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ケモノビト  作者: 光月
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災厄武装


「それでは……始めッ!」


 アルシェーラ先生との試合は、学院の広いグラウンドで、メリンダ先輩の合図を受けて始まった。


 家族を始め、使用人やアルシェーラ先生と会わなくなって5年の月日が経過している。

 その間にオレは『師匠』に武術を習い、魔法の腕を鍛え、一応の修了認定を貰った。

 片やマグナ公国は、戦争をしかけられ、敵軍を魔法の力を最大限利用して撃退し、そして……1人の我が儘な男によって、その在り方を変えられた。


 しかし、代わりにマグナの民は絶大な力を手に入れた。

『獣人』となったマグナの兵士達は、敵の反撃を一切許さないで戦争に勝ったという。

 つまり、普通の『人』では、『獣人』には及びもしないのである。


 とはいえ、オレには『師匠』がいた。

 母上の贈り物によって獣人組成術を回避したオレとは違い、彼女は紛う事なき『獣人』で、持ち前のセンスで3日と経たずにその力を自分のものとしていた。

 だから、それからの修行の主眼は『どうやって人の身で獣人を撃破するのか』という事になっていた。


 要するに、対獣人なら、オレは一家言ある場所に立っているわけだ。

 流石にアルシェーラ先生も強くなっているだろうけど、だからと言って、簡単に負けるような事はないだろう。


「アルマ」

「なんですか、先生」

「先手は譲ってやろう」

「……後悔しないでくださいね」


 ドヤ顔をしながら言われたので若干の苛立ちを覚えながら、無詠唱で『ボルトエクレール』を放つ。

 3歳だったあの頃とは違って魔法の腕もかなり上達したから、ボルトエクレールはより太く、より大きく、より多く撃ち出せるようになっている。


「行けっ!」


 バリスタの矢もかくやというほどのボルトエクレールが10本ほど、アルシェーラ先生目掛けて高速で射出される。

 アルシェーラ先生はそれを見て少し目を見開くと、あの時と同じように『グランドウォール』でボルトエクレールを防いだ。


 うん、アルシェーラ先生ならそうするだろうと思ったよ。


「次、行きますよ!」


 次に繰り出すのは『メルトランス』だ。

 青い灼熱の馬上槍(ランス)が中空に形成され、土の壁に飛んでいく。

 そして、メルトランスがグランドウォールを熔解させながら突き抜けるが、やはりそこにアルシェーラ先生の姿はない。

『やったか?』なんて言わない。

 何せ、この後にあの魔法が来るまでは、言ってみれば予定調和なのだから。


 重要なのはその先。

 オレがどれだけ成長したのかアルシェーラ先生にきちんと伝えられるのは


「――『アイヴィロック』!」


 この魔法を破ってからだ。


『アイヴィロック』は樹属性の魔法だ。

 相手の足元から蔦を伸ばし、対象を拘束(ロック)する。

 ダメージらしいダメージは身体を締め上げられる事による苦痛だけの、なんて事はない拘束用の魔法である。


 3歳のあの頃は、このアイヴィロックの締め上げが洒落にならないほど痛く感じられて、それ以上の事が出来なかった。


 ――だが、今は違う。


 母上にしごかれ、師匠に叩き伏せられ、痛みに対する耐性が出来た。

 歳を重ねて身体も成長して、大抵の痛みはもう、我慢出来るようになった。声だってあげないさ。


「……ふふ。我慢出来るようになったみたいだな?」

「もちろんです。痛いっちゃ痛いですけど、我慢出来なくはありませんから|


 あの時と同じように目の前に降り立ったアルシェーラ先生に、にこやかに言ってやる。


「お前が『ボルトエクレール』を撃ってきたから、つい、あの時と同じ対処をしてしまった。懐かしいものだな」

「そうですね。……あれから9年、オレも成長しました」

「そうだろうな。……うん。見せてみろ、アルマ。お前がどう成長したのかを」

「もちろんです、先生。――『フレアサークル』!」


 焔属性下級魔法の『フレアサークル』で、自分ごとアイヴィロックの蔦を灼き払う。

 もちろんオレにもダメージは来るのだが、それを聖属性の治癒魔法『ヒールケア』で相殺する。


 ちなみに『フレアサークル』は通常は広範囲を円形に灼き払う魔法なのだが、今はそれを自分の周りだけに発生させて蔦を灼いたのである。

