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ケモノビト  作者: 光月
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Sクラスの面々


 結論から言って、特殊Sクラスってヤツは普通のSクラスと変わらない事が判明した。

 ただ、たまに教師の真似事をさせられるかも知れないらしいという事を、アルシェーラ先生に説明された。

 要は、『お前が持ってる魔法的知識や技術を、みんなに教えてもらう事になるかも知れないから、そのつもりでいてね。だけど普段は普通の学生扱いだよ!』という事だそうだ。

 余談だが、この『特殊Sクラス』になった人間は、この5年の間にも片手で数えるほどはいたらしい。


「……ま、特に気にする事もないか」


 特に何か、特別扱いを受けるというわけでもないので、気にしないでおく事にする。


 そうして廊下を歩き、辿り着いたSクラスの教室のドアを開けて中に入る。

 教室は入ってすぐに教壇があり、その正面に階段状に机と椅子が配置され、Sクラスのクラスメイト達が銘々に座っている。

 そういえば、前世で通ってた大学の教室はこんな感じだったな。


 ともあれ、早速オレも適当な位置に腰を落ち着ける。……と、近くに座っていた男子生徒がこちらにやってきた。


「よっ、特殊Sクラス」

「……名前を知ってるだろうに、肩書きで呼ぶのは感心しないな。皮肉のつもりなら意味はないぞ」

「ははは。そういうんじゃねえさ。……いや、悪かったな。俺はサイクスだ」

「アルマ・クラウディウス。しがない侯爵家の次男坊だ」

「しがないって事はねえだろ?」

「どうかな。貴族家なんて、世に言われるほど大層なもんでもないさ。ましてオレは次男坊。所詮は予備だ」

「……お前、その歳でかなりねじくれてんな」

「お前こそ、初対面の相手を皮肉るなんて、いい性格してるよ」


 そう言ってニヤリと笑ってみせると、サイクスもニヤッと笑った。


 と、そこで教室のドアが開き、男性が1人入ってきた。髪はボサボサで、身に纏う衣服も、特に頓着していないらしく少しボロくなっている。

 その男性は後ろ手にドアを閉めると、頼り無げな足取りで教壇に立った。


「初めまして。私が君達Sクラスの担任となるフォリオ・メルグランデです。儀式魔法を中心に研究していますので、そちらに興味があれば是非お話をしましょう。これから1年間、よろしくお願いしますね」


 男性――フォリオ先生――はそう言って一礼し、にっこりと笑った。


 ……儀式魔法か。

 儀式魔法というのは、本来複数人で行使する魔法の事だ。レオン父上が行使した『獣人組成術』も、実はこれに相当する。

 が、特にどれが儀式魔法だと決まっているわけではなく、発動に複数の人間が必要だと判断されれば、自然と『儀式魔法』と呼ばれる。


 それの研究……という事は、複数人の魔力が必要なところを1人だけで済ませられるように、とかそういう事だろうか。

 もしそれを確立させられたら、間違いなく国を挙げて表彰されるレベルの偉業になりえるだろう。


「それでは、君達にも自己紹介をしてもらいましょうか。同じクラスの人の顔と名前くらいは覚えておいて欲しいですからね。では……そうですね。私に近い位置の君から、お願いします」


