ギルドで登録
『――ああ、そうだ。実習なんかでダンジョンに潜る事もあるから、可能なら今のうちから冒険者登録を済ませておくように。明日、クラス担任から説明があるだろうがな』
とのアルシェーラ先生の言葉により、オレは、《猫の午睡亭》に一度立ち寄って制服を置いてから、冒険者ギルドまでやってきていた。
まあ、冒険者ギルドとは言っても、合同庁舎のような建物の一角にそれがあるという――簡単に言えば役所だ。
名を連ねるギルドは、冒険者、魔導具、錬金、魔法、鍛冶、木工、石工、商業、従者など多岐に渡る。
そして、それらを取り纏め、ギルド間の関係を円滑にするために、各ギルドの長による総合ギルドが上位に存在している。
「――いらっしゃいませ。初めての方ですね。こちらは冒険者ギルドカウンターとなります。どのような御用でしょうか?」
冒険者ギルドの受付カウンターまで来ると、受付嬢のお姉さんが丁寧に応対してくれる。
「初めまして。冒険者登録をしたいのですが」
「冒険者登録ですね。では――こちらの用紙に必要事項を記入してください」
受付嬢のお姉さんはインクとペン、それから用紙を1枚差し出してきた。
用紙には、名前や現在の住所、扱える魔法の属性や戦闘スタイルを書き込むようになっているようで、オレは徹頭徹尾、素直に項目に記入していく。
名前はアルマ・クラウディウス。
現在の住所は……一応、アルシェーラ魔導学院の学生寮。
扱える魔法の属性は全て。
戦闘スタイルは……なんだろう。オールラウンダーとでも言えばいいのか? 前も後ろもやれる遊撃手ってところかな。
「んー……よし、いいかな」
書き終わったら、一度ざっと見直しをしておく。
項目自体は少ないからミスする要素なんか皆無に等しいだろうが、万が一にもミスがあってはいけない。書類は正確に、が大切だ。
……まあ、この世界では、仮にそういうミスをしたとしても水魔法で紙からインクを剥離させればいいので、あまり気にしないでもいいかも知れないが。
ともあれ、記入漏れもミスもなく記入出来た事を確認出来たら、用紙を受付嬢に提出する。
「はい。念のため、こちらでも確認させていただきますね」
受付嬢はそう言うと用紙を手に取って確認し始めたが、すぐに動きが止まった。
……なんか、妙に嫌な予感がする。
何もないとは思いたいが、何かあってからでは遅いので、風属性の『サイレントドーム』を使って音を遮断しておく。
「…………く」
「く?」
「クラウディウス家のご子息……!? しかも全属性持ち!? 時空属性までっ!?」
そーれ見た事か。
素直に書いたし、こんな事になると思ってたよ。まあ、対策はしてたから問題ないんだけど。
「――あっ、いえっ。……失礼しました」
「いえ。……まあ、隠すつもりもなく書いておいてアレなんですが、普通のエレメンタラーという事にしておいてください。扱える属性は秘匿する方向で」
「そ、そうですね。これだけの事ですから。まずはギルド長に報告してから、ではありますが」
「お願いします」
「はい。……では、気を取り直しまして。アルマさ――さん、は。アルシェーラ魔導学院の生徒、という事ですか?」
「そうですね。まあ、今日は入学式だけだったので、厳密には明日からかも知れません」
個人的に、その学校の生徒であると明言出来るのは、最初に制服を着てからだと思っている。
それに倣って言えば、今はまだ生徒ではない、という事になる。……まあ、飽くまで個人的な感情の話であって、入学式を済ませたからもう生徒だと言われたらそうなんだろうけど。
「ああ、なるほど。わかりました。それでは、こちらのプレートに、血を一滴垂らしてください」
そう言って差し出される銀色のプレート。
推測するに、これはいわゆる『冒険者カード』なんだろうな。
前世で言えば、運転免許証とか保険証とかの公的に発行された身分証といったところか。
まあ、そういう予測は立てられるけど、一応初めてのものだし、訊いてみるか。
「これは……?」
「こちらは冒険者カードと言って、冒険者ギルドに所属する人の身分証明となります。実はこのプレートはギルド全体で規格が統一されていまして、どこでもいいのでギルドで登録をすれば、以降は登録したギルド以外のギルドでも身の証が立てられるようになっています」
……ははぁん、なるほど。
登録者情報そのものは、きっと総合ギルドで管理してるんだな? で、総合ギルドで共有された登録者情報を長が自分のギルドに持ち帰って、全体の登録者として改めて記録される、と。
なかなか画期的なシステムじゃないか。
「それから、これは他の都市に行く場合や、他国に行く際にも身分証明となります。今回は登録に際しての発行なので無料ですが、紛失した場合などに再発行となると決して少なくないお金がかかりますので、失くさないようにしてくださいね」
