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ケモノビト  作者: 光月
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実技授業もあります


 午後からの授業は実技。

 オレ対Sクラスメンバーで模擬戦をするらしい。


「……死ぬんじゃないのか?」


 フォリオ先生からの説明を受けて、サイクスが何やら物騒な事を言っている。

 模擬戦で死人が出るはずないだろ、模擬戦なんだから。


「では、まずアルマくん、前に。誰か最初にやりたいという人はいますか?」

「わたくしから行きますわ」

「セルベルンくんですね。では、両者十分に距離を取ってください」


 言われて、早速距離を取る。

 今いるのは教導棟の一角にある訓練場。魔導具を利用した強固な防御結界を用いて、万が一にも周辺に被害を及ぼさないよう配慮がしてある場所だ。

 訓練場には第1から第5までのフィールドがあり、それぞれ、結界の外から訓練の様子を眺める事が可能になっている。

 フィールド毎の防御結界と訓練場全体の防御結界とがあるので、フィールド全てを使っての訓練も出来る。


「――それくらいでいいでしょう。では、始めてください」


 オレとアイリーン・セルベルンの彼我の距離は、大体15メートルくらい。魔法を使って戦うなら、まあ適正距離と言えるだろうか。

 個人的にはもう5メートルくらいは距離を取ってもいいとは思うけども……まあ、先生が良いと言うなら別にいいだろう。


「……先手はお譲りしよう、レディ」

「あら。意外と弁えているのね?」

「一応は、こちらも貴族なのでね」

「では、遠慮なく。『アクエリアショット』!」


 アイリーンが魔法の名を口にすると、彼女の周囲に直径3センチほどの水の球が無数に現れ、そのまま彼女が手をこちらに翳せば、それらは勢いよくこちらに飛来する。


『アクエリアショット』。

 水属性は下級魔法の、水の球を散弾(ショットガン)のように射出する魔法だ。

 なんだ水か、大した事ないじゃん。と思うなかれ。術者次第では水球に回転を加えていたりするし、そうでなくとも高速で飛来する無数の水球は確実にダメージを与えてくる。

 下級魔法だからと言って油断は出来ない。


「そうだな……『レイジングカーテン』!」


 ひらり、と橙色のカーテンが中空に現れ、飛来する水球をその熱でもって瞬時に蒸発させていく。

『レイジングカーテン』は焔属性下級の、薄い焔のカーテンを出現させる防御用の魔法。

 水属性、氷属性の下位魔法なら問題なく蒸発させるが、火属性だったり風属性だったりには相性が悪く、地属性みたいな物質系なんかには目も当てられない。

 あくまで『カーテン』なので、切り裂かれたりすると弱いというわけである。


「簡単に対処してくれますわね。少しは華を持たせてくれてもよろしいのではなくて?」

「ははは。そういうのは、せめて全力を出してから言うんだな」

「そうですわね……『アイシクルウェイヴ』!」


 バギンバギンと音を立てて、アイリーンの足下から氷が広がり、複数のトゲとなって斜めに天を衝いてくる。

 トゲの大きさは尋常でなく、突き刺されば身体に大きな――それはそれは大きな風穴が空いて、間違いなく即死するだろう。


『アイシクルウェイヴ』は氷属性下級。

 本来は自分を中心に氷を広げて、巻き込んだ敵の足を凍結、拘束する魔法だが……どうやらアイリーンの手で中級レベルの攻性魔法にアレンジされているようだ。


「厄介な……。『バーンクエイク』!」


 迫り来る氷の大地とトゲを、地属性中級の『バーンクエイク』の震動で割り、地面から噴出する炎で溶かす。

 全力を出して~、とは言ったが、殺しに来いって言った覚えはないぞ……?


