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ケモノビト  作者: 光月
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誕生日パーティに吹き荒れる嵐


「基本6種を備えた人間ですら稀……なのだがな」


 シーナ母上は未だに現実か幻か判別しかねているような面持ちだ。


 まあ、それも仕方のない事かも知れない。

 この2年、オレも勉強をして知ったのだが、フレイ姉上のような『エレメンタラー』でさえ、10年に1度でも生まれれば奇跡らしい。

 だから、つまり、オレという存在は幻みたいなものなんだろう。


 これが神様の言っていた『はからい』なのかはわからないが、きっとそうだろう。

 少なくとも、『最強に至れる潜在能力』が示されたのは確かだ。

 あとは、オレ次第……だな。


「父上、母上、それにアルシェーラ先生。なにも、そんなに深く考える事ではないはずです」

「何を言う、アルマ! これはそんな簡単な事では――」

「いいえ。至極簡単な事です。……例えば、人に剣を持たせても、使い方を知らなければただの棒を手にしているのと変わりません」

「……そうだな」

「同じように、オレにどのような素質があろうと、その素質を力にして振るえなければ、素質があるだけのただの人です」

「その通りだ」

「そして、オレは、表示されている適性こそ幻のようでも、やれる事はフレイ姉上とそう変わらないはずです。違いますか?」


 アルシェーラ先生、父上、母上に視線を向けながら言うと、しばらく沈黙が流れた後、『そうだね』と父上が口を開いた。


「まったく、私達は何を考えていたんだろうね」

「レオン!」

「シーナ。アルマの言う通りだよ。それに、私達はフレイ、レンカ、ライカ、アルマを教え導く立場だ。たとえ今までに見た事がない人間だったとしても、アルマはまだ魔法の扱い方さえ知らない……知らない、よね?」

「……………」


 勉強はしていたから魔法の扱い方は基本なら知っているので、父上の問い掛けには曖昧スマイル(日本人の伝家の宝刀)で返しておく。


「ん゛んっ……! とにかく。どんな素質を持っていても、アルマはアルマだよ。私達はアルマの人生の手伝いしか出来ない。アルマの人生は、アルマのものだからね」


 考えたくなかった事実を誤魔化すように咳払いをして父上が言う。


「……そうだな。やれやれ、我が子ながら、途徹もない傑物が生まれたものだ」

「くくく……しかし、なあ。これは、なかなかに教え甲斐がありそうじゃないか」

「アルシェーラ。笑い事ではないぞ」

「そう剣呑な目付きをするな。とにかく、今は、アルマはとんでもない奴だとわかっただけ御の字だ。それより、ほら、パーティを始めろ。今日はそのアルマの誕生日だろう」

「そうですよ、母上。オレもいい加減にお腹が空きました。食べましょう?」

「アルマ……。まったく、人の気も知らないで、お前という子は……」


 母上が困ったように苦笑を浮かべ、優しく頭を撫でてくる。


「しかし……そうだな。私も腹が空いた。食べるとしよう」


 そう言った母上に手を引かれ、テーブルの上座に腰を落ち着ける。

 普段は父上の席だが、誕生日のパーティだったり何かの祝い事の時には、その時の主役が上座に座るのが我が家の慣習だ。


「……では。アルマの3度目の誕生日と、その身体に宿った素質を祝い、神に感謝をして――」

「「「いただきます」」」


 我が家では最早通例となったセリフを口にする。合掌ももちろん忘れない。

 これは、オレが2歳の頃に前世の癖でやってしまった事なのだが、意味を説明すると父上と母上が妙に感動して、今では、食事の前に『いただきます』、食後に『ごちそうさま』は当たり前になってしまった。


「ふむ? なんだそれは?」

「これは、アルマが始めた事でね。食事の前には『いただきます』、食後には『ごちそうさま』と言って、食材やその生産者、料理人にも感謝の意を示す行為だという話だよ」

「ほお……! アルマは優しい子だな」


 アルシェーラ先生が眩しそうに目を細めながらこちらを見る。

 いや、前世の癖っていうか、ずっとやってた事だし……? そんな評価をされるような事では……。


「いえ、その、別に褒められるような事じゃ……」

「何を言うんだい、アルマ。私達人間は、普段、何気なく生活しているけれど、こうしてここに並んだ料理だって、作る人、調理する人がいなければ並ばないんだよ?」

「その通りだ。そして突き詰めれば、草食の獣や肉食の獣、植物、水、空気……様々なもののうち1つでも欠けていれば、成り立たないのだ」


 母上まで乗ってきただと……!?


「くくく……いやまったく、その通りだな。素晴らしい行為だ、アルマ」

「でも、アルマはそれだけじゃないよ!」

「そうだな……使用人達にも優しいしな」

「俺のような武骨な人間にも屈託ない笑顔を向けてくれるからな」


 姉上達まで参戦した!?

 ……いや、というか、ライカ兄上。それは、そういう顔しか出来なかったからでは?

 今はほら、あれだよ? 感情豊かになったから、軽蔑するような顔も出来るよ?

 笑顔と真顔と泣き顔だけが全ての時期は終わったんだからね?


「と、とりあえず食べよう? ね?」

「ああ、そうだね、アルマ」

「うむ。いただくとしよう」


 父上と母上が話を切り上げたので、姉上達もそれに倣って話をやめる。

 そうしたら、まずはオレが料理に手をつける。

 こういった場では、まず、その場の主役が料理に手をつけ、それから他の家族が手をつけるというのがクラウディウス家の習わしである。


 という事で、早速目の前にあるスープを一口飲む。

 オレは生憎と料理人の家系の生まれではないし、前世でも濃い味好きな現代っ子だったから味の機微がわかるわけではないのだが……。

 ただ、美味い事だけは確かだ。

 風味は……なんだろう。鳥っぽいような気がするのだが、具体的な事は何も言えない。

 しかし、さっぱりとした後味で、結構好みだ。


「美味しいかい?」

「はい、父上」

「そっか。では、私達も食べよう」


 父上の言葉で、それぞれが思い思いに食べ始める。

 母上やレンカ姉上、ライカ兄上は、飽くまで黙々と料理を口に運ぶ。ただ、口の端がちょっとつり上がってたりするから、幸せそうで何よりだと思う。

 フレイ姉上は一番上の姉弟という事もあって努めて淑やかに食べているが、スピードが早い。

 父上はそれらを眺めながらゆったりと食を進めている。

 アルシェーラ先生は、にこにこしながら食べているのを見る限り、料理は口に合ったんだろう。


「……そうだ、アルシェーラ。アルマの心優しいエピソードは今のだけではないんだ」

「そうなのか。ふふ。せっかくの新たな生徒の事だしな、詳しく話してくれ」

「うむ。まずはな――」


 母上の言葉によってさっきの会話が舞い戻ってきた。

 オレとしては物凄く気恥ずかしいので、是非にもやめて欲しいのだが、幸せそうに語る家族を見ていると、そんな無粋な事は言えそうにない。


「でな、その時――」

「……なるほどなぁ。いやはや――」

「それだけじゃないよ。他にも――」


 人の口に戸は立てられぬ。

 昔の人はよく言ったものだと感心する。

 でも、こう、出来れば程々でやめて欲しい……かな。



 その日、オレ、アルマ・クラウディウスは1つの死を迎えた。

 褒め殺しである。

 家族からの称賛の嵐の中、いつの間にか使用人達が混ざって、最早手のつけられない事態になったのだ。

 いっそ殺せ、と、齢3歳にして思ってしまったのは、仕方のない事だと思いたい。

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