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ケモノビト  作者: 光月
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魔導の力 その素質


 端的に言って、『マグナ魔法大全』は想像以上の代物だった。

 基本6属性、上位5属性、そして時空属性の魔法……それら全ての属性の魔法がびっしりと書かれていた。

 火の玉を生み出し射出して着弾と同時に爆発を生む『ファイアボール』や、いくらかの土の(つぶて)を任意の方向に直線に射ち出す『アースバレット』などの初級の魔法から、見えている範囲全てを氷漬けにする『アイスグランド』や、黒雲を招来して一帯に落雷を発生させる『サンダーフォール』といった上級魔法まで様々だ。


 それ自体にも驚いたが、他にも驚く事があった。

 というのも、さっきレオン父上が話してくれたのとは別に、『無属性魔法』なるものがあったのだ。

 ただ、これは厳密には魔法ではなく魔力操作の延長にあるものらしく、例えば、剣や盾を実体化させた魔力の腕に持たせて自らは杖を手に戦う、というような事をする時に使うらしい。


 まあ、使うとは言っても、それ自体は単に戦い方というだけなんだけども。

 ともあれ、魔力操作を自由に出来ないと無属性魔法には繋がらないらしく、実際に使えていたのはマグナという国が興るより遥か前に生きた人だけだったそうだ。


「むぅ……アルマ、わかるか?」

「あい」

「そうか。……うん。私にはまだ少し読めない部分もあるな」


 レンカ姉上は現在7歳。地球で言えば、小学校2年生くらい。読めない部分があっても仕方ないだろう。

 対して、オレはまったく問題なくスラスラ読めている。異世界転生スターターパックがようやく仕事をしてくれているみたいだ。


「……ああ、これは読めるな。時空魔法『クロックドライブ』か」


 時空魔法『クロックドライブ』。

 マグナ魔法大全によれば、この魔法は一時的に発動者の周囲の時間を止める……ように見せかけて、その実、発動者の時間の進みを速くして、擬似的な高速移動を可能にする魔法らしい。

 効果時間は習熟度によって変わるが、最初の頃は5秒も効果が出れば御の字だとのこと。


 馴染みのありそうな言葉と仕様に言い換えるのなら、『クロックアップ』が該当するだろう。

 バッタをモチーフにしたヒーローでお馴染みのヤツだ。『クロックアップ』が出てきた作品は、カブトムシがモチーフだったけど。


「時空魔法か。アルマ……アルマは、どの属性に適性があるんだろうな?」

「うー?」

「ははは。わからないよな。私にもわからないから、アルマにわかるはずもないか」

「あい」

「しかしな、アルマ。お前が3歳になった時、それもわかるんだ。というのも、3歳になると自分の属性適性をまず調べるんだ」


 そうなのか。

 いや、でも、一体何のために? そりゃあ、適性のある属性がどれなのかわかってれば苦労はしないんだろうが……。


「ふふ。不思議そうな顔をしているな。まあ、別に難しい話じゃない。単に、3歳から魔法の具体的な訓練が始まるんだ。そのための適性調査だ」


 ああ、なるほど。

 まあでも、それはそうか。このマグナ公国は謂わば魔導大国。幼い頃からの魔法の英才教育なんて、普通の事か。


「ちなみにな。私達クラウディウス公爵家には、専属の魔法の先生がいるんだ」

「あう?」

「アルシェーラ・クラヴィスという先生なんだが、母さんの友人なんだそうだ。『大魔女』と呼ばれる凄い先生なんだ」


 へえ……! へえ! なんか凄いワクワクしてきた!

 母上の友人で『大魔女』なんて大仰な二つ名が付いているという事は、とんでもなく魔法に精通した人に違いない。

 そんな人がクラウディウス家の専属の魔法教師! こんなのにワクワクしない人間がいるだろうか? いや、いない……!

 あー、早く3歳になりたいなー……もっと早く成長しないかな、オレ。

『クロックドライブ』を使えば成長が早くなったりしない? ……しないよな。そんなウマイ話があるわけがない。


 まあ、今はまだ魔力の扱いも上手くないし、3歳まで気長に待とうかな。

 アルシェーラ・クラヴィス……どんな人なのかなぁ……?



   ◆



 オレがレンカ姉上と『マグナ魔法大全』を読んでから、2年の歳月が経過した。

 当時は1歳の若造だったオレも、今や3歳になった。……そう。ようやく魔法の本格的な訓練が出来るのだ! 凄い先生の下で!


