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ケモノビト  作者: 光月
10/41

アルシェーラ先生の授業


「では、魔法訓練を始める」


 パーティの翌日。

 朝食が済んですぐにアルシェーラ先生に呼ばれ、早速、姉上達と同じように、庭で魔法の訓練をする事になった。

 ちなみに、この後には母上による剣術の訓練が控えている。

 ぶっちゃけ3歳児の身体能力でこなせるメニューではないと思う。姉上達いわく、母上の訓練はめちゃくちゃキツいらしいし。


「さて。訓練を始めると言っても、今回からはアルマがいる。だから、お前達にはつまらないかも知れないが、おさらいから始める」


 アルシェーラ先生が言い終えるや否や、先生の周囲に赤と緑の光る球体が生まれ、くるくると先生を囲むように回り始めた。


「アルマ。これが何かわかるか?」


 アルシェーラ先生が赤い光る球を手のひらに乗せて見せてくる。

 うーむ、なんだろう。魔法の訓練なんだから、やっぱり魔法に関係あるものなんだよな?

 となると……発動する前の魔法? いや、魔法はその場ですぐに発現するから、その線はないか。

 だとすると――。


「……魔力、ですか?」

「魔力か。それだけだと、50点だな」

「じゃあ、属性を乗せた魔力ですね。単純な魔力は不可視の力。だとすると、可視化されているそれはいずれかの属性を含んだ魔力だと思います」

「……ほぉ。驚いた。正解だ。私はフレイと同じエレメンタラーだが、今はとりあえず火と風の属性魔力を操っている」


 なるほど、だから赤と緑か。イメージ通りの配色でちょっと有難いな。


「というわけで、最初の課題はこれだ。属性魔力を球体で生成し、自在に動かせるようになる事」

「……そんな事でいいんですか?」

「ふふ。まあ、見た目では簡単そうに見えるかも知れないが、結構難しいぞ?」


 アルシェーラ先生は飽くまでそう告げてくる。


 ふむ……確かに簡単そうには見える。

 でも、やっぱり難しいのかね。

 何せ『大魔女』とまで呼ばれるアルシェーラ先生が難しいって言ってるんだし、それなりに難易度の高い技術という事だろう。


「アルシェーラ先生。何か、コツみたいなものはありますか?」

「コツ……コツか。まあ、強いて言えば、最初から球体を作ろうとは思わない事だな。これは想像力の鍛練も兼ねているから、最初から課題通りにする必要はない」

「なるほど、わかりました」

「うん。それでは、やってみろ」


 アルシェーラ先生の言葉を受けて、とりあえず想像しやすくするために目を瞑る。


 まずは球体をイメージしよう。

 前世の記憶から引っ張ってくるとして……馴染みがあるのは野球ボールだろうか。

 スポーツにはあまり興味は抱かなかったが、子供の頃は誘われるままに野球をしていた覚えがある。


 ともあれ、球体だ。イメージは固まった。

 次は……属性。魔力に属性を乗せる工程。

 これは、とりあえず全部。出来なかったら1つずつ減らしていけば出来るはずだ。

 火は赤、水は青、地は茶、風は緑、光は黄、闇は紫、樹は深緑、焔は真紅、氷は水、雷は蒼と黄、聖は白、時空は黒……かな。

 雷だけ2色で、ちょっと特別感あるなぁ。


「……アルマ、お前……!」


 うん? なんか、憔悴したようなアルシェーラ先生の声が聞こえる。

 もうちょっと集中してイメージしたいから、まだ話し掛けないで欲しかったんだけど、なんだろうね?


 ええと、球体にした属性魔力を自在に動かせるようになるのが課題だったよな。

 どうしたらいいんだろう。属性は全部で12種だから……6種ずつに分けて、交差させながらぐるぐる回せばいいか。


「……よし! ん?」


 目を開けると、そこには驚きに目を見開いたアルシェーラ先生がいた。


「あの、どうしたんですか、アルシェーラ先生?」

「どうしたも何も……気付いてないのか?」

「……何がでしょう?」

「はぁ……。とりあえず、自分の周囲を確認してみろ」

「? はぁ、わかりました」


 判然としなかったが、言われて確認してみて理解した。

 回っている。

 12種の色分けされた光る球体が6種ずつに分かれて、オレの身体の周りを、エックスのアルファベットを描くように、ぐるぐると。


 ……いや、むしろ、その回転速度からして、最早『ぎゅるぎゅる』と形容した方が適当かも知れない。


「おお、出来てる。オレすげぇ」

「お前……本当に3歳か?」

「れっきとした3歳児ですよ。昨日、誕生日パーティやったじゃないですか」

「いや、それは……そうなんだが……」

「それで、アルシェーラ先生。これをクリアしたら、次は何を?」

「え? ……あ、ああ、うん、そうだな。そしたら……実際に魔法を使ってみるか。まずは初歩中の初歩のファイアボールから」


 ファイアボールは文字通り火の玉を生み出して射出し攻撃する魔法だ。

 というわけで、さっきと同じようにまずは火をイメージして、それを球体に成形するようイメージを重ねる。

 すると、人の頭程はあるサイズの火球が目の前に現れた。


「……なあ、アルマ。お前、魔法を使うのは、これが初めてなんだよな?」

「そうですよ?」


 マグナ魔法大全を読んでからも、1歳や2歳の赤ん坊が魔法を使うと要らぬ騒動を招くと思って、日々魔力操作をして過ごしていた。

 暇さえあれば魔力操作。本を読んでても、ご飯を食べていても、トイレしてても、とにもかくにも魔力操作ばかりしていた。

 寝る前には魔力操作、朝起きてすぐに魔力操作。そんな2年間を過ごしてきた。

 だから、実際に魔法を使うのはこれが初めてだ。


「……まあ、お前ほど魔力操作が上手かったら不思議じゃないか」

「魔力操作だけは……まあ……」

「なんだ? まさか、この3年間そればかりやってきたとか言うんじゃないだろうな?」

「ははは、そんなまさか」

「そうだよな。そんなはずないよな」

「はい。せいぜい2年ですよ」

「…………は?」


 ビシッ、とアルシェーラ先生が固まる。

 ……はて? 事実を告げただけなんだけどな。

 まあ、いいか。アルシェーラ先生にしかわからない事だろう。


「……火か」


 理数系は苦手だったからいまいち覚えが悪いが、火ってヤツは温度によって色が変わったはずだ。

 確か……赤が温度が一番低くて、オレンジ