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ケモノビト  作者: 光月
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新しい『先生』と戦争に落ちる陰


 アルシェーラ先生の下で魔法を学ぶようになって、早くも4年が経過した。

 いや、正確には、アルシェーラ先生の下で3年、そして『もうお前は私の手には負えん』と言われて1年が経過した。

 事実上の破門だった。


 まあ、破門されてしまったものは仕方がないので、魔法を自分で改良出来ないかの実験がてら、屋敷のある街の近くにある森に出掛けた。

 最近までは、魔物や動物をハンティングのついでに実験台にしては、その成果を屋敷に持ち帰る日々が続いていた。


 ちなみに、魔法の改良は割と上手くやれてる。

 イメージで魔法をいじれるんだから、まあ、楽なものだ。


 ……え? シーナ母上の剣術訓練?

 ははは……! あんなもの、口にするだけでもおぞましい。

 イーリスの計らいで素質が備わっていたから良かったものの、無かったら今頃廃人になってるところだ。


 まあ、それはさておき。

 今、オレはどこで何をしているのかという話なのだが……。


「――どうしたの? まだやれるでしょ。ほら、立って」

「くっそおおぉぉ!!」


 今オレは、マグナ公国にあるどこだかわからない山の中で、『師匠』に転がされている。

 アルマ・クラウディウス7歳。春の陽気麗らかな、ある日の事である。


『師匠』と出会ったのは、つい最近の事だ。


 元々旅をして暮らしていた師匠は、ある時、街の近くにある森に足を踏み入れた。

 そこには弱い魔物からそこそこ強い魔物まで幅広い魔物が棲んでいて、動物もかなりの数がいる、師匠にしてみればかなり良い場所だったらしい。

 そこは一体どこかと聞かれれば、つまりそこは、オレが狩りと魔法の実験に利用していた森だったわけだ。


 そうして、程なくしてオレと師匠は邂逅を果たした。

 それはそうだろう。

 森の中を歩く旅人と、毎日毎日狩りと実験の為に森に入り浸る子供だ。出会わないはずがない。


 師匠との出会いは、忘れたくても忘れられない。

 なにせ、それだけ衝撃的だったから。

 前世でさえ、女性とあんな出会いをした事はなかった。



   ◆



 その日も、オレは魔法の実験と狩りを兼ねて、森の中にやって来ていた。

 いつも通り、午前中は魔法の実験にあてて、午後からは狩りをする。


 師匠との邂逅は、狩りの最中の事だった。


 その時オレは、『レッドテイル』と呼ばれるトカゲのようなワニのような……まあ、とにかく爬虫類系の魔物を相手にしていたのである。

 目的は狩りだから、母上から貰った剣を使い、レッドテイルの首を斬って『さあ、解体だ』というタイミングで、それはやってきた。


 それは猛スピードでオレの近くに来たかと思うと、バッとオレの手を取り、開口一番


『君に一目惚れしたんだ、結婚しよう?』


 などと(のたま)った。


 まさか森の中で自分以外の人間に会うどころか、求婚されるなんて夢にも思ってなかったから、一瞬でオレの頭は混乱した。


『え……?』

『あ、でも、私の旦那さんになるには、ちょっと実力不足かな? ……うん。よし! 私が君を鍛えてあげよう!』


 まだ頭の中の整理が出来てないうちに、そんな事をまくし立てられたもんで、混乱に拍車がかかって仕方なかった。


 この後の事はあまり覚えてないが、レッドテイルを解体してからその女性と屋敷に戻ったのは辛うじて覚えている。



   ◆



 と、まあ、そんなこんながあって、今オレは地面に転がされているのである。


 それというのも、オレがこの女性の弟子になって、直接稽古してもらっているからだけど。

 なんだってそんな事になったのかと言えば、まあ、母上もアルシェーラ先生も、結局はオレを持て余したという事だろう。


 オレは、『最強』になって俺TUEEEEがしたい……かどうかはともかく、なれるんなら最強になってみたいとは思っている。

 母上や先生が師匠にオレを預けたという事は、オレの目標を達成するためには彼女に師事した方が良いと考えたからだろう。たぶん。


 実際のところ、母上や先生相手には軽く上回れてたオレの実力も、師匠の前では手も足も出せていない。

 今現在、この世界にいる『最強』が誰かと言われたら、まず間違いなく師匠だろう。

 だから、彼女についていくのは間違ってはいない、はずだ。自信ないけど!


「ほーら、早く立って? 地面とキスして吠えてるだけじゃ、誰も強くなれないよ」

「わかってるわ!」


 昼下がりの山の中。


 朝からずっと斬りかかっては転がされてを繰り返してズタボロな身体をなんとか起こして、師匠に向けて再び構えを取る。


 腕も、脚も、頭も……重い。

 だけど、やらなきゃ最強には至れない。

 もっと楽に、簡単に最強になれたらとは思うけど、人生の近道(ショートカット)なんて愚策もいいところだ。

 とにかく喰らい付いて、師匠の一挙手一投足を観察して、それら全てを吸収、昇華させるしかないんだ。


「いくぞ、師匠ォォ!!」

「うん、おいで。何度でも立ち上がって、何度でもかかっておいで。それが君に今出来る事だよ、アルマ」


 いつもと変わらない柔和な微笑みを浮かべて、優しい声音で言う師匠。

 今は憎たらしいとしか思えないけど、それを力に換えて地面を蹴り出す。


 全ては『計らい』をくれたイーリスに報いる為に。

 全ては『異世界転生チート』をこの身で感じたいが為に。

 ……いや、ぶっちゃけた話、異世界転生するってなったら最強チートは欲しいよ。うん。



 ただ、今この時、マグナ公国では気になる事が進行している。

 隣国がマグナの魔導の力を求め、畏れて、連合を組んで戦争を仕掛けてきているのである。


 シーナ母上は公国最高峰の剣士として戦場に出ているし、レオン父上も忙しくしていた。

 マグナ公国が負けるとは思わないが……戦争だし、何が起こってもおかしくはないだろう。

 願わくば、何事もなく戦争が終結する事を。




 しかし、オレの希望は裏切られる事になる。

 それも、およそ考えたくはなかった最悪の形で。

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