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ケモノビト  作者: 光月
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エキシビションマッチ


「――ま、参りました」


 模擬戦の最終戦。

 平民出身のミナが降参宣言をした事で、今日日の模擬戦は終わりを迎えた。

 戦ったSクラスの面々は魔力の使いすぎで息が荒く(一部近接戦闘を仕掛けてきた奴もいたが)、漏れなく全員がダウンしている。


「……はぁ、しんど」


 斯く言うオレもまた、かなりの実力者であるSクラス全員を相手にして、なかなかどうして無視できない疲労が溜まっていた。

 どいつもこいつも、規格外の奴が相手だからって手加減無しで来るもんだから、スマートに終わらせるつもりが台無しだ。


 そして、時刻は既に黄昏時。

 朱に染まる西の空と、東から迫り来る夜の群青の闇が、なんとも幻想的な光景を作り出していた。


「――うん。皆さん、やはりかなりの実力を持っていますね。私も教え甲斐が出てくるというものです」

「……嬉しそうですね、フォリオ先生」

「もちろんです。私が教えるからには、是非皆さんにはSクラスのままで卒業して欲しいですから」


 アルシェーラ魔導学院は6年で全課程を修了する。

 その6年の間、ずっとフォリオ先生が担任という事もないと思うが……まあ、やる気なのは良いことだ。


「では、アルマくん。最後に、私とエキシビションマッチといきましょう」

「えぇ……。嫌ですよ、疲れてるのに」

「まあまあ、そう言わず。折角ですから、自分達を教える人間の実力くらいは知っておいて損はないでしょう?」

「……まあ、それは確かに」


 人格的にも実力的にも認められて入学した連中だから、まさか『自分より力の劣る奴に教わる事は出来ない!』なんて増長する奴はいないと思うが、しかし。

 フォリオ先生自身がどの程度の実力を持った人なのか、というのは、確かに気になるかも知れない。


 いや、それにしたって別に今じゃなくてもいいとは思うんだが。

 …………ん? 待てよ?


「フォリオ先生。もしかして、今、疲れてるオレならどうにか倒せて、教師としての面目を保てそうだ――とか、思ってませんか?」

「…………さ、さあ、模擬戦を始めましょうかアルマくん。私はそこそこ強いですよ……?」

「いや否定しろよ」


 明らかに焦った様子でまくし立てるフォリオ先生に、思わずツッコミを入れてしまう。


「……まあでも、そうですね。もしかしたらオレも、疲れから力の制御が上手くやれないかも知れないですねぇ」

「あ、アルマくん。そうして先生を脅すのは、良くないと思いますよ……?」

「いえいえ、脅すなんてそんな……。体力が落ちれば判断力も鈍りますから、当然の心配ですよ。あっはっはっはっは」

「そ、そうですね……はははは……」


 苦笑いを浮かべながら、それでも正面に位置取るあたり、どうやらこのエキシビションマッチは避けられないらしい。

 ただ……あんまりのんびりもしていられない。

 というのも、この夕刻に、カルナがオレ用に誂えてくれた剣を持って寮まで来てくれる手筈になっているのだ。

 ……とはいえ、フォリオ先生は適当に戦っても許してくれそうにないし、はてさてどうしたものか。


「まあ、とにかく。早速エキシビションマッチを始め――」

『おーい、アルマ!』


 フォリオ先生の言葉を遮って、オレが背にしている方――つまり学院の入口側――から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 振り向いてみれば案の定。そこには、1本の直剣を抱えたカルナの姿があった。

 というか、今まさに走ってこちらに向かって来ている。


 やがて、オレの目の前まで走ってきたカルナは、自信に満ちた表情で直剣を差し出してきた。


「ほら、アルマ。お前の剣だぞ」

「ああ、ありがとう。……だが、ちょっとタイミングが悪い」

「あん? そういや、何やってんだ?」

「さっきまでクラスメイトと模擬戦やっててな。今は……まあ、担任教師との特別試合ってところだな」

「ほーん? それなら丁度いいじゃないか。早速使ってみてくれよ」

「いや、それは……」


 オレの一存では決められない。

 そう思ってフォリオ先生の方を見てみると、先生はこちらの言わんとした事を察したようで、にっこりと笑って頷いた。


「……いいんですか?」


 念のためにもう一度、口に出して確認する。


「はい、構いませんよ。どのみち、適当なところで切り上げなければなりませんからね」

「確かに。……うん。先生が問題ないなら、いいかな。じゃあ、早速使わせて貰うぞ、カルナ」

「ああ。存分に使ってくれ。……ミスリル製だから、威力は折り紙付きだ」


 ミスリル。この世界ではミスリル銀、または魔銀と呼ばれるものだ。

 ダマスカス、オリハルコン、ヒヒイロカネなどと並び立つファンタジー鉱物。それがミスリル。

 ミスリルは魔力伝導率が高く、また、武器にしても防具にしても加工に易く、しかしそうして作られたものはかなり頑丈で切れ味も良いという、まさに魔法のような代物だ。


 早速鞘から抜いてみると、鏡面加工しているわけでもないだろうに鏡のように綺麗な刀身が姿を見せる。

 それだけで、カルナが名実共に一流の鍛冶師であると理解出来る。惜しむらくは、性欲が高まらないと武器を鍛えてもらえないところだろうか。

 まあ、そういう一品物だと思えばお得な感じはするが。


「……いい仕事してるな」

「当然だろ。あたしは大公家公認鍛冶師だぞ?」

「工房の木箱に突っ込んであったのとはわけが違う。流石は一流の鍛冶師だな」

「あれは腕を鈍らせないために()ってるだけの鉄製武器だからな。それより、ほら、早速使ってるとこ見せてくれよ」

「わかったわかった。……じゃあ、フォリオ先生」

「はい。始めましょうか」


 言って、フォリオ先生が魔力を高めていく。

 儀式魔法の研究をしてるって話だったが、一体どれほどの実力を持っているのか……。

 あれだけ自信満々にエキシビションマッチの開始を宣言したんだし、なかなか侮れないのかもな……油断しないようにしなければ。

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