「アルマ。3歳の誕生日、おめでとう」

「ありがとうございます、父上。父上達や屋敷の者のおかげで、アルマ・クラウディウス……無事に3歳の誕生日を迎える事が出来ました」

「……まったく。聡い子だとは思っていたけど、そんな言い回し、どこで覚えたんだい?」

「父上の書斎にあった本のどれか、だったかと」

「そっか……。いや、うん、そんな事を気にしていても仕方ないね。パーティの前に、アルマには会わせたい人とやって欲しい事があるんだ」

「アルシェーラ・クラヴィス先生と、魔法の属性の適性調査ですね」

「おや、もう知っていたのかい?」

「はい。2年前、レンカ姉上と一緒に初めてマグナ魔法大全を読んだ時に、教えてもらいました」


 オレがそう答えると、父上は驚きに目を見開いた。


「……そんな頃の事を、覚えているのかい?」

「はい。オレが生まれた日、父上が勢いよくドアを開けて部屋に入ってきた事も、しっかりと覚えていますよ」

「ははは、参ったな。そんな事も覚えているのかい? 本当にアルマは賢い子だなぁ。私も鼻が高いよ」

「……それで、父上。アルシェーラ先生はどちらに?」

「ああ、今、案内するよ。というより、みんな広間にいるんだ。もちろん、アルシェーラ先生もね」

「では、これ以上待たせるわけにはいきませんね。フレイ姉上が空腹で倒れそうです」

「ははは。そうだね。じゃあ、行こうか」


 柔らかく笑む父上の後に付いて、自分の部屋から廊下に出て、階段を降り、いつも食事をする時に使っている広間へ向かう。


「――誕生日おめでと、アルマ!」


 広間に入ると、元気っ子なフレイ姉上がそう言って飛び付いてきた。

 フレイ姉上も今や10歳。抱き締められているおかげで、僅かに膨らみ始めている胸が顔に当たっている。


「ありがとう、フレイ姉上。……胸が当たってるんだけど」

「当ててるんだよ!」


 もっと成長してから言って欲しかった……!


「フレイ、アルマからは少し離れているんだ。まだ、紹介も、しなければならない事も済んでいないからな?」

「……はーい」


 シーナ母上の言葉を受けて、フレイ姉上は身体を離すと残念そうにテーブルの自分の席に向かっていく。


 ここでようやく広間の全容が見えた。

 流石に地球での誕生日パーティのように豪華な飾り付けは無いものの、大きなテーブルの上には豪勢な料理が並んでいる。

 普通の食事ではまず見る事のない品々だ。


 そして、テーブルに着いているのはクラウディウス公爵家の人間と、もう1人。

 パッと見た感じは、中学2年生くらいの少女。

 長く、少しウェーブのかかった綺麗な銀髪と、それと同じ銀色の瞳。魔法使いっぽい黒のローブを着ていて……その人が、母上の隣に座している。


「さて、まずは紹介からしようか。アルマ。シーナの隣の銀髪の彼女が、『大魔女』アルシェーラ・クラヴィスだ」


 父上が紹介すると、アルシェーラ先生は椅子を下りてこちらにやってくる。

 そして、少しばかりオレを見つめると、口を開いた。


「初めましてだな。紹介に与った、アルシェーラ・クラヴィスだ。よろしくな」


 綺麗な声だった。

 口調は母上のようだが、決して武骨というわけではない。少しぶっきらぼうな感じはするが、それだけだ。


「初めまして、アルシェーラ先生。クラウディウス公爵家次男、アルマ・クラウディウスです」

「うん。姉達や兄と違って、礼儀のよく出来た賢い良い子だな。私の事は既に聞いていたか?」

「はい。2年前、レンカ姉上に教えていただきました。3歳からは、アルシェーラ先生の指導の下で魔法の訓練をすると」

「……2年前?」

「アルシェーラ。アルマは赤ん坊の頃の事を覚えているようなんだ」

「ほぉ……なるほどな。うん。賢い子は好きだぞ」


 アルシェーラ先生は心底嬉しそうに目を細めて言うと、頭を撫でてきた。


「髪はシーナ譲りの黒なのに、目は紅いな」

「クラウディウス家には紅眼の人間もいたみたいだから、先祖返りなんだろうね」

「そうか。……さて、じゃあ早めに済ませるか」


 そう言うと、アルシェーラ先生はローブの袖から1枚の金属プレートを取り出した。

 サイズはハガキより一回り小さいくらいで、銀色のそれには青い線が無数に奔り、そこに光が流れている。


「アルマ、これが何か気になるようだな?」

「はい。それは、なんなのでしょう?」

「これはな、人間の属性適性を表示してくれる魔導具だ。これを持って魔力を流せば、適性を持っている属性が全部表示されるというものだよ」

「じゃあ……」

「そうだ。ほら、これを持って魔力を流せ」

「わかりました」


 アルシェーラ先生から受け取った銀のプレートに、言われた通りに魔力を流してみる。


 どの属性に適性があるのかなぁ……。

 やっぱり、雷とか時空は使ってみたいよな。氷も心惹かれるし、風や水も便利そうだから使ってみたい。

 うーん、いっそ全部の属性に適性があればいいのにな……。それなら、色々思い悩む必要もなくなるんだけどなぁ。


「――え?」


 プレートに表示された文字に、呆気に取られた。


「どうした? ちょっと貸してみろ」


 呆然としているオレの手から、アルシェーラ先生がプレートを取って文字を確認し――


「なんだこれは……!?」


 と、驚愕の声をあげた。


「どうしたんだい、アルシェーラ?」

「……レオン、シーナ。とんでもない奴を産み落としてくれたな」

「……どういう事だ、アルシェーラ?」


 アルシェーラ先生の声に不穏なものを感じたらしい母上が、険しい顔で、席を離れてこちらにやってくる。

 そんな母上に、アルシェーラ先生が『これを見ろ』と言ってプレートを渡すと、母上の顔が驚愕の色に染まった。


「――レオン、これを」

「うん。……これは、一体どうした事だろうね。故障とかではないのかい?」

「阿呆。これが壊れない事はお前だって知っているはずだろう」

「そうだけど……いや、でもこれは……」

「ああ。俄には信じ難い……が、事実だ、レオン」

「……そうだね」

「私達の息子は……アルマは、『全ての属性に適性を持っている』」


 地、水、火、風、光、闇、樹、焔、氷、雷、聖、そして時空。

 基本6種、上位5種、最上位1種。

 プレートには、およそこの世界にある魔法の属性のその全てが、表示されていた。

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