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ケモノビト  作者: 光月
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昼食時でも講義


 それから数時間後。

 流石はSクラスに区分されるだけある、と言うべきか。平民出身者であれ貴族出身者であれ、一旦集中状態に入ったSクラスの面々は、昼休憩が来るまでずっとそうしていた。


「なあ、アルマ。あれって、本当に効果あるのか?」


 教導棟の食堂。何故か教室の時と同じように隣に座っているサイクスが、そんな風に問うてくる。

 ちなみに、アルシェーラ魔導学院の教導棟での食事はシッティングビュッフェである。

 個人的にはこの形式は『バイキング』ではないだろうかと思うんだけども……まあ、詳しいところは知らない。

 見た目はシッティングビュッフェのそれだから、シッティングビュッフェでいいか。


 ま、それはともかく。


「一応、理論に基づいた授業なんだがな」

「理論?」

「ああ。とはいえ、そう難しいものでもない。魔力操作を続けていれば、次第に動かせる魔力の量が増えるんだ。例えば、今日は10の魔力量しか動かせなかったとして……大体2日後くらいには25は動かせるようになっているはずだ」

「2日でそんなにか!? 根拠は?」

「オレが試した。初めて魔力を知ったのが1歳。それからずっと、3歳になるまで魔力操作だけをして過ごした。今も怠ってはいない」

「……嘘くせぇ」


 うへぇ、というような顔をしてサイクスが言う。

 まあ、そうだろうな。


「……ま、信じるも信じないもお前次第さ。とりあえず1週間、毎日やっててみろ。ファイアボールが中位魔法くらいには育つぞ」

「それこそ嘘だろ。いくら魔力操作が上手くなったからって――」

「本当にそう思うか?」

「…………まあ、騙されたと思ってやってみるか」


 大きな溜め息と共にぼやく。


「――ねぇ、隣いいかしら?」

「好きにしろ」


 不意に背後からかかった声に、振り向く事なく返す。声からして誰であるのかは明白だったからだ。


「冷たいわね、アルマ」

「その原因はお前にあるがな。それより、同じクラスの女子と食べなくていいのか、アリア。オレといても友達は増えないぞ」

「っさいわね。いいのよ。友達なんて自然に増えてるものよ」


 隣の席に座しながら、アリア・メルフェムはそう言った。

 いやまあ、それはその通りだとは思うんだけどな……?


「え……あ……」

「? どうした、サイクス?」

「お、おま、おまおま……!」

「おまおまってなんだよ」

「おま、お前……彼女とどういう関係なんだ……?」

「どういう……? まあ、有り体に言えば腐れ縁だな」

「大公家の令嬢とか!?」

「ああ。こいつはな、その昔、突然オレの家にやってきたかと思えば、急に魔法での勝負を仕掛けてきたんだ。もちろん完膚無きまでに手加減に手加減を重ねてから負かしてやったんだが……それが良くなかったらしい」

「良くなかった……?」

「彼女は見た目にもわかる通り負けず嫌いでな。それからと言うもの、事ある毎に勝負をしにやって来て、ついには月に1度の面倒なイベントへと昇華したんだ。もちろん彼女は全敗している」

「うるさいわね! 昔の事でしょ!?」


 バンッ! と勢いよくテーブルを叩きつけ、その勢いのままに立ち上がって吼えるアリア。

 身から出た錆だろうに、やかましい奴だ。


「大公家の令嬢ともあろう者が、そう声を荒げるんじゃない。もう少し淑やかにしたらどうだ」

「それは、アンタが――っ!」

「言い方が悪かったのは認めよう。だが事実だ」

「それ、は……そうだけど……」


 急転直下。先ほどの勢いはどこへやら、今度はしょんぼりと肩を落として俯くアリア。


「……まあ、多少の刺激にはなっていた。そこだけは感謝するよ、アリア」

「ふ、ふん。わかればいいのよ、わかれば」


 現金な奴だなぁ。


「ま、というわけで、だ。何の因果か、オレは今日ここに至るまでこいつとの縁を切れないでいる」

「……婚約者、とかではないんだな……?」

「ないな。なんだ、サイクス。お前、こういうのが好みなのか」

「え゛っ。いや、あー、そういうんじゃないんだが……」

「性格はちとアレだが、結構な優良物件だと思うぞ? 狙うなら頑張れ」

「お、おう……」

「ちょ、ちょっと、何よそれ!? なんで家族でもないアンタが私を売ってるのよ!?」

「え? ……あー。いや、そういうつもりは無かったんだが。単に……そう、単にな? サイクスがアリアに気があるなら、仲を取り持つのも吝かではないと思ってな?」

「余計なっ! 事を! しなくて! いいのよ!」

「……悪い」


 確かに、頼まれてもいないのに余計な気を回すべきではなかったな。失敗した。

 前世ではこういうお節介はしてこなかったから、もしかしたらしておいた方がいいのかと考えての事だったんだが……どうやら違ったようだ。

 やっぱり、慣れない事はするべきじゃないな。


「……まあいいわ。午前中の授業、そっちはどんなだったの?」

「オレ達は魔力操作をやった」

「魔力操作……って、あの魔力操作?」

「どの魔力操作か知らないけど、多分それだ」

「午前中?」

「午前中」

「ずっと?」

「いかにも」

「…………バカじゃないの?」

「は?」

「アンタ達、Sクラスでしょ? 学年最高位の実力者集団、それがSクラス。だってのに、なんで魔力操作なんてやってるのよ?」


 訝しげにこちらを睨め付けながら、アリアは心底呆れているような声音で言う。

 アリアは……確かBクラスだったか。負けず嫌いな性格もあるから、上を睨む事しかしてないんだろうな。


「オレの授業だったからな。最初はそれにした」

「え……? アンタの授業……あ、そっか。アンタ、特殊Sクラスだもんね。でも、それで魔力操作? なんで?」

「基礎だからだ。基礎は突き詰めれば突き詰めただけ、己の地力が上がる。だからやらせた」

「ふーん……」

「ちなみに、オレは1日も欠かした事はない」

「……でも魔力操作でしょ?」

「魔力操作とは言うが、やってる事は魔力制御だ。……例えば、とんでもないじゃじゃ馬がいたとして、どうすれば乗りこなせると思う?」

「乗りこなすなら、乗り続けなきゃいけないんじゃないの?」

「サイクスはどうだ?」

「俺も同じ意見だ。乗り続けなきゃ、乗りこなせないだろ」

「……残念ながら不正解だ。いいか? 要は、思い通りにならないものを思い通りにするためには、どうしたらいいのかだ」

「おう。だから乗り続けるんだろ?」

「違う。知るんだよ。そのじゃじゃ馬がどういう奴なのか、理解するんだ。そいつはどういう風に動きたがってて、それを思い通りにするためには、知らなきゃいけない」

「知る……」

「難しかったら、心を通わせると言い換えてもいいな。自分と相手の心を通わせて、思いが通じるようにする。そうすると、よっぽど酷いものでない限りは、相手がその通りに動いてくれる。乗馬はそういうもんだろ?」

「……確かに」

「言われてみると、確かにそうね」

「魔力操作……魔力制御とは、つまり魔力との対話だ。自分はこれだけの魔力を使いたい。その通りに魔力を使うために、魔力と意思を通じさせる。それを続ければ、あるいは自由自在に魔力を扱う事が出来るようになる……かもな」


 想定外の講義になってしまったが、まあいいか。

 上手い例えが見当たらなくて乗馬に例えたが、貴族出身であるこの2人なら、むしろ身近なものだったな。なんとか伝わってればいいんだが。

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