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ケモノビト  作者: 光月
27/41

覚えのある顔


 翌日。

 アルシェーラ魔導学院の入学テストの日。

 オレは、少し早めに学院に向かった。


「……多いな」


 そこには人の波があった。

 ビッグウェーブである。乗るしかない。


 いや、本当に乗るしかないかどうかはともかく、とにかく人が多い。

 見た感じでは、大体11歳前後の人が9割以上を占めているように思う。アルシェーラ魔導学院は10歳から入学出来るので、時期としてはちょうど良いだろう。

 残りの1割未満は10代後半だとか、冒険者らしき装備の人間だったりしている。

 まあ、全体数がわからないから、9割とか1割とか言っても定かではないのだけども。


 ともあれ、人は多い。

 かの戦争を期にメルフェム大公は魔導具を国外に輸出し始めたと聞くから、それを受けて国内外から魔法を使いたかったり、武術を極めたかったりする人間がやって来ているんだろう。

 魔法は今のところマグナの民にしか使えないが、近年の研究では、魔力はどの国の人間も持ち合わせているとかなんとか。

 それに、魔導具を使うには魔力を扱える人間がいないと話にさえならないから、そうした人間を育成するためにも学院に積極的に行かせていたりするんだろうな。


 魔法に関しては閉鎖的だったくせに、よくまあ決断したものだ。戦争のおかげかねぇ。


「……っと、受付を済ませておかないとな。学院に来てんのにテストは受けないなんて、何しに来たんだって話だ」


 そんな無様を晒したら、手続きをしてくれた兄上にもクラウディウスの家にも申し訳が立たないからな。


 という事で、早速受付に向かう。

 受付カウンターには、恐らく教員と思われる大人が3人ほどいて対応をしていた。

 3人程度で捌ける人数じゃないと思うんだが……まあ、それはこっちには関係ないか。


「名前を」


 受付カウンターの前まで来ると、短くそう告げられた。

 問答を簡素にする事で作業の効率化を図っているらしい。


「アルマ・クラウディウス」

「はい。では中へ」


 受付の教員は手元の書類にオレの名前を書き込みつつ、目を動かすだけで促した。

 ふーむ……クラウディウスの名に一切反応を示さないときたか。徹底された仕事ぶりで大変よろしい。好感が持てる。


 ともかく、受付は終わったので、試験会場たるグラウンドに向かう。

 ……それにしても本当に人が多い。会場に行くのも一苦労だ。


「……ま、日本みたいに海苔の佃煮にならないあたり、目には優しいか」


 蠢く海苔の佃煮。

 ああ……思い出すだけで若干気持ち悪く……。


「――ちょっと、そこのアンタ!」

「……あ?」


 ふと背後から声をかけられた……ような気がして、思わず振り向く。

 と、そこには、どこかで見た覚えのある顔があった。しかし、どこで見たのか思い出せない。


「アンタも学院に入るのね!」

「え? あぁ、うん、まあな」

「魔法と武術、両方やるの? どっちも得意だったわよね」

「あー……まあ、そう……かなぁ? 得意ってか、やりたい事だったってだけだけど」

「好きこそものの上手なれ、って事ね!」

「まあ、そういう事だな」


 目の前の少女。年齢は……多分オレと同じ。

 綺麗な長いピンクブロンドの髪をサイドテールに纏め、勝ち気そうな吊り上がった青色の目。

 そして、実に元気そうなツンデレキャラっぽい口調と声。


 ……おっかしいなぁ。

 どっかで見た事あると思うんだけど……どこだっけなぁ……? うーん……?


「でもね、私だって頑張ってきたのよ! きっとアンタにだって負けないわ!」

「そうか」

「ええ! アンタがどっか行ってた5年間、私は努力に努力を重ねたもの!」

「そうか」

「いくらアンタが神童でも、今となってはきっと私の方が上よ!」

「そうか」


 (とお)で神童、十五で才子、二十歳過ぎれば只の人って言うしな。

 いくらオレの潜在的な能力がイーリスのお蔭で優れてても、埋もれる可能性もあるわけだしな。


「……ねぇ、さっきから訊きたい事があったんだけど、いいかしら?」

「どうぞ」

「アンタ、私の事覚えてないでしょ?」


 はい、覚えてません! ……とは言えないよな。怒られそうだし。

 ……いや、待てよ?

 こういう手合は、変に誤魔化そうとすると逆に怒りを煽る事になるはずだ。つまり、ここは正直に話す方が吉!


「うん、覚えてないな」

「なんですってぇ!!?」


 しまった、逆鱗に触れた。


「私はアンタを目指して頑張ってきたのに、覚えてないってどういう事よ!?」

「いや、どういう事って――」

「大体ねぇ、私を放っておいて5年も何してたわけ!? 戦争とかあって大変だったのよ! 知ってるでしょ!?」

「まあ、それは――」

「それなのにこの私を放り出してどこかに行っちゃうなんて、婚約者としての自覚が足りないんじゃないかしら?」

「……婚約者?」


 はて。今生のオレに、そんなものいただろうか。

 前世では、親父が酒の席で親父の友人の娘をとかなんとか言ってた事もあったらしいが、アルマ・クラウディウスになってからそんな話は聞いた事ないぞ。

 父上も母上も何も言ってないし、兄上からもそんな話が出ているとは聞かされていない。

 姉上達……は、多分、自分達こそが婚約者だとか言い出しそうだな。おそろしい。


「何かの間違いじゃないか? オレは――」

『――これより、アルシェーラ魔導学院入学試験を開始する! 受験者は速やかに整列せよ!』


 否定しようと放ったはずの言葉を遮って、そんな声が聞こえてきた。

 これは……うん、アルシェーラ先生の声だな。魔法も魔力も使わずに、よく通る声だこと。


「やっと始まるのね。ほら、行きましょ?」

「あ、ああ……うん」


 少女に半ば強引に手を引かれ、婚約者がどうとかの話をハッキリと否定する事も出来ず、受験者として整列することに。


 まずいなぁ……非常にまずいぞ……。

 こういうのは、前世でアニメや漫画やラノベに浸っていたからよく知ってるんだ。

 ハッキリ否定する言葉を遮られ、否定する機会を何の偶然か徹底的に潰され、『その時が来たらでいいか』なんて考えてたら、気付けば根回しが終わってて逃げられなくなってるんだ。

 くそぉ……時期を見てとか言ってられないぞ。このまま整列すると隣同士になるだろうし、強引にでも話を聞いてもらわないと……!


 なんでオレ、主人公みたいな感じになってるんだ……?

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