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1. (前編)

 この作品に興味を持って下さり、ありがとうございます。


 【改訂版】を掲載しています。( https://ncode.syosetu.com/n4400fv/ )

 これからお読み下さる方は、お手数ですが【改訂版】の方への移動をお願い致します。こちらに掲載のお話は全て【改訂版】の掲載を完了しています。

 【改訂版】では、文章は色々と加筆修正しましたが、お話の展開などに大きな違いはありません。たぶん。

 遥か彼方(かなた)にある険しい山脈と、目の前に広がる荒れ果てた不毛の大地。

 左右に長々と続く、彼方(あちら)此方が崩れた大人の腰ほどの高さしかない石積みの城壁。

 そして、今、俺たちが立っている、遺跡のような(たたず)まいを見せる辺境の砦。

 俺がお世話になっているお屋敷から、馬で十分ほど駆けただけで、そんな場所に辿(たど)り着く。

 それ程までに、ここは、厳しい世界だ。

 特に何か用事がある訳ではないのだが、この荒野とローズベリー伯爵領に属す辺境の村落とを(へだ)てる砦に馬を駆けて訪れるのが、最近の俺の日課となっている。


 遥か彼方の険しい山脈の(いただき)と岩や雑草しか見当たらない荒野を、砦の物見台から見るともなしに眺める。

 今日も特に変わったところはなく、ここには、静寂が立ち込めていた。

 が。ふと、微かな物音というか気配のようなものを感じて、振り返る。と、最寄りの入植地や屋敷がある方角から此方に、一頭の馬が慌てた様子で駆けて来るのが見えた。

 まだ豆粒のようなサイズでしか見えないその馬を駆る人物を見て、友人であり俺の従者でもあるアレクが、眉をひそめた。


「アル。何か、起こったようだ」

「ん? あれは、俺たちへの知らせ、か」

「ああ。屋敷の衛士、だと思う」

「そうか。誰だと思う?」

「...ディック、だな。かなり、慌てているな」

「う~ん。ディック、という事は、リチャードさんの使いかな...」

「ああ。うちの爺様に、何か、指示されているのだろう」

「そうか。じゃあ、急いだ方が良いよな」

「ああ。そうしてくれ」

「分かった。じゃあ、行こうか、アレク」


 俺は、アレクを(うなが)して、砦の物見台から下の階へと降りる。

 物見台の階下にある控室的な部屋を通り、砦の外、馬を繋いでおいた場所へと向かう。

 途中ですれ違った砦に詰めている馴染(なじ)みの当番兵には、軽く挨拶をして、俺達が退去する旨を伝えたので、代わりに誰かが物見台へと登ることになるだろう。

 ここ何年かは全く平和なものだ、と皆から聞いてはいるが、この場所での警戒と警邏は必須だ。

 この世界は、残念ながら、人にそれほど優しくはない、のだから。


 砦の外に出て、それぞれ自分の馬に乗ったタイミングで、衛士のディックが到着した。


「アルフレッド様、アレク様。至急、お屋敷にお戻り下さい!」

「ご苦労様」

「ディック、何があった?」

「伯爵さまが、倒れられました!」

「は?」

「急ごう、アル」

「お、おう。当然だ」

「ディックは、少し休め。先に戻る」

「い、いえ。私も」

「どうせ、俺とアルの馬にはついて来れまい」

「そ、それは、そうですが」

「アレク、先に行くぞ」

「ああ。飛ばせ、アル」

「お、おう。遅れるなよ、アレク。行くぞ!」


 俺は、無我夢中で、馬を()って屋敷へと向かった。

 伯爵が、ローズベリー伯爵が倒れた、って、どういう事だ?

 今朝まで、あんなにピンピンしてたのに。

 いや。最近になって、多少具合の悪そうな素振りを垣間見せることが度々(たびたび)あった、ような気もする。

 気もするのだが、何となく信じられなかった。いや、信じたくない、というべきか...。


 * * * * *


 屋敷とは言っているが、要塞のような威容を周囲に示す、王国の北方を守護する辺境伯のための堅牢な城壁に囲まれた飾り気のない建屋の敷地に、馬で駆け込む。

 馬は厩舎(きゅうしゃ)に返し、屋敷の中でも正面玄関から少し奥まった場所にある、伯爵の寝室へと向かう。

 屋敷の規模の割には少ないながらもそれなりの人数がいる筈の使用人や騎士や衛士たちに出会うこともなく、俺とアレクは、伯爵の寝室の扉の前へと着いた。


 コンコン。


 (はや)る気持ちを(おさ)えて、頑丈な造りの立派な扉をたたく。

 音もなく、すうっと扉が開き、伯爵家の執事でありアレクの祖父でもあるリチャードさんが、無言で部屋の中へと招き入れてくれた。

 俺は、恐る恐る、伯爵の寝室へと入る。

 俺とアレクが部屋に入ったのを確認すると、リチャードさんが、静かに扉を閉めた。

 窓のカーテンが閉まっているためか、部屋の中は薄暗い。

 俺は、目が慣れるのを見計らってから、部屋の奥にある伯爵のベッドの(そば)へと進む。


「戻ったか」


 ローズベリー伯爵が、語るように落ち着いた口調で俺たちに声を掛け、起き上がろうとする。

 リチャードさんが、素早く伯爵のベッドの脇へと移動し、伯爵を軽く支えながら枕などで背凭(せもた)れを整える。


「想定よりも(いささ)か早いが、致し方ない。リチャード」

「はっ」

「計画を、前倒しで開始する」

「承知致しました」

「完璧に整えて、と考えていたのだが、多少の不確定因子もあった方が、面白かろう」

「御意」

「では、準備の仕上げを頼む」


 リチャードさんが、伯爵に一礼して、部屋を出ていく。

 そして。

 この部屋には、俺とアレクの二人が残された。


「アルフレッド」

「は、はい」

「うむ。とっさの反応には、まだまだ改善の余地があるな」

「...」

「まあ、良い。それもまた人柄、だろう。アレクサンダーの補助に、期待しよう」

「はっ。お任せ下さい」

「ふん。お前も、まだまだ、経験が足りん」

「申し訳ございません」

「まあ、贅沢を言っていては(きり)がない。今後の成長に期待するとするか」

「「...」」


 倒れたという話は何処に行ったのか、いつも通りに手厳しい、ローズベリー伯爵閣下だった。


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