「…………ちなみに、おいくらくらい?」
「……10シルグです」
「ああ……それは高い……」
この世界の通貨として、レギル金貨、シルグ銀貨、ランズ銅貨がある。
1ランズ銅貨で1円と等価で、10000ランズで1シルグ銀貨と等価となるので、10シルグは日本円にして10万円となるわけだ。
まあ、このプレートは1枚1枚が魔導具なので、1つ10万と考えると安いものだろう。いや、高いんだけどさ。
でもほら、色んな場所で使えるんだし、それで10万円なら安いものじゃない? そもそも失くさなければ10万円得をしてるわけだし。
「まあ……ですので、なるべく失くさないようにお願いしますね」
「わかりました。ええと、血を一滴、でしたね」
「はい。あ、ナイフとかお貸ししましょうか? 大体皆さん自分の武器だったり魔法だったりで済ませてしまうんですが、一応そういうのも対応していますので……」
「ああ、いえ、大丈夫です」
受付嬢に断りを入れてから、風魔法で右手人差し指の先を軽く切って、血を滲ませてからそれをプレートに触れさせる。
血が触れたプレートは幾筋もの青い光をその身に奔らせると、それはすぐに消え、今度はオレの名前が表示された。
「はい。これで登録は完了ですね。冒険者ギルドのシステムについても聞いておきますか?」
「じゃあ、お願いします」
「わかりました。まず、冒険者はランク分けがされます。下はGから上はSまで……G、F、E、D、C、B、A、Sの8段階となります」
「つまり、オレはGランク冒険者という事ですか」
「その通りです。登録したばかりの方は、誰もがGランクですね。……さて、そうなると気になるのはランクの上げ方ですよね」
「まあ、そうですね」
「ランクは、基本的に依頼を一定数達成する事で次のランクへ昇格となります」
「基本的に、と言うからには、基本的ではない上がり方もあるんですか?」
「はい。ランクに見合わない実力を持っていたりすると、その実力に応じたランクに一足飛びに昇格になる事もあります。それから、Eランクまではありませんが、Dランク以降は昇格試験をパスしないと昇格出来ないので、覚えておいてくださいね」
「Dランクに上がるにも試験がある、という認識で大丈夫ですか?」
「はい、その認識で問題ありませんよ。それから……依頼の受け方もご説明しますね」
「お願いします」
「依頼は、自分のランクとその1つ上のランクのものを受ける事が出来ます。手順としては、まず、掲示板に貼られた依頼書をカウンターまで持ってきてください。それを私達受付嬢が受け取って、専用の魔導具で依頼書と冒険者カードを読み取る事で、受注完了となります」
依頼書と冒険者カードを読み取る……?
「そうする事で達成報酬を渡したり、あるいは依頼を達成出来なかった場合にそれを記録する際にも、効率的になる……というわけですね」
「なるほど。依頼を達成出来なかったら、どうなるんですか?」
「すぐにどうなる、というわけではありませんが、あまりにも連続するようであれば、実力不十分という事で1つ降格されます。もちろん、達成出来なかった理由などあると思いますから、それらも考慮した上で対応する事になりますが」
「よく考えられてるんですねぇ……」
「それはもう。……依頼周りに関してはそんなところでしょうか。他に指名依頼などもあるのですが、これはもっと高いランクでないと関係のない話になりますから、そのランクになった時に説明があるはずです」
「わかりました。……聞きたい事はそれくらい、ですかね」
「今日はもう帰られるんですか?」
「まあ、そうですね。明日からの準備もあるので、今日はこれで」
「そうですか。では、最後にこの冊子を渡しておきますね」
カウンターの下からラノベサイズの大きさの小冊子を取り出すと、それをこちらに渡してくる受付嬢。
小冊子の表紙には『ギルド所属のための注意事項』と題字が書かれている。
「これは……」
「そちらは、ギルドに所属するにあたって冒険者の方に守っていただきたい規則一覧となります。規則自体は少ないですが、説明や例を書いているので、厚さはそれなりですね」
「なるほど、規則。大事ですね」
「はい。なので、よく読んでおいてくださいね」
「わかりました。しっかり読んでおきます。……では、オレはこれで。色々とありがとうございました」
「いえいえ。私もこれが仕事ですから、お気になさらずに」
受付嬢とのそんなやり取りを最後に、ギルドの建物を後にする。
便宜上は合同庁舎って呼んでるけど、こういう建物って、なんて呼べばいいんだろうな?
……とりあえずはギルドでいいか。




