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ケモノビト  作者: 光月
20/41

理解を深めましょう


「このクソ領主」


 視察から帰って兄上に会うなり、オレはそう口にした。

 周りには母上をはじめ、姉上達もジェラルドもメイドもいたが、そんな事には構っていられなかったのである。


「クソ……っ!? お前、アルマ、一応俺はお前の兄で領主なんだぞ? 少しはそれらしく扱ってくれ」

「何が領主だよ。お飾りの肩書きを着るだけならオレにだって出来るさ。父上が死んでから何をしてたのかと思えば、まさか領地経営もまともに出来ない木偶の坊だとは思わなかったよ」

「なんだと……?」


 オレの言葉が少し気に障ったのか、兄上がぴくりと眉を動かす。

 イラつきたいのはこっちの方だ。


 今回の視察で判明した問題点は、大小の差はあっても、どれも見逃すには少し待って欲しい問題ばかりだった。

 税や井戸の利便性に関しては言わずもがなだが、知らず知らずにスラムが形成されていたりだとか、孤児院が潰れかけていたりだとか、とにかく、あまねく領民にこの領地で暮らす恩恵が与えられていない。


「母上。何故兄上ばかりに任せたのですか。父上をそばで見ていた母上なら、兄上に教授する事も出来たでしょう?」

「わざわざ言わねばわからないのなら、その器ではなかったと言う事だろう」

「なるほど。それを父上と母上の愛に当てはめて、『私の愛をわざわざ口にせねばならないのなら、それはお前の不徳だろう』と父上に言えますか?」

「……それとこれとは――」

「同じ事です。言わねばわからない事だってあるのですよ、母上」

「む……」


 まったく。

 なまじ武術畑の人間が多いだけに、内政に関して頭を回せる奴がいないのはキツいな。


「ジェラルド。今からオレが言う事を絶対に実行しろ」

「はっ。しかし、領主はライカ様で――」

「2度は言わん。領民を苦しめたくなければ素直に聞け」

「……畏まりました」

「よろしい。ではまず、この設計図を鍛冶屋に。さっき書いてきたヤツだ」


 視察に出る前にジェラルドに言っておいたものが用意されていたので、早速、手動ポンプの設計図を書いた。

 文字で機構の説明を書いておいたが、文字が読めなかった時の為にも絵をも描いておいた渾身の設計図だ。


「承ります。……アルマ様、これは?」

「ポンプだ。井戸に設置して、冬場の仕事を楽にすると同時に、子供のような力のない人間でも楽に水が汲める」

「なんと……!」

「だが、いくらか試作させろ。実験しなければ実用性の証明にならない」

「畏まりました」

「それから、今年から税を一律で3割に引き下げろ」

「何を言っている、アルマ! それはいくらなんでも……!」

「その代わり、その設計図を外に流せ。利権はクラウディウス家で握り、利用する領地から金を取る。ポンプの利便性は商人を通じて他の領地にも風聞が流れるはずだ」

「アルマ様はそこまで見越してこれを?」

「当たり前だろう。領主というのは……貴族というのは、民に楽をさせるためにいる存在なんだからな」


 領地とは、すなわち国である。

 領民は国民で、その地を治める貴族は国王だ。

 そして、国は民なくしてはあり得ない。

 民がいるからこそ国と呼べるのであって、王が独りで吠えたところで虚しいだけなのだ。


 だからこそ、領民は大切にしなくてはならない。

 領主は領民が暮らしやすいように領地を経営し、見返りに税を納めてもらう。

 それがあるべき領主と領民の姿のはずだ。


「それから、井戸を中心にして小屋を作らせろ。中には10人くらいが入れれば十分だろう」

「小屋、でございますか」

「そうだ。誰だって、寒空の下で冷たい水を扱う仕事をするのは億劫だろう?」

「それはそうですな」

「それから……ああ、いや、これはまだ準備がないから、またにしよう。とりあえずそれだけ、手配を頼む」

「畏まりました。早速手配いたしましょう」


 ジェラルドは恭しく頭を下げると、メイドを連れだって部屋から出ていった。


「アルマ……お前……」

「アルマ凄いね! 父上みたいだったよ!」

「そりゃどうも。ていうか腕離してくれよ、フレイ姉上」

「やだーっ!」


 にししっ、と歯を見せて笑うフレイ姉上。

 ……おかしいな。姉上、もう20手前だよね?

