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ケモノビト  作者: 光月
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アドラス工房のカルナ


 青果店を後にしたオレは、門番の男に教えられた通りの道順を通り、『学院』を見つける事に成功していた。

 いや、成功していたというか、建物がデカ過ぎて、道中『ああ……あれだな?』と薄々感じていたのが現実になっただけだが。


 そして『学院』の真向かいにある《猫の午睡亭》で、とりあえず1泊分の料金を支払い部屋を確保。

 その足のまま宿を出て、これまた近くにある《アドラス工房》へとやってきた。



《アドラス工房》はまさしく鍛冶屋という様相を呈していた。

 樽や木箱に突っ込まれた直剣や槍、商品棚とでも言うべき場所に陳列されている短剣に、壁にかけられた斧や長柄の武器。

 よくよく見てみると、蛇腹剣のような特殊な武器までもが飾ってある。

 果たして売り物なのかどうかは定かではないが、素人目に見ても、どれもかなりの業物であると思えた。


 さて。それはともかく、オレは剣が欲しくてやって来たのである。

 ……まあ、ぶっちゃけ武器はあると言えばあるのだが、あまり使いたくない類の武器なので、普通の剣が欲しいわけだ。


「すいませーん……!」


 とりあえず奥の空間に向かって呼び掛けてみる。

 工房というだけあって、多分ここは工房部分を内包した建物で、今いる店部分に誰もいないのなら、きっと奥にあるであろう工房で作業をしているに違いないと考えたからだ。


 かくして、オレの想像は当たっていたのだと知る。


「――なんだ、お前?」


 奥に続く廊下の先から現れたのは、10代後半くらいの女性だった。


 火を扱うからか、あるいは鉄や炭を切り離せない生活をしているからか、肌は青果店の女将よりも黒い。

 だが、対照的に髪の毛は一瞬白かと見間違えるほどに綺麗な銀髪で、瞳はオレと同じような紅い瞳だ。

 服装は少しダボついた長ズボンに、作業がしやすいようにか、暑さを紛らわせるためか、あるいは両方の理由か、ノースリーブのシャツを着ている。

 煤で顔や身体のあちこちが黒く汚れ、どうやら少し汗をかいているらしく、肌が照っている。


「オレはアルマ。アルマ・クラウディウス」

「はッ、貴族の子息か。あたしの工房の事、どこで知った?」

「……この工房は、知る人ぞ知るような工房なのか?」

「いいや。だけど、ここに来るまでにも鍛冶屋はあったはずだ」


 確かに、ここに来るまでの道中で何度も鍛冶屋を目にした。

 それは間違いなく真実であり、この街に住む彼女なら知らないはずはないだろう。


「それなのにお前はここに来てる。それはなんでだ?」

「……オレの要望通りの剣が手に入るのはここだと紹介されたから、かな」

「誰に?」

「名前は知らないな。聞きそびれた。門を潜ってすぐくらいにある青果店の女主人だ」

「……あぁ、あいつか。で、どんなのがいいんだ?」

「頑丈で、斬れ味の良い……何より、オレの身体に合ったものがいい。装飾は要らない。実用性だけを追求した直剣が欲しい」

「……わかった。ちょっと待ってろ」


 目の前の女性はそう言うと一度廊下の奥に引っ込み、しばらくしてメジャーを持って帰ってきた。

 なるほど採寸か、と勝手に納得して、両腕を横に広げて待っておく。


 すると、彼女は少し驚いた顔をして


「あたしが何するのかわかってたのか?」


 と訊いてきた。


「身体に合ったものを打ってくれと頼んだんだから、採寸するのは普通だろうと思ったんだ」

「……へえ。気に入った。あたしはカルナ。カルナ・アドラスだ」

「貴族家か豪商の子か?」

「いいや。アドラス工房はあたしが建てた工房だ。家名は大公サマ直々に頂いたのさ」

「……国に認められた鍛冶師って事か」

「ご名答。お前なかなか頭が良いな。あたしが会った貴族の子供の中じゃ、一番だ。歳は?」

「12。明日、『学院』の入学テストに行くんだ」

「なるほどな、それでか。よっし。腕下ろしていいぜ」


 カルナに言われるまま、広げた両腕を下ろす。


「じゃあ、早速始めるわ。3日……あー、いや、4日もあればお前用の最高の剣が出来る。4日後にまた来な」

「わかった。今日を含めるのか?」

