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ケモノビト  作者: 光月
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実力テストは力試しのようなものです


 模擬戦になると決まったらあとは早かった。

 アルシェーラ先生はオレを連れて転移用らしき魔導具を使うと、明らかに人気(ひとけ)のない、広大な草原に転移していた。


「では、模擬戦を始める。準備はいいな、アルマ?」

「はい。でも、先生。模擬戦とは言っても、どこまでの事なら許されるんですか?」

「……まあ、持てる手段は全て使うべきだな。私も遠慮などしないから、好きに戦ってみせろ」

「……わかりました」

「うん。お前の実力テストも兼ねてるから、手加減するなよ」

「……まあ、はい。頑張ります」


 今の今まで魔法の1つも満足に使ってこなかった人間に、この先生はいったい何を言っているんだろう――などと思わないではないが、言われた通りの事をするのは結構得意だ。

 自分で自分の実力を確認するためにも、アルシェーラ先生には胸を貸してもらうとしよう。体格に対していささか貧相なその胸を!


「……『アイシクルスピア』!」

「うおおっ!?」


 アルシェーラ先生の方から放たれた氷柱の槍を、直撃する寸でのところで躱す。

 あ、危ねえ……! なんて事するんだ、この貧乳教師! せめてもう一声くらい掛けろよ!


「お前、私に対して何か失礼な事を考えてるだろう」

「滅相もありません」

「そうか。……『ソルバレット』!」

「あ、『アクエリアヴァント』!」


 無言の後に発動されたいくちもの土の礫を水の壁で防ぐ。

 何が『そうか』だよ! 教え子に対する多少の手心は……ないか。ないな。ないって言ってたもんな。


「あの、アルシェーラ先生……? どうして先程から、少し怒ってらっしゃるので……?」

「気にするな。お前が私に対して、恐らく貧乳だとかなんとかと考えているだろう事とは関係がないからな」

「……………」


 バレてらっしゃる。

 ま、まあいい。今は色々試させて貰おう。


 とりあえず、攻められたままでは面白くないので、これまでの2年を使って頭の中に構築した魔法辞典のページを必死に捲る。

 その中から、周辺に被害の比較的及ばなそうな魔法を選んで発動する。


「次はオレから行きます! 『ボルトエクレール』!」


 魔法の名前を口にすると、オレの周囲を紫電が循環し、それが徐々にクロスボウで使うボルトの形を取った。数は5本程度。


「いけっ!」


 そのまま魔法を押し出すように、右手を挙げてから先生の方に向かって振ると、キュボッ、という空気を置き去りにしたような音が聞こえ、5本の紫電のボルトが先生に向かって飛んでいった。


 …………あれ?

 なんでそんなに破壊力高そうなの? なんで?

 マグナ魔法大全には『雷属性の初級魔法』って書いてあったよ?


「くっ……! 『グランドウォール』!」


 かなりの速度で飛来する紫電のボルトを見て、避けきれないと考えたのかアルシェーラ先生が魔法を発動する。


『グランドウォール』は、その名の通り土の壁を生じさせる魔法だ。

 メリメリ、ゴゴゴゴ、と重たい音を響かせ、アルシェーラ先生の手前の土がせりあがり、紫電のボルトはそれに被弾する。……が、威力が足りないようで、土の壁をいくらか抉ったところで消えてしまった。


