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ケモノビト  作者: 光月
16/41

前向きに検討します、とかの曖昧な返事は大体ダメな場合


「アルマ!」


 広間に入ると、早速フレイ姉上に飛びつかれた。なかなかに発育の良い胸がオレの胸部に圧されて、むにゅ、とその形を変える。


 フレイ姉上……5年前までは貧乳サイドの仲間だったのに、一体何があったんだ……?


「アルマ。改めて、よく帰ってきた。随分強くなったようで、私も母として鼻が高い」

「ありがとうございます、母上。しかし、オレが強くなれたのは母上やアルシェーラ先生の教えあっての事ですよ」

「まったく、そんな言い回しをどこで覚えてきたんだ? ……まあ、いいか。それで、何を話したいんだ?」


 母上はまったく……。

 昔から察するのが得意というか、なんというか。話が早くて助かるなぁ……。


「母上。オレはこれから、どうすれば良いのでしょう?」

「……どう、とは?」

「母上、先生、師匠から教えを受け、確かに強くはなったでしょう。しかしながら、力は振るわれなくては仕方がない。蓄えるだけなら誰にも出来ます」

「……そうだな」

「自分でも考えてはみました。オレは所詮次男坊ですから、家の事は兄上に丸投げして冒険者にでもなろうかと」

「冒険者……いや、今で言えば探索者だな。それになりたいのか?」

「……まあ、取り立ててなりたいってわけじゃないんですけど、わかりやすくて良いかなって」


 この世界で言うところの冒険者……いや、今は探索者か。それというのは、まあ、前世で読んだラノベの冒険者と遜色無い。

 ギルドに登録し、依頼を受けて魔物を斃し、依頼報酬と魔物素材を売って生計を立てる。

 少し違う部分があるとしたら、ギルドがいわゆる労働組合のようなものでなく、FPSゲームなんかでよくある『クラン』みたいな感じで運営されている事だろうか。

 それぞれのギルドで異なる規則があったりして、なかなか面白いシステムになっている。


「確かに、アルマにはその方が楽かも知れないな」とは、レンカ姉上の言である。


「そうだな。しかし、『学院』に行くのもいいんじゃないか?」と、ライカ兄上。


「……学院?」

「アルマはまだ知らなかったか。メルフェム大公の発案で公都に建てられた建物でな。武術と魔法を教える施設なんだ」

「ああ、なるほど。学舎(まなびや)という事ですね」

「知っていたのか……?」

「いえ。語感から想像しただけです。つまり、我が家でも母上や先生がやっていた事を、より大規模に、より組織的に行うという事でしょう?」

「うむ。その通りだ」

「そして、入学する生徒は、きっと実力順に分けられるのではないですか? 実力の低い者、高い者、飛び抜けた者……それに、武術しか出来ない者、魔法しか出来ない者もいるでしょうね。実力の近い者を一定数集めて1クラスとして、それぞれに担当の教師を宛てて教えさせる、と」

「……アルマ。まさか、見てきたのか?」

「いいえ、母上。修行が終わって真っ先に母上達に会いたかったので、時空魔法で直接帰ってきたのです。公都に行く用事などもありませんから、見てはいません」

「しかし、まるで見てきたように……」


 母上達が驚愕に目を見開いている。


 まあ、詳しいのは仕方ない。

 何せ、オレには前世の……日本で生まれ育った記憶が丸々残っているんだ。わからないはずがない。


「まあ、それはいいじゃないですか。……それより、オレが学院に行って意味などあるのですか?」

「それはあるだろう。私達は父さんの魔法で獣人になったのだ。力の使い方を、今一度覚える必要がある」

「はあ、まあ、それはそう……かも?」

「気が乗らんか、アルマ」

「いえ、母上。母上は覚えてはいませんか?」

「…………何をだ?」

「オレの3歳の誕生日に、母上がオレにくれたものです」

「ペンダントをプレゼントしたな。魔法を一度だけ無効化…………まさか!?」


 母上がずんずんとオレに近寄ってきて、オレの首に下がった金色のチェーンを掴み、その先を辿る。

 そこには、もうない。あったはずのものが、無いのだ。


「……無い。ペンダントのサファイアが……」

「そう……もうこのペンダントは、役目を終えたのです、母上。マグナに魔力の波動が奔った、あの日に」

「なら……だとしたら、アルマ……お前は……」

「皆まで語らずともわかりましょう、母上。あの日、ペンダントは仕事を果たした。つまりそういう事です」

「……アルマ。俺達にもわかるように話せ。そのペンダントはなんだったんだ?」

「ライカ兄上。このペンダントは、オレの命に関わるような魔法を、一度だけ無効化するものだったんだ。……兄上は『獣人組成術』が使われた日の事は?」

「もちろん覚えている。マグナ全土に及ぶ魔力の波動……あれを忘れた時など、一時もない」

「その日に、ペンダントは仕事を果たしたんだよ、兄上。だから、オレは――」

「まさか……『獣人』ではないのか?」

「その通り。正真正銘、生まれたままのアルマ・クラウディウスさ」


『獣人』の国となったこのマグナ公国で、オレだけが純粋な『人間』のままだ。

 人によっては、運命のイタズラだとか、あるいは神の気紛れだとかいうんだろうな。

 ……まあ、イーリスがそんな気紛れを起こすとは思えないけども。


「……でも、学院か。確かに、兄上の言う通り面白そうだな。入学の手続きってしてもらえたりする?」

「まあ、お前がそうしたいなら俺の方で手続きはしておくが……しかし、良いのか? お前からすれば、学院生など烏合の衆だろう」

「んー……まあ、場合によってはそうかも知れないけどさ」

「いや、場合によらなくてもそうだと思うぞ」


 兄上が真顔で言う。いつも仏頂面だけど、今は特に感情の動きが見えない。

 そんな顔して言わなくてもさぁ……。


「でもほら、不本意な事だったとは言え、獣人になって身体能力とか上がったんだよな? だったら、オレより強い人がいても……まあ、不思議じゃないでしょ? 母上だって強くなってるだろうし」


 どうにかオレから話の焦点をズラしたくて母上を出したら、母上から白い目で睨まれた。

 怖いからやめて欲しいなぁ……。


「ライカ。アルマの入学手続きを今すぐやるように。アルマは私と手合わせをしよう」

「わ、わかった、母さん」

「あ、あの、母上? オレは師匠との修行から帰ってきたばかりですし、今日は休ませて――」

「さあ、庭に行くぞアルマ。お前の成長した姿を私に見せてくれ」


 背格好だけじゃダメですか母上!

 オレ、結構身長伸びたと思うんです! 具体的には170cmくらいに! それじゃダメなんですか!?


「何を呆けている。ほら、早く来い」

「……はい……」


 拒否権なんて無かった。

 腕に絡み付いていたはずのフレイ姉上もいつの間にか離れてるし、レンカ姉上もライカ兄上も憐れむような優しい目付きでオレを見ている。


 やめて! そんな生暖かい目で見ないで!


「……お手柔らかにお願いします、母上」

「考えておこう」

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