 ……クッソ熱い。そして痛い。


「……お前な……」

「なんですか、その呆れたような声と顔は」

「いや……。だが、そんな事が出来るのはせいぜいお前くらいのものだぞ」

「使えるならなんだって使いますよ」

「やれやれ……教育を間違ったかな……?」


 先生に育ててもらった覚えは――まあ、ありまくるんだが……オレはそもそも、やれる事は全力でやりたいってタイプの人間だ。

 確かに、今のは属性適性にモノを言わせたゴリ押しもいいところのやり方だったが、効果的な一手であるのは間違いないはずだ。


 もしこれがオレと完全に敵対している存在との戦闘だった場合、その相手はオレが自爆したと思って油断するだろう。

 そうなったら狙い通りだ。

 つまり、これは、誰がなんと言おうと、欠陥戦術ではないのである。

 そういう事にしておいて欲しい。


「……では、先生。先手はお譲りしま――」

「『アイシクルスピア』」

「――うおおっ!?」


 突如として飛来した氷の槍を、寸でのところで回避する。

 グラウンドの、さっきまでオレがいた場所には、一抱えは間違いなくある太さの氷の槍が、ずっぷりとぶっ刺さっていた。


 あ、危ねえ……! なんて事しやがるんだ、この貧乳教師! まだ人が喋ってる最中でしょうが!


「……お前、やっぱり何か失礼な事を考えてるだろう」

「ははは、滅相もない。人の話を最後まで聞こうともしない鬼畜貧乳教師、だなんて、まったく思ってませんよ」

「……ほぉ? お前は私をそんな風に思っていたのか……」


 やべぇ、墓穴掘った。

 ち、違うんだよ。生来正直者だから、口が勝手に……!


「どうやら命は要らんらしい。『コキュートス』!」

「!!?」


 バキバキとアルシェーラ先生の足下から、刺々しい氷が周囲に広がっていく。

 それだけなら良いのだが、氷は明らかな指向性を持って、そのトゲでオレを貫こうと次々と氷のフィールドから生えてくる。


 氷属性最上級魔法『コキュートス』。

 発動者が魔力を送り続ける限り、あるいはその氷を半永久的に溶かされ続けない限りは、決して突破出来ないと言われる魔法だ。

 当然の事ながら、生半可な人間では対処出来ないし、間違いなく死ぬ。


 オレは辛うじて魔法で砕いたり溶かしたりしているが、コキュートスは維持に必要な魔力は少ないので、はてさて、いつまで保つやらわかったものではない。


「ちょっ、死ぬ! 死ぬって、先生!」

「ふん。随分余裕そうではないか。本当に余裕がなければ既に死んでいるだろう?」

「……………」


 バレている。

 この期に及んで未だに手を抜いているのだと、完全にバレている。

 しかし、弱ったな……。

 コキュートスを突破出来て、なおかつ周囲に与える影響が少ない魔法は、もう『アレ』しかない。

 だけど『アレ』はおいそれとは使えない。

 せめてメリンダ先輩がいなくて、周囲に人の気配が皆無なら良かったんだが、そうじゃない以上は『アレ』は使えない。


「どうした、アルマ? あるんだろう、奥の手が。このままでは本当に死ぬぞ」

「くっ……なんていやらしい先生なんだ……!」


 とはいえ、『アレ』は別に1つだけしかないというわけじゃない。

 ここで1つ見せる事になっても……多分、大丈夫だろう。入学するまでは温存したかったが、先生に乞われては致し方ない。


「そんなに本気が、見たいんですか、先生!」

「私は先生だからな。教え子がどこまで出来るのか、見る必要がある」

「なる、ほど……! それなら、仕方ないですね」


 アルシェーラ先生の言い分にも一理あるので、今まで誰にも、一度たりとも陽の目を見なかった魔法ではあるが、その一端を先生に見せてやろう。


「これは、オレが至った魔導の極致。入学するまでは取っておくつもりでしたが、その一端をご覧に入れましょう……!」

「ああ、こい……!」

「――【災厄武装(カラミティアームズ)黒き刧炎(メルトダウナー)】!」


 そのキーワードを口にした瞬間、黒い炎がオレの身体を包み込んだ。

 その黒い炎はコキュートスの氷を溶かしながらオレの両手に宿り、その姿を漆黒のガントレットへと変化させる。


 これはオレが研究と想像を重ねて辿り着いた、魔導の極致。


 その名を――【災厄武装(カラミティアームズ)】。


 強すぎるが故にあまり使いたくなかった、オリジナルの魔法だ。

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