「うーん……初速は速いけど、モノ自体の速さは普通くらいか……」


 ボルトエクレールは、発射の時こそ凄まじい音と速さだったが、先生の方に行くにつれて速度が段々と落ち込んでいっていた。

 その速さは、大体70km/hといったところだろうか。速いと言えば速いのだが、雷速で飛んでいくと思っていたため、個人的には物足りない。


 とはいえ、まずはあの土の壁をどうにかするべきだろう。

 パッと見た感じだと、横は3メートルくらいだけど奥行は1メートルくらいっぽいし、さっきの火球か、貫通性の高い魔法で貫くのが良いかも知れない。


「とりあえず……『メルトランス』!」


 魔法の名前を口にすると、青い炎が馬上槍(ランス)の形を取り、土の壁目掛けて飛んでいった。

 放たれた青い炎槍は土の壁に着弾するや否や、土で出来ているそれを溶かして、なおも前に進んでいく。


「……やったか?」


 思わず、そんな言葉が口を突いて出る。

 この場にオレがもう1人いたなら、『やったか、はやってないフラグだって言ってんだろ!』と言っていた事だろう。


 だが、『メルトランス』の威力はそれほどまでに、想像以上の破壊力を有していた。

 その熱量は土の壁をすっかり溶解させ、その向こうへと突き抜けている。


「――『アイヴィロック』!」


 やはり『やったか』はフラグだった。

 どこからともなく響いたアルシェーラ先生の声が聞こえた直後、オレの足下から何かの植物の蔦が勢いよく生えてきて、オレの身体に絡み付き、締め上げてきた。


「ぐ、ああああ……っ!」

「――まったく、厄介な奴だな、お前は」


 ふわり、と、アルシェーラ先生はオレの目の前に『降り立った』。

 多分、風属性の魔法だろう。名前はちょっとど忘れしたが、マグナ魔法大全に空を飛ぶ魔法も載っていたと思う。

 もちろん、風属性でも最上級の魔法だったが。


「けど、ま、想像以上なのは良い。私もなかなかに楽しめたからな。……ところでアルマ、魔法を使うのは初めてなんだったか?」

「……そ、うです……!」


 全身をぎりぎりと締め上げられる痛みに耐えながら、なんとか言葉を吐き出す。

 中身が20代の精神じゃなかったら痛すぎて泣いてるぞ、これ。それくらい痛い。


「初めてでこれなら、あと3年もしたらお前は私のところから卒業かも知れんな。まあ、正直今の段階でも少し持て余しているが」

「……ぐ、う」

「まあ、力の程度は大体把握した。とりあえず帰るか」


 先生がそう言うと同時に蔦による拘束から解放され、蔦はしゅるしゅると生えてきた場所から地中に帰っていった。

 ……ここ草原なんだけど、あの蔦はどこから来たんだろう……? 魔力で生成されたのかな?


「ほら、早く来い。この後はまだ少しだけ訓練を続けて、そのあとはシーナの訓練だぞ」

「……母上の」

「そうだ。……ま、死にはしない。たぶん」

「目を見て言ってください、先生」


 ふいっ、と顔ごと視線を逸らしながら言うアルシェーラ先生に、かなり不安を煽られる。

 ただでさえ姉上達からキツいって聞かされてるってのに、なんで希望を殺すような事を言うんだ……!


「ま、まあ、なんだ。シーナも、3歳に上がりたての我が子に、そんなにキツい訓練はさせないと思うぞ……?」

「……………」

「それより、ほら、早く私に掴まれ。まだフレイ達の訓練が残っているんだからな」


 確かにこのままこの草原にいるわけにもいかないので、来た時と同じようにアルシェーラ先生の手を握る。

 次の瞬間、ふわりとした感覚と共に、オレはクラウディウスの屋敷の庭に帰ってきていた。


「アルマ!」

「アルマ……!」

「アルマ。大丈夫だったか? 死んでいないな?」


 帰ってくると同時に、フレイ姉上達がわっと群がってくる。その様子を見るに、結構心配させてしまっていたようだ。

 ところで、レンカ姉上。ただの模擬戦で転移しただけなのに、『死んでいないな?』はあんまりでは……?


「大丈夫だ、姉上達。オレは平気だよ」

「よかった……。先生と模擬戦なんて、私でもボロボロになるから心配してたんだよ!」


 ほう、フレイ姉上は先生との模擬戦の経験があるのか、

 ……いや、姉上達の反応を見るに、多分、先生との模擬戦は通過儀礼みたいなものなんだろうな。

 本当ならある程度訓練したところでするはずが、初日から模擬戦だったから心配させた……って事なんだろう。


「お前達、まだ訓練は終わってないぞ。アルマの実力はわかったし、全員、同じ訓練メニューでいくからな」


 アルシェーラ先生のその言葉を境に、訓練が再開される。

 フレイ姉上達はまだ心配そうにしていたが、アルシェーラ先生の言葉となれば逆らうわけにもいかないらしく、渋々ながら元いた場所に戻っていった。

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