神様のレクチャー
新生児として生まれ落ちてから2週間が過ぎた。
これまでにわかった事は、とりあえず、オレはかなり良い家に生まれたらしいという事。
生まれに関しては、まあ、それだけ。
まあ、生まれて2週間だし、相変わらず言葉はわからないし、全部を把握するにはまだまだ時間が必要だ。
でもまあ、目は見えるようになったし、耳も聞こえるようにはなった。
だから、分娩の時にいた人間もわかった。
1人は母親。当たり前だけど。
少しつり上がった眼をした、キリッとした顔立ちの、凛とした雰囲気の女性だった。髪と眼は黒く、ともすれば日本人かと錯覚しそうになる。
胸は巨乳でも貧乳でもなく、美乳と呼ぶのが相応しいだろう。
もう1人は父親。ドアを勢いよく開けて入ってきた人。
母親とは対照的な、いかにも優男といった風な顔立ちをした男性で、笑顔が素敵な御仁だった。
でも体格はしっかりしていて、180cm前後くらいの身長をしている。髪は金で、瞳はエメラルドグリーンだった。
最後の1人……つまり3人目は、いわゆる助産師さん。
しかしただの助産師ではなく、我が家のメイド長だったらしい。
歳は……正直よくわからない。結構な年齢だとは思うんだけど、見た目が凄く若々しいと言うか……前世的に言えば、美魔女という感じ。
母さんの代わりによく抱っこしてくれるんだが、妙な力強さを感じる。そんな人。
そういえば、色んな人がよく話し掛けてくるのだが、未だに聞き取れた事がない。
……おかしいな。言語に不自由しなくなるのは異世界転生スターターパックって話だったはずなんだけどなぁ……。
……あぁ、そんな事考えてたら眠くなってきた。相変わらずこの眠気には勝てな――
◆
目が覚めると闇だった。
「……は?」
ちょ、ちょっと待て。……え?
まさか、生まれて2週間でまた死んだ?
……いや。いやいやいや、そんなまさか。
あり得ない。
だって、オレは生まれてこの方、室内にしかいないんだぞ? しかも生まれて間もないのに、死ぬわけないだろ。
「あははは。ごめんね。まさか君がそんなに狼狽えるとは思わなかったよ」
聞き覚えのある口調と声。
それが聞こえた方を振り向いてみれば、そこには、にこにことした笑みを浮かべた創造神イーリスが立っていた。
「お前……イーリス! 次に会うのはオレが成長してからじゃなかったのか?」
「そのはずだったんだけど、君がフリーシナリオタイプのゲームを苦手にしていたのを思い出してね。剣はともかく、魔法はやり方を知らないと訓練すら出来ないだろうから、教えに来たんだ」
なんて事を思い出してるんだ、この創造神。
まあ、確かにフリーシナリオなゲームは苦手だった。
お使いゲーが好きなわけでもないけど、まずあっち行って、終わったら次はこっち、みたいなゲームが得意だった。基本的にRPG。
……いや。それ以前に、オレのプライバシー侵害されすぎじゃない?
いくら神とはいえ、ね? そういう倫理的な部分は、ほら、しっかりして欲しいなぁ。
いや、むしろ神だからこそかな。
「まあ、それは悪いと思ってるよ。でもほら、魔法っていうか、魔力はまず感じておくに越した事はないから、ね?」
「……まあ、そりゃな。で、具体的にどうすれば魔法が使えるようになるんだ?」
「んー、まあ、でも、そんなに難しくないよ。魔力っていうのは、基本的に誰の身体にも宿るし、大気にも溢れてるものだから」
なんでもないような口調のまま、イーリスは告げる。
大気中にもあるのか……。
「うん。でね、まずはその魔力を知覚するところから始めるんだけど……」
「ああ。どうするんだ?」
「……君は、『今』の利き手はどっちだっけ?」
「うーん……ちょっとわからないな。でも、多分、両方かな?」
「両利きか! うんうん、いい感じだ。そしたら、右でも左でもいいんだけど、手を前にかざしてエネルギーが集まるようにイメージするんだ」
「イメージ……か」
「そう。イメージっていうのは、結構大切なんだよ。スポーツだって、仕事だって、成功のイメージがなければ上手くいかないからね」
それはなんとなくわかる。
イメージ……イメージかぁ……。
「魔法を使いたい時にイメージするのは、それがどういう形で現れるか。……あ、いや、違うな。どういう形で『現れるべき』なのか、だ」
「現れる……べき?」
「例えば、火球を呼び出して攻撃する魔法があるけど、それだって火球が火球として『現れるべき』だとイメージしないとならない」
……うん? なんか頭が混乱してきた。
つまり?
「つまりね? 魔法の行使によって現れるべき火球は、どのくらいのサイズで、どれくらい威力があって、どんな見た目をしているのか……なんて事をいちいちイメージする必要はありません」
「!?」
「今の全部嘘だから、忘れてね」
「えぇ……。あんまそういうのしないでくれると嬉しいんだけど……」
「ふふふ、ごめんね! でも、イメージは大切だよ。特に……この世界では『火はどうやって燃えるのか』みたいな化学系の概念はない。だから、手っ取り早く魔法を使いたいなら、そういうイメージから始めるといいよ」
「……お前、オレが理数系苦手なの知ってるだろ」
「あはは。まあでも、イメージするだけでも変わるから、訓練出来るようになったら試してみてよ」
まあ、言ってる事がいい加減っぽいとは言っても、神の言う事だ。間違いはないだろうし、言われた通り試してみてもいいかもな。
「……あっ、そうだ! 魔法のレクチャーはメインじゃないんだよ。本当は、例のスターターパックについて話にきたんだ」
「……そうだよ。なんか、今のところ誰の言葉もわからない状態なんだけど、スターターパックとやらは適用されてるのか?」
「うんうん、やっぱり不安になるよね。でも大丈夫だよ。生まれてからしばらくは言葉もわからないし、話せないからそうなってるだけ。1歳から1歳半くらいを目安に、一気に段々わかるし、話せるようになるよ」
1歳から1歳半と言えば、大体赤ん坊が話し始めるのに少し早い~標準くらいだ。
前世の知り合いの子も、大体1歳半くらいから単語で話し始めたって事だったし、その辺りはご多分に漏れずって事か。
「でも、僕自信、不思議なんだよね」
「何が?」
「普通はさ、神様が1人の人間に色々するなんてあり得ない事なんだよ」
「……なるほど? じゃあ、なんでイーリスは色々してくれるんだ?」
「……わからない。けど、人間風に言うなら、きっと僕は、君を憎からず思っている、って事なんじゃないかな」
「それこそ何でだ?」
「……多分、名前をくれたからだよ。あの時から、君は僕にとって『特別』なんだ」
「そういうもんか」
「そういうものさ。……ま、今はこれくらいで、次は本当に君が成長してからだ。そろそろ眠るといい」
「……そうするわ」
少し寂しいような気もするけど、神様なんて会えなくて元々なんだから、別にいいか。
「それじゃあ、またね。おやすみ、――」
「……? ああ、おやすみ」
最後の方……口は動いてたけど、声は出てなかっ……あっ、眠い! すっごい眠い! 大体なんでこの睡魔は抵抗でき――