「いや。今日含めたら5日後だ」

「そうか。じゃあ、その頃にまた来るよ」

「いつでも来い、アルマ。待ってるよ」


 カルナはそう言って軽く手を挙げると、身を翻して工房スペースの方に行ってしまった。

 妙に濡れた流し目でオレを見ていたのは、多分オレの気のせいだろう。

 カルナの容姿がオレの性癖にドストライクだったからとか、そんな事はない。断じてない。

 ……ない、って事にしておいて欲しい。

 でも……そう、汗をかいてる女性って、なんか、こう……いいよね。活動的で。好き。


「――はっ!? 危ない危ない……オレはまだ12だ。前世じゃ小5でオナニーに目覚めたが、この世界はそんなに平和じゃないし、ましてオレは貴族の息子だ。性欲はまだ溜めておけ、オレ」


 言い聞かせるように呟いてから、《アドラス工房》を後にする。

 工房の主であるカルナが『最高の剣』とまで言ったのだから、魔剣や聖剣は流石に望めないにしても、それに恥じない剣を打ってくれる事だろう。

 完成が今から楽しみだ。


 さて、それはともかく暇になってしまった。

 工房と言うからには、そこにいるのは紛う事なき鍛冶職人で、職人となれば基本的には気難しい性格をしているはずで、だからどうやってオレに惚れさせたものかと色々考えていたのだが。

 カルナがあんまりにもあっさりした性格で、挙げ句『気に入った』なんて言ったもんだから、当初の計画がすっかりパァだ。


 うーん、どうしよう?

 平民街を見て回る……のは確かに面白そうだけど、カルナみたいな公都の地理に強いだろう人間の案内が欲しいところだ。

 知らない土地を好き放題に歩き回って、挙げ句の果てに迷子になりましただなんて、笑えないにも程がある。

 そんな無様を晒して良いのは治安の良い場所だけだろう。


「んー……どうすっかなぁ……」


 ぐるぐると思考を巡らせ、しばらく考えて、ようやく結論が出た。


 そうだ、『学院』を見に行こう。


 言ってみれば、単独オープンキャンパスである。……まあ、中学に入る時も高校に入る時も、とりあえず見学には行ったが。

 ともあれ、自分が通う事になるであろう学校の事を事前に知っておくのは、なにも悪い事ではないはずだ。

 もしかしたら『学院』側の人間に『部外者』だとして見咎められるかも知れないけども……アルシェーラ先生とは交流があるんだし、まあ、なんとかなるでしょ!


「……よし。そうと決まれば早速行くか」



   ◆



 カルナの《アドラス工房》から『学院』までは、日本の普通の一軒家を3つ分くらい離れた場所にある道に入る事で行ける。

 少しわかりにくくはあるが、《猫の午睡亭》の真ん前なので、慣れれば迷う事はないだろう。


「それにしても、デカいなぁ……」


『学院』の全課程修了までの年数は6年だ。

 そして、貴族でも平民でも入学出来る『学院』に入りたいと願う少年少女は多い。

 そうなると、必然的に建物自体の規模は大きくなり、それに応じて関連した施設やグラウンドの規模も大きくなっている。

 ちなみに、『学院』は全寮制である。


 正直言って、これだけの規模のものを建てるのを、よくメルフェム大公が許したものだ。

 何せ敷地がべらぼうに広い。

 これだけの広大な空き地があったはずもなく、元々住んでいただろう人には立ち退いてもらったのだろうが、それにしたって広すぎる。


 東京ドーム? いや、もっとあるだろう。

 全体像はよくわからないが、東京ドームを2×2に並べたくらいはあるかも知れない。


「さて……どこから見て回ろうかな?」


 多分校舎なのだろう建物を見上げながら、どうしたものかと再び頭を悩ませる。

 なにせ、中身をまったく知らないのだ。

 見学しようって言ったって、どこに何があるのかわからないんじゃ仕方がない。

 日本の学校の校舎みたいに程よく手狭でもないし、案内がないと迷ってしまいそうだ。


「――そこのあなた、何をしているんですか?」


 頭を悩ませているオレの右側から、そんな声が聞こえてきた。

 振り向けば、赤いスクエアフレームの眼鏡をかけた女性――と言うよりは女の子――が、こちらをじっと見つめていた。


 ……早速バレたか。

 仕方ない、事情を話して案内を頼もう。

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