 フォリオ先生が言うと、すぐ近くの席である女子生徒が少し姿勢を変えて、後ろの方にも顔が見えるような格好になる。


「私はニア・アイアル。得意属性は風。よろしく」


 静かにそれだけ告げると、ニアは姿勢を戻した。

 アイアル……アイアル伯爵家のご令嬢か。

 アイアル伯爵家はどの世代も優秀な魔法使いを輩出していると聞くから、彼女も多分に漏れずという事なんだろう。

 現にこのSクラスにいるのが、その何よりの証明だ。


「はい。では、そのまま横に。端まで行ったら一段上がってまた横に、という風にお願いします」


 とのフォリオ先生の指令。

 ……となると、Sクラスは人数が少ないから、オレの番もすぐに来るな。


「――ボクはクリスティアス・ウォルレイン! 得意な属性は火! よろしくっ!」


 ニア嬢の次に自己紹介をしたのは、ともすれば男の子と説明されても違和感がなさそうな、ショートヘアの女の子だった。胸も慎ましい。

 ウォルレインは子爵家で……確かあの家は武術に優れた一族だったはずだ。

 ただ、ウォルレイン家は……まあ、平たく言えば万能タイプの人間が多い。武術も出来る、魔法も出来る、しかし特化した者には及ばない。

 そんな、何でも出来るけど何にも出来ない――良く言えば万能、悪く言えば器用貧乏な一族だったと記憶している。

 クリスティアスと名乗った彼女が特化タイプか万能タイプかはわからないが、火属性の使い手という事なら、魔法方面は多少尖っているかもな。


「――ん?」


 何故かクリスティアス嬢がこちらに視線を向けたまま固まっている。

 ……はて、どうしたんだろうか。


「ぼ、僕は、アルノーです……。平民の生まれで、と、得意な属性は水、です。よ、よろしくお願いします……」


 貴族の令嬢の自己紹介が続いたからか、緊張した様子の男子が自己紹介をする。

 見た目は……まあ、クラスに1人はいそうな気弱な感じの男子、とでも言えばいいのか。

 制服を着ている、と言うより、制服に着られている、と言った方がしっくり来る感じだ。


「同じく平民出身、レクスレンだ。気軽にレックスと呼んで欲しい。得意な属性は火だ。よろしく頼む」


 続いて、パッと見は凄く実直そうな男子。

 平民出身だという事だが、さっきのアルノーと違って自信に満ちた表情をしており、緊張した様子もない。

 姿勢も、ビシッと背筋が伸びており、まだ社会を知らないフレッシュマンを思わせる。

 彼がこれから世間の闇を知って穢されていくのかと考えると涙を禁じ得ない。……まあ、勝手な想像だが。


「……アタシはカレン。カレン・レングス。得意属性は焔属性さ。別によろしくはしなくていいよ」


 今度はレングス伯爵家のご令嬢か。

 昔、レングス伯爵家の三女がとんでもないじゃじゃ馬で、親ですら手が付けられないらしいと噂に聞いたが……彼女がそうだろうか?

 まあ、人を寄せ付けないオーラみたいなのを放っていると言われたら、確かにそんな風にも見えるが。


「わたくしは、誇り高きセルベルン侯爵家が三女、アイリーン・セルベルンですわ。得意属性というほどではありませんが、水と氷の魔法を特に使っております。どうぞよろしくお願いいたしますわね」


 椅子から立ち上がって自己紹介をし、最後にカーテシーまでしてから、再び椅子に腰を落ち着けるアイリーン。

 セルベルン侯爵家、か。

 あそこは武術はからきしだが魔法は大得意な人間ばかりの魔法一族だ。そして、水属性、氷属性に適性のある人間が一族の9割を占める。

氷水(ひょうすい)のセルベルン』と言えば、マグナ貴族で知らない者はいないだろう。


「私はミナです。平民出身で、得意属性は聖属性と樹属性です。よろしくお願いします」


 続いては、なんとも素朴な印象の女子生徒――ミナ――の自己紹介である。

 ルックスは……まあ、普通に可愛い感じだ。可愛いが、印象には残りにくいかも知れない。影が薄めというか……。

 ただ、その割に胸が大きくインパクトがあり、顔と胸と名前を1セットとして覚えるなら、まず忘れないだろうと思う。……失礼な話ではあるが。

 ちなみに余談だが、聖属性に適性がある人間は光属性にも適性がある事が多い。彼女がどうかはわからないが、あると見てもいいだろう。


「……俺はゼスト・グラディオ。得意属性は闇だ。よろしく」


 サイクスを挟んで向こうの席に座っている男子が、静かに自己紹介を終える。こちらはこちらで、カレンとは別ベクトルの近寄り難さだ。

 闇属性は人間の意識に作用したりする魔法が多い属性だから、その特性故に、ゼストは近寄り難い空気を纏っているのかも知れない。

 実際、ふと合った彼の目には、実に優しそうな光が宿っているように見えた。具体的に言うと、小動物とかめちゃくちゃ好きそうな感じ。

 グラディオ家は子爵家だが、クラウディウスの家とは逆の位置に領地があるから、あまり噂は聞いた事がない。ただ、一族揃って心優しいという話は聞いた事がある。


「俺はサイクス・オルトナードだ。得意属性は地と火……かな。まあ、よろしく」


 続いて、隣のサイクスが自己紹介をする。

 ……確か、オルトナード伯爵家の嫡男の名前がサイクスだったと覚えている。

 オルトナード家は代々地属性の適性持ちが多く、今マグナ公国を走っている各街道は、かつてオルトナード家の人間が整備したという話がある。

 まあ、真偽のほどは定かではないが。


 そして、最後はオレの番だ。

 男子5名、女子5名、総勢10名がこのSクラスの生徒である。


「オレは……今さら名乗る必要もないだろうが、アルマ・クラウディウスだ。得意な属性は――特にないかな。まあ、よろしく頼む」


 自己紹介ってヤツは昔からどうにも苦手なので、これまでの例に従って、必要な事だけを告げて終わる。

 何故か妙に視線が集まっている気がしたが……まあ、気のせいだろう。気のせいだと思いたい。

 ……頼むから気のせいだって事にしておいて欲しい。

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