っていたよ」

「そうか。なら、俺も、お茶でも飲みながら待つとするか...」


 椅子から腰を浮かしかけたアレクを目線だけで押し留め、俺は、用意されていた茶器セットを使って自分で紅茶を()れる。

 紅茶を注いだカップが載ったソーサーを手にして少し移動、食卓の椅子へと座る。

 ローズベリー伯爵家は、どの部門も少数精鋭で通常勤務の人員が少ないため、急な予定変更やアクシデントがあると、関係各所にシワ寄せが発生してしまうのだ。

 今回も、急ごしらえで良いのでお嬢様と侍女見習いを仕立て上げて欲しいなどと突発的に依頼したから、熟練の強者揃いな領主館に勤めるメイドのお姉さま方を以ってしても、本来の持ち場の維持までは手が回らなくなったようだ。

 勿論、それで良いと俺が時間優先を明言したからこそ、このような現状がある訳だが...。


「アレク。この後、どうする?」

「そうですね。食事を済ませてから王都に移動、というのも出来なくはないのですが...。この先は、馬車を使うのですよね?」

「ああ。乗馬では、これ以上は無理そうだったからな」

「そうですね。()した方が良い、と思います」

「となると、馬車での移動で確定だが...。王都に着くのは、ぎりぎり深夜か」

「日付が変わる前に王都の邸宅に入れるかどうか、微妙なところですね」

「仕方ない。昼食は、諦めよう」

「う~ん。軽食を用意して貰って、馬車の中で簡単に済ませる事にしますか...」

「であれば、行けるか?」

「はい、たぶん。何とか、夜の少し遅い時間までには到着するでしょう」

「分かった。では、その段取りで頼む」


 アレクが、スッと立ち上がり、馬車の手配など出発準備のため、食堂から出て行った。

 そして。

 その後すぐ、ほぼ入れ替わるかのようなタイミングで、領主館の伯爵家プライベートゾーンを切り盛りする筆頭メイドのヴェネッサさんに連れられて、見た目は小綺麗になったもののヘロヘロ状態が増し増し状態になったジェシカさんとグレンダさんの二人が、食堂へと入って来た。


「ヴェネッサさん、ありがとうございます」

「いえいえ、お安い御用ですよ」

「やっぱり、経験豊富な女性でないと、ご令嬢と侍女見習いを仕立て上げるのには無理があったようですね」

「あら、そうでも無いですよ。アレクサンダーさんも、それなりには仕上げられていたので、微調整のレベルでしたわ」

「いや~、ヴェネッサさん達にお任せする前に比べると、明かに本物っぽくなりました」

「おほほほほ。アルフレッド様も、お上手だこと」

「いやいや、本当に」


 田舎育ちのほのぼの令嬢と、ドジっ子メイドの侍女見習い。

 今のジェシカさんとグレンダさんであれば、黙って座っていれば、そう見えなくもない程の仕上がりだった。

 ジェシカさんは、お肌や髪が磨き上げられ、衣装から小物や髪型までコーディネイトされた品の良いお嬢様、になっている。

 グレンダさんは...。お肌や髪は磨き上げられているが、衣装はそのまま、だった。

 いや、よく見ると、フリフリでひらひらな可愛らしいメイド服も、ボタンやレースなど細かい所で魔改造がされて高級化しているような...。


「グレンダさんの衣装は、なかなか斬新で可愛らしかったので、コンセプトはそのままにして皆で少し手を入れましたの」

「はあ」

「もう一着の方は、少しお借りして、類似の衣装を作るための型紙取りをした上で、同じような加工を施して、明日にでも王都の邸宅の方へお届けする予定になっております」

「そ、そうですか...」

「あっ。申し訳ありません。昼食の方は今からの準備になりますので、あともう少しお待ち下さい」

「えっと、ですね。ヴェネッサさん」

「はい。何で御座いましょうか?」

「申し訳ないのだが、私たちは、この後すぐに王都へ向けて出発する事になったので...」

「そうでしたか。アレクサンダーさんが此処に居られないのは、その準備に行かれた、と」

「はい、そうなんです」

「承知致しました。それでは、急ぎ、サンドイッチなどご用意させて頂きます」

「何から何まで急がせて、申し訳ない」

「いえいえ。アルフレッド様も、アーチボルド様のお相手は大変でしょうが、頑張って下さいまし」


 くるりと(きびす)を返して、ニコニコとご機嫌な笑顔でキッチンの方へと急ぎ足で向かう、ヴェネッサさん。

 俺は、そんなヴェネッサさんを見送ってから、振り返って食卓の方へと視線を向けた。

 ぐったりと放心状態で食卓の椅子に座っているジェシカさんとグレンダさんに、この後の予定を告げるために。


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