8. (中編)
リチャードさんによる現時点での状況説明を聞いて、微妙な表情になった養父殿。
そんな養父殿を見るリチャードさんは、何やら思案顔で、口を閉じたままの待機状態。
養父殿は、この場に集まっている三人の顔を、リチャードさん、アレク、俺、と順番に見る。
「砦の守備戦力は十分に確保できそうだが、荒野に送る調査隊の人員は十分な手当を出来そうにはない、という事か...」
「御意」
「う~む。増援の隊長クラスに、個人技に秀でた者は居るか?」
「いえ。私の把握する範囲内では、特には」
「騎士クラスで使えそうな者は、領都から呼べそうに無い、か...」
「左様でございます」
「確保した冒険者の実力は?」
「癖のある人物ながら、実力はある者達なので戦力にはなる、と想定しております」
「うむ。職種は?」
「魔法使いと剣士。二名構成のパーティだと、聞いております」
「そうか...」
養父殿が難しい顔をして、考え込む。
リチャードさんもまた沈黙状態になり、アレクも無言のまま。
仕方がない、か。
「ご隠居様、何点か確認させて頂いても良いですか?」
「儂は、隠居などしておらん」
「...」
「まあ、良い。で、何だ?」
「えっと。昨日のような、小物が大多数とはいえ、魔物が視界を埋め尽くすほどの襲来は、過去に例のない事態、なんですよね?」
「ああ、そうだ」
「過去の魔物による襲撃は、災害級など大物の魔物とそれに付き随う魔物の群れによるもの、だったと?」
「そうだ。過去に何度かあった危機は、例外なく、北の山脈から南下して来た一体もしくは数体の強力な魔物によって起こされておる」
「けど、今回は、まだ、上級の魔物すら一体も現れていませんよね?」
「そう、そこが問題だ。あれだけの数が押し寄せて来たにも関わらず、中級ですら十体に満たない少数しか居なかった」
「はい」
「しかし。現時点では、第二波が押し寄せて来る気配も、ない」
「アレク、荒野に何か変化は?」
「特に御座いません」
「そ、そうか」
「つまり。今回の異変が、昨日の襲撃で終わったとは思えん」
「御意」
「「...」」
「よって。選択肢は、二つ」
「「「...」」」
「一つは、このまま守備を固めて、警戒態勢を維持。もう一つは、最大戦力を揃えた少数精鋭で、討伐隊も兼ねた探索隊を荒野に派遣する」
「ですよね...」
「「...」」
「通常であれば、儂が討伐隊を率いて即座に出撃するの一択だが、今回は、色々と課題があるので、判断に迷っておる。当然、儂は、留守番が確定。出撃する場合の指揮官は、アルになる」
「そうですよね...」
「アルの伯爵としての初陣となるが、現時点では、あまり条件が良いとは言えん」
「...」
「そこで。判断は、お前に任せる」
「そ、そう、ですか...」
「「...」」
「シャキッとせい!」
「はい!」
「分かっているとは思うが、万全の準備もなく猪突猛進するのは愚策で、後手に回ると被害拡大で泥沼、だ。よくよく考えるように」
「...はい」
「では、解散。決定した方針に基づく具体的な作戦会議は、この部屋で、夕食後に」
「御意」
「承知致しました」
「...」
養父殿にひと睨みされ、リチャードさんに追い立てられ、アレクに引き摺られて、俺は、養父殿の寝室から辞去した。
ま、まあ。即断即決での行動が必要とされる状況なのは分かっているし、入手可能で必要な情報は全て揃えられているので、あとは決断するだけ、なんだが。どちらを選んでも、養父殿からダメだしされそうで...。
屋敷の廊下を自室に向かいながら、前を歩くアレクに声を掛けるタイミングを計る。
養父殿は自室で夕食を取ることになるだろうから、夕食時にアレクと相談するのも有りだが、詳細を検討する前にアレクの意見を聞いておきたい、とも思う。
どちらにせよ、現状での待ちは無し、と考えているので、愚策と言われないための策を考える必要がある。
それに、何となく、養父殿には隠し玉があるような...。
「なあ、アレク。お前はどう思う?」
「...」
「少数精鋭での探索隊を組むとなると、俺とアレクに領都からの冒険者二名を加えた四名に、連絡要員として兵士の中から数名を連れて行く、くらいしか選択肢はないと思うんだが...」
「...」
「アレクと冒険者の一人が剣士で、俺は魔法剣士で、冒険者のもう一人が魔法使い、なんだよな」
「...」
「俺も多少は回復系の魔法も使えるので何とかなるとは思うが、パーティと言うには支援系が不足している、よな」
「...」
「おい、アレク。何とか言えよ」
何故か、アレクは無言で、何やら責める様な目つきで俺を見る。
はて?
カタッ。
俺の後方で、アレクの視線の先にある辺りの部屋の扉が、静かに開いた。
そして。
遠慮がちに、顔を覗かせた女性が、こちらを見る。
「あの、伯爵様」
「はい、何でしょうか?」
「お嬢様が、少し、お話ししたいそうなのですが、宜しいでしょうか?」
後方からのアレクの視線が痛い。確実に、ジト目、だ。
どうやら、俺は、やらかしてしまった、らしい。
困惑顔の女性、ロンズデール伯爵家の令嬢であるラヴィニアさんの侍女さん、ミッシェルさんに、俺は、心もち引き攣り加減となっているであろう笑顔を向けたのだった。
「ええ。勿論、構いませんよ」
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
また、ブックマークと評価、本当にありがとうございます。もの凄く、励みになります。
少しお話の区切りが悪いので、明日も、連続で投稿します。
遅筆なため、ストックがあまり無いので、今後の投稿間隔に影響が出るかも、ですが...。
宜しければ、まだの方は、この右下の辺りにある「ブックマークに追加」を、ポチっとして頂けると幸いです。引き続き、よろしくお願い致します。