「……もう。直ぐに対処してしまいますのね?」

「当たり前だ! 今の『アイシクルウェイヴ』なんか、対処しなきゃ死んでただろ!」

「心配しなくても寸止めにいたしましたわ」

「信じきれねぇ!」

「心外ですわ。同じ侯爵家なのですから、信じていただかないと」


 つい先日まで面識の『め』の字すらなかったってのに、何言ってんだこの侯爵令嬢。


「無茶言うなよな。……次はこちらから行かせてもらう。『ブライトキャリバー』!」


 手始めに発動するのは光属性下級の『ブライトキャリバー』。

 発動すると直剣を(かたど)った光が5つ現れ、オレが手をアイリーンの方に差し出すのと同期して射出される。


「『アクエリアヴァント』!」


 が、アイリーンは絶えず流動する水の壁でもって『ブライトキャリバー』を防ぐ。

 剣を象っているとは言え、結局は光。水をもって屈折させられたら、相手には当たらない。

 ……いや、まぐれ当たりならワンチャン……?


「――そういえば、フォリオ先生」

「なんでしょう、アルマくん?」

「この模擬戦は……どうなれば決着なんですか?」

「……そうですね。やはり、どちらかが戦闘不能になったらでしょうか。あるいは、降参を宣言してもいいですね」

「なるほど」


 ところで、オレ対Sクラスメンバーなのだから、オレが最高に不利な状態だと思うんだけど、その辺りはどう考えてらっしゃるんですかねフォリオ先生?

 なんて思いながらじっとりとした視線をフォリオ先生に浴びせてみると、フォリオ先生は視線に気付いたのかこちらを見て、にこりと微笑んだ。

 ……ダメだこりゃ。


 まあ、どうあれオレがSクラス全員と戦うのは避けられないってわけだな。

 そうなると……消耗は最小限にしたいな。実力者9人とやり合うわけだから、時間もそうかけていたくない。少ない消費で最大限の戦果を出したい。

 とはいえ……あまり力を出しすぎても反感を買いそうだ。いや、今更か? どうせどいつもこいつも、試験の日に見てるんだもんな。

 じゃあ、まあ……いいか。【災厄武装】は流石にマズイが、それより下の魔法なら大丈夫だろう。


「あら? もう攻めの手はおしまいですの?」

「え? いや、いやいや、そんなまさか。これからだよ、これから」

「そうですか。まあ、あなたの力は試験の日に見ていますから、何をされたところで驚きはしませんが」

「……ほう?」


 毅然として言い放つアイリーン。

 そうかぁ……驚かないのかぁ……うーん……。

 そう言われると、やっぱり驚かせたくなるよなぁ。


「なら、これはどうだ? ――右手に焔属性を、左手に闇属性を」

「……えっ?」

「闇焔複合……『ダークネスブレイズ』!」


 右手の焔属性の魔力球と左手の闇属性の魔力球を融合させて、闇焔属性の魔法にして放つ。

 出現したのは闇色の炎の球。それはゆらゆらと揺らめきながら飛んで行き、未だ解除されずにいる『アクエリアヴァント』に直撃して――


「なっ……!?」


 そのまま、『アクエリアヴァント』を飲み込み、消滅した。


「な――なんですの、今のは!?」


 よーしよし、驚いてる驚いてる。

 初めてやったけど、案外上手くいったな。複合属性魔法なんて、どの歴史書にも魔法大全にすら載ってなかったけど。

 いやぁ……やってやれない事はなかったな。


「驚いて貰えたようで何よりだ」

「驚いて――いえ、そんな事はどうでもよろしい! 今のはなんですの、と訊いているでしょう!?」

「何って……複合魔法?」


 もしかしてアイリーンは人の話をちゃんと聞かない子なんだろうか。オレ、さっきちゃんと『闇焔複合』って口にしたと思うんだけど。

 ダメだぞ。人の話は、ちゃんと、最後まで聞かないと。


「そんな魔法ありませんわよ!」

「そりゃあないだろうな。今初めてやったんだし」

「くっ……驚かないと言ったのに驚かされてしまいましたわ……!」


 あっ、引っ掛かるのそっちなんすね。


「まあ、うん。とりあえず続けよう? な?」

「負けませんわよ!」

「お手柔らかに、アイリーン嬢」

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