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7. (後編)

 魔物の見分を十分に堪能し、今後の対応方針にも踏ん切りをつけて、俺は、横で静かに(たたず)んでいたアレクに、無言で合図を送る。

 アレクが、冷静な目で俺を見てから、俺達の後方に控える当番兵の一人の方へと振り向き、口を開く。


「アルフレッド様と私は、下に降りるので、数名で四方の警戒を継続。些細な点であっても何か変化があれば、直ぐ様、報告の伝令を走らせるように」

「はっ。承知致しました!」


 直立不動で敬礼する兵士たちに頷いてから、俺は、アレクと共に、物見台から階下へと降りて、辺境の砦の心臓部とも言える指令室へと向かう。

 この砦の指令室は、砦の中心部にあり、平常時は閉鎖されているのだが、現在は解放され、警備の兵士が数名と、魔法能力の比較的高い者と指揮官クラスが各一名以上、常時、詰めている事となっている。

 そして。指令室には、この砦の肝でもある重要な設備、防御結界を起動し維持している魔法具が、設置されているのだ。

 俺は、指令室に向かって早足で歩きながら、アレクに、先程熟考した結論である今後の予定案を説明するため、口を開く。


「防御結界は、あと、どれくらい維持できると思う?」

「緊急信号を上げると同時に起動したとして、もう十五分程は経過しているし、あの様子だと負荷もかなり掛かっているのだろうから、そうだな、あと二十分が限界、だろうな」

「そうか。であれば、防御結界の魔法具に、俺が、魔力を最大限まで注ぎ込む」

「お、おい。大丈夫なのか、アル」

「まあ、大丈夫だろう」

「おいおい。どうせ、この後、迎撃に出るつもりなんだろが。そんな余裕、あるのか?」

「ははは、バレたか。まあ、魔力が尽きたら、剣を振り回せば良いさ」

「よく言うよ。お前は、剣技よりも、魔法を加えた複合技が売りだろうが...」

「まあ、な。とは言え、防御結界は数日間は展開したままで維持する必要がある、だろ?」

「ああ。そうだな」

「となれば、やはり、俺が適任だ。病み上がりのご隠居様にこれ以上の無理をさせる訳にはいかない、からな」

「...」

「まあ、どうにかなる、さ」


 基本方針についてアレクの同意も得られて一安心したタイミングで、物々しい雰囲気で警備する兵士たちのお陰で少し狭苦しくなっているこの砦の指令室の入り口が、見えた。

 扉前に立つ警備の兵士たちからの敬礼に頷き、足早に指令室へ入ろうとすると...。


「アル! 状況はどうなっておる?」

「え、ええっ? ご、じゃなくて、養父殿、大丈夫なんですか?」

「非常事態だ、仕方ない。で、状況は?」


 反対側の通路から、指令室に向かって豪快に歩いて来たご隠居様から、ギロリと睨まれる。

 今日のご隠居様は、だいぶ顔色が良いからか体調も良さそうに見え、いつも通りに威圧感も半端ないのだが...。


「物見台から見渡す限り、魔物で埋め尽くされていて、防御結界で何とか押し留めている状況です」

「そんなにか」

「はい。ただし、魔物は低級に分類される小物が大多数で、稀に中級が混じっている程度ですので、囲まれない限り退治するのも然程(さほど)は困難でない、と思います」

「う~む」

「魔物たちは、何かに追い立てられたのか、興奮してこちらに押し寄せてはいますが、大技を連発してある程度まで押し返せば、蜘蛛の子を散らすように分散して荒野に戻っていく、と思います」

