9. (後編)
辺境の砦の、現在は作戦室と化しているこの砦で一番広い会議室。
部屋の中央に設置された大きなテーブルの一角、窓際の席がある方へと、俺は、ゆっくり歩みを進める。
敢えて些か奇抜な格好をし、幻覚魔法まで駆使してド派手なピンク色に染めた髪をツインテールにした女性と、チャラい感じはするが普通の剣士のように見える男性。
一見するととても領都からの増援とは思えない、ユニークな二人組の冒険者さん達に、俺は、にこやかな笑顔で歩み寄りながら、声を掛ける。
「魔法少女さんと、剣士さん、かな?」
「「!」」
ギョッ、とした表情になる女性。
ポカン、と口を開けたままになる男性。
ははははは。
やっぱり。この世界では、アニメのキャラはメジャーじゃ無い、ようだ。
しかも、魔法少女。
俺の趣味ではない、と敢えて強調したいのだが、不必要に露出が多くキラキラひらひらした衣装に何故かド派手なピンク色の髪をツインテールにした姿、と来れば、これしかない、と思う。
誰だ? こんなカルチャーを、この世界に持ち込んだのは...。
「あ、あなた。し、師匠を、知ってるの?」
「?」
「こ、この、私の姿を魔法少女って見抜くということは、師匠の知り合いなんでしょ?」
「い、いや。たぶん、知り合いではないと思うんだが...」
「嘘よ! じゃあ、どうして、この格好が魔法少女と分かるのよ!」
「...」
「べ、別に、教えられないと言うなら、師匠の居場所までは聞かないわよ」
「...」
「師匠と、最後に、何処で会ったの?」
「...」
「そ、それは、いつ頃かしら?」
「...」
「え、ええっと。師匠は、お元気だった?」
「...」
「ね、ねえ。何とか言ってよぉ...」
最初の勢いは、何処へやら。
段々と、魔法少女さんは、半泣き状態になっていく。
その傍で、チャラい剣士さんは、唯々、おろおろとしているだけだった。
「あー。えっと、大変申し訳ないのだが。たぶん、私と君の師匠さんとは面識がない、と思う」
「...」
「知識として知っていただけで、私も、魔法少女の実物を見るのは初めて、なんだ」
「そ、そうなの...」
「ああ。ご期待に沿えず、申し訳ない」
「いえ。こちらこそ、ごめんなさい」
意外と、魔法少女さんは、素直な人だった。
その横で、あわあわしているだけのチャラい剣士さんは、意外と純朴そうだ。
「ね、ねえちゃん」
「わ、分かってるわよ!」
どうやら、この二人は、姉弟だったようだ。
臨時の作戦会議らしく、俺を放置したまま、何やらヒソヒソと小声で、話し合いを始めた。
そんな二人を、見るともなしに見ていて気付いたのだが...。
よくよく見ると、魔法少女の衣装には、涙ぐましい工夫の跡が見えた。
この世界にはビニールのような素材はなく、蛍光色の生地もないため、庶民が着ているのと大差ない普通の生地を染めたり加工したりして、それらしい雰囲気を出している。
それに、一見すると露出が多いように見えた衣装だが、よくよく見ると肌色っぽい色に染めた布を随所に工夫して使い、この世界の女性としても破廉恥とは言われない程度には素肌を隠していた。
う~ん。よく出来ている。
などと。感心していると、話し込んでいた二人の冒険者が、シャキッと姿勢を正した。
ピンと背筋を伸ばした魔法少女が、予備動作なしで、いきなり、追加の幻覚魔法を発動。
何処からともなく取り出してみせた、魔法のステッキを右手に、ビシッと決めポーズ。
続いて。
魔法少女の全身が一瞬輝いたかと思うと、彼女の衣装が、キラキラひらひらでピカピカの魔法少女らしい衣装へと、変化した。
俺は、思わず、おおぉ~と感心して、心の中で拍手。
「失礼致しました。私は、ローズベリーの街の冒険者ギルドに所属する、B級冒険者のエカテリーナ。魔法使いよ」
「俺は、同じくローズベリーの街の冒険者ギルドに所属する、B級冒険者のデューク。剣士だ」
慣れた感じで、弟君の方には半分諦めの境地も垣間見えたが、ビシッと自己紹介を決める二人。
そんな二人の一発芸(?)に心の中で拍手喝采しながらも、俺は、威厳を取り繕いながら、こやかに挨拶を返した。
「こちらこそ、変な期待をさせて申し訳なかったね。私が、今回の魔物討伐の依頼人になる、アルフレッドだ。よろしく」
「「...」」
「先日、爵位を引き継いだばかりなんだが、まあ、今回の騒動の当事者である辺境伯という立場で、今回の討伐にも参加する事になっている。魔法使いが主体になるが、剣士でもある」
そんな、俺と冒険者さん二人が和やか(?)に挨拶を交わしている場に、アレクが合流。
勿論。ラヴィニアさんとミッシェルさんも、一緒に。
「私は、アレクサンダーだ。アルフレッド様の補佐役を仰せつかっている。剣士だ」
「ラヴィニアです。回復系の後方支援を、担当させて頂く予定です」
「ミッシェルです。防御系の後方支援を、担当致します」
こうして。荒野への探索も兼ねた討伐隊の、パーティーメンバーが揃ったのだった。