 昔とあんまり変わってなくない?


「アルマ。お前、内政が出来たのか……?」


 母上が訝しげに見つめてくる。


 まあ、それも仕方のない事だろう。

 ここ5年は世俗と離れて武術の修行ばっかりしてたし、父上の仕事を直に見たわけでもないから、文官系の仕事が出来るとは思わなかっただろうな。


 だが、オレには前世の記憶がある。

 知識チート……って割にはオレ自身への恩恵は少ないけど、あくまで貴族だからな。

 まあ、魔法があっても出来る事と出来ない事があるし、その辺りは考えないと。


「自分の持つ知識を応用させただけです。流石に父上のようにはいきませんよ」

「……ふむ。そういえば、先ほどまだ何かジェラルドに言いかけていたな。あれは?」

「家一軒一軒、領民1人1人に魔導具を配れないかな、と」

「魔導具を? しかしそれは――」

「確かに、普通の平民では手が出ないでしょうが、配るんですよ。無料です」

「……いいのか?」

「良いも悪いも。それでクラウディウス領の繁栄が買えるなら、安い買い物でしょう?」


 オレの言葉に母上は目を見開き、かと思えば、ふっと優しげに微笑んだ。


「お前はやはり、私とレオンの子だな。レオンも生前、そんな事を言っていた」

「そうなんですか?」

「ああ。突拍子もない事を言っては、それで領民が豊かになるなら安いものだ、とな」

「……なるほど。言いそうですね」

「――なあ、アルマ」

「なんだ、兄上? 言っとくが、領主代行とかそういう面倒な事はしないぞ」

「むぐっ……」

「でもな、兄上。視察だけは行った方がいい。平民達からの陳情だけではわからない『現実』が、そこにはある。平民と同じ目線に立って、平民の現実を知れば、兄上はきっと良い領主になる。クラウディウスの威名も復活しようってものさ」

「……そうだな。忙しさにかまけて、理解をしようとしなければ、待っているのは破滅か」

「そうだ。……ところで、学院への入学手続きはしてもらえてるのか?」

「ああ、問題ない。3日後に公都に向かえば、ちょうど入学試験の日に被るはずだ」

「3日後……か。わかった。ありがとう、兄上」

「フッ……可愛い弟のためだ、礼など要らん」


 キザにキメているライカ兄上。

 やれやれ……オレの前では良い格好したがるライカ兄上のままで安心したよ。


 でも……そうか、3日か。


「3日あれば領民全員に魔導具が配れるな」

「ああ、そうだ、アルマ。その魔導具、どんなものを作るつもりだ?」


 レンカ姉上がようやく口を開いた。


「とりあえず風雨から身を守れればいい。だから……そうだな、『ウィンドシールド』でも付与させた装飾品がいいかな。試作品を作りたいから、姉上達のを貸してもらってもいいか?」

「お姉ちゃんは大丈夫!」

「私は……そういったものは持ち合わせがな……」

「何言ってるのレンカ! 夜会のために仕立ててもらったドレスやアクセサリーがあるでしょ!」

「いや、しかし私は――」

「はい、次はライカ!」


 有無を言わさぬフレイ姉上の勢いに圧されて、母上もレンカ姉上もライカ兄上も、それぞれ装飾品を貸してくれる事になった。

 流石はクラウディウス家の長姉、長女と言うべきか。普段はやたらデレデレしてくるくせに、決めるところはきっちり決める。


 フレイ姉上が嫁に行ったら、旦那さんは大変だろうな……。

 その時は、せめてオレだけでもその旦那の味方をしてやろう。うん。


「じゃあ、明日あたりにそれぞれ装飾品を持ってきてくれ」

「うん。あ、ねえアルマ。今日、お姉ちゃんと一緒に――」

「寝ないからな」

「ならば私と――」

「レンカ姉上ならって話じゃないから」

「な、なら、俺か……?」

「兄上……なんでそうなる――」


「待て、お前達。私が先約だ」


 大人気(おとなげ)のないシーナ母上の鶴の一声が響き渡った。

 沈黙して母上の方を見つめる姉上達。

『してやったり』みたいな、すました顔をしている母上。


 ……そして、頭を抱えるオレ。



 結局この後、母上の寝室で母上に抱かれながら眠る事になった。

 約束してなかったんだけどな……。

 むしろ断ってすらいたんだけどなぁ……!

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