「出来るか?」

「はい。お任せ下さい」

「だが、何処からどうやって討伐を開始するかが、問題だな」

「ま、まあ、そうなんですが...」

「策はあるのか?」

「はい。東側に追い立てると後が面倒なので、魔の森がある西側に追い立てるため、防御結界の東の端の方に回って、私が単騎で出ようかと考えていたのですが...」

「まあ、悪くはない、が。物見台から見渡す限りに埋め尽くしている状況では、インパクトに欠けて(いささ)か時間がかかりそうだな」

「はい。と言って、現状では、仮に物見台の上から魔物のど真ん中に飛び出せたとしても、押し負けた際の逃げ場がないので、流石に私でも躊躇(ちゅうちょ)します」

「うむ。押し負けなければ良い、という事だな」

「いや、まあ、無理ですよ?」

「そうか? 儂が万全であれば、問題ないぞ」

「いや、まあ、もう少し慎重に、ですね」

「うむ。では、その手で行こう」

「...」


 俺は、思わず、アレクの顔を見た。

 アレクも、俺の顔を見て、困惑の表情。


「ま、まあ。それはさて置き、まずは、防御結界の魔法具に魔力を注ぎ込みますね」

「いや。それも、儂がやろう」

「養父殿、あまり無理をされては...」

「どちらにせよ、この魔物の群れを片付けた後に、北の山脈方面への探索をお前にやってもらう必要があるので、魔法具の魔力は儂のものにしておかねばならん」

「えっ? そうなんですか?」

「魔法具を満たす魔力の持ち主が管理者となり、管理者は魔法具からあまり離れられん」

「...」

「まあ、裏技がない訳ではないが、今回まで、儂がやろう」

「しかし...」

「アル、アレク、ついて来い。魔法具の正しい使い方を、教えてやろう」

「「...」」


 俺とアレクは、またもや顔を見合わせてから、さっさと指令室に入って行く養父殿の後に続いた。

 養父殿は、テキパキと指令室に詰める兵士たちに指示を出し、防御結界の発動と維持を担う魔法具に、何やら付属機器を取り付けさせる。


「良いか。アル、アレク」

「「はい」」

「この魔法具への魔力の注入は、これまで何度も見せたから分かるな?」

「「はい」」

「普段は、維持管理用に消費した少しの魔力を補充するだけだが、今回の様に一気に充填する場合には、効率が良いのでこの形態にして行う」

「「...」」

「ふんっ!」


 養父殿が、一気に、魔道具に魔力を注ぎ込む。

 心なし、養父殿の顔色が悪くなった、ような気がする。


「そして、この魔法具には、こういう使い方もある。よく見ておけ」

「「?」」


 養父殿が、強烈な炎のイメージを纏わせた膨大な魔力を掌に()った、ように見えた。かと思うと、即座に、問答無用で、その魔力の塊を魔法具へと一気に叩き込んだ。


 ズドドドッ~ン。


 砦と東西に続く城壁に沿って荒野の方向へと、衝撃波が走る。

 砦の建物が、揺れる。

 多数の魔物たちの断末魔の叫びが、(とどろ)く。


「なっ」

「グフッ。...防御結界から、五メートル程の幅で、魔物が、ぶっ飛んでいる、筈だ」


 淡々と状況説明をする養父殿の口から、血が垂れたかと思うと、吐血する。


「アレク。養父殿を...」

「大事無い。それよりも、アル!」

「はい!」

「これで、物見台の上から魔物のど真ん中に飛び込んでも問題なかろう。魔物はいつまでも待ってくれん。さっさと行ってこい!」

「分かりました。アレク、後は頼む」

「任せろ」

「とっとと行かんか!」

「はい!」


 俺は、砦の中を物見台へと向かって、全速力で走る。

 全速力で階段を登り切り、物見台に躍り出て、その勢いのまま、砦から空中へと飛び出す。

 風の魔法を補助に使い、軽やかかつ飛び出した勢いを維持したまま、魔物が一掃された荒野に着地。

 荒野に降り立ったその勢いのまま、更に全速力で、目前の魔物の群れへと向かって走る。

 そして。走りながら鞘から剣を抜き、剣に魔法で膨大な炎を纏わせ、全力で横薙ぎに振り回した。


 ズババッバッ~ン。


 俺を中心に俺の前方百八十度の範囲で、十五メートル程の半円を描いて、魔物たちが消滅する。

 俺は、剣を片手に、魔物たちの群れのど真ん中へと向かって次々と飛び込み、周囲の魔物を蹴散らしていくのだった。


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