初めての事
オレの自己紹介が終わると、フォリオ先生は1つ頷いてから口を開いた。
「これがSクラスです。気の合う人、合わない人。好きになれそうな人、嫌いになりそうな人。この教室で過ごすにつれ、色々なものが見えてくる事でしょう。……しかし、何かあれば立場も好悪も関係なく、手を取り合えるクラスになる事を、私は祈っています」
フォリオ先生は笑みを称えて言った。
……まあ、なんだ。ありがちなヤツだな。
「さて。つきましては、今から2人1組を作っていただきます。Sクラスは男子5名、女子5名ですから、5組出来ますね」
「……あの、先生? 何故、男女で2人1組を?」
「――ああ、説明が無かったですね。すみません。昔から、説明を飛ばしてしまうのが悪い癖でして……いやはや、面目ない。ともあれ、男女で2人1組を作る理由、ですね。端的に述べまして、ここで生まれた男女の2人1組が、学院生活を送る上でのパートナーになります」
ミナの問い掛けに、フォリオ先生は何でもないような顔と声で答える。
「学院生活でのパートナー……。それは、寮のルームメイトという事ではなく?」
アイリーンの問いに、フォリオ先生は変わらず首肯で答える。
「学院では、ダンジョンに潜るであるとかのカリキュラムが存在します。これらのカリキュラムを、そのパートナーとクリアしていくのが、この学院の基本的な仕組みです」
「男女のパートナーである事の理由は?」
「それは、このクラスが10人のクラスだからですよ。仮に同性で2人1組を作ったとして、男女から1人ずつあぶれた者だけが男女ペアを作る事になります。……が、それでは不公平でしょう。ですから、最初から男女のペアを作ってください、というわけです」
なるほど、それは確かに。
元々、このアルシェーラ魔導学院は貴族と平民の身分の差を取っ払っている教育機関だ。すなわち、貴族は貴族でなく、平民は平民でない。
それはたとえ、他国の王族皇族であろうと例外ではない。学院に通う生徒は、ただの『学院に通う生徒』でしかないわけである。
そうした公平性を謳い、実行しているアルシェーラ魔導学院であるからこそ、不公平が生じるような状況には持っていきたくない――というわけだ。
いやまあ、実際のところは知らないが。
ただ、アルシェーラ先生の意思が関わっているとすれば、その話にも納得がいくというものだ。
「……相手は誰でもいいのか?」
「もちろんです。自分が『この人だ』と感じたクラスメイトをパートナーに選ぶと良いでしょう。時には、選択が誰かと被ったり、あるいは選択した相手が別の相手を選択した、という事もあるでしょうが、その時は相手の選択に委ねるか、何か勝負でもして決めると良いでしょうね」
「なるほど。……それは、今すぐ選ぶ必要が?」
「そうですね。早いに越した事はありません。が、いきなり言われても困るでしょうから、今日を含めて3日は待ってもいいでしょう。それ以上は、カリキュラムの進行にも関わってくるので待てませんが」
レクスレンの質問に、フォリオ先生は即座に答えた。
まあ、学院側にも予定があるだろうし、そりゃ早いに越した事はないよなぁ。
さて。ともあれパートナーだ。
貴族出身のニア、カレン、アイリーン、クリスティアス。そして平民出身のミナ。
この5名の中から選ぶ……か。
さしあたり興味を惹かれるのは平民出身のミナだろうか。
貴族階級ですら『エレメンタラー』は珍しい方だと言うのに、平民にしてエレメンタラーとはかなり珍しい。
それに、エレメンタラーであると同時に、その適性のある属性がなんとも。聖属性に樹属性とは、果たして、それと意図して探して見つかるかどうか……。
「アルマ、決めたか?」
「……いいや。サイクスはどうだ?」
「まあ、いきなり言われてもな。困る」
「同感だ」
隣のサイクスと2人、溜め息を吐く。
あと興味を惹かれたのと言えば、カレンとクリスティアスだろうか。
……まあ、カレンはともあれ、クリスティアスに関してはさっき見つめられたのが引っ掛かっているだけなのだが。
まあ、何はともあれ、ロクに話した事もない相手をパートナーに選ぶのも難しい。とりあえず、一通り言葉を交わしてみるのが得策かな。
まずはコミュニケーションをとる事から、が大事だからな。
「……なんか、社交界みたいだな」
「あー……なんか覚えがあると思ったら、それか」
「…………まあ、そうは言っても」
「こっちから選ぶなんて末恐ろしくて出来ないな……」
「なんだ、気が合うなサイクス」
そう言ってニヤリと笑えば、サイクスもまたニヤリと笑う。
まだわからない事は多いが、Sクラスの面々とは仲良くやれそうだな。
「さて。パートナーの事はとりあえず置いておきまして、早速最初の授業に移りましょう。アルマくん、こちらへ」
フォリオ先生が涼しい顔で告げる。
「……ええと、フォリオ先生。こちらへ、というのは?」
「アルマくんは特殊Sクラスですから、他のクラスの教壇に立つ可能性があります。ですので……まあ、予行演習と言いましょうか。Sクラスでそれに慣れて貰えればと」
「……なるほど」
納得してしまった。
だがまあ、事実、アルシェーラ先生からもそういう予定になるかも知れないとは聞いているし、確かに慣れる必要もある。
他のSクラスの生徒には悪いが、テストに付き合って貰えるなら是非もない。
「それに、Sクラスは座学の時間はあまり取りませんから、そういう意味でも貴重な時間ですよ」
「……わかりました」
どのみち、アルシェーラ先生から直々に言われた事で断れないので、立ち上がり、フォリオ先生の待つ教壇へと向かう。
「……………」
教壇に上がって、さっきまで自分がいた方を見て見れば――なるほど、これが教師の目線か。
「……さて。みんなには妙な事に付き合わせて申し訳ないが、学院側の裁定なので諦めてくれ」
とりあえずそう言うと、漂う空気が少し柔らかくなったような気がする。
「まずは、改めて自己紹介を。オレはアルマ。アルマ・クラウディウス。得意な属性は――」
と、そこで一旦言葉を切って、いつかの日、初めてのアルシェーラ先生の授業でやったように、それぞれの属性の魔力球を身体の周りに浮かばせる。
と、同時に、クラスメイト達の顔が驚愕の色に染まっていった。
フォリオ先生も、流石にこの事は聞いていなかったのか、ぽかんと口を開けてこちらを見つめている。
やがて、時空属性の魔力球が浮かんだところで、再び口を開き、言う。
「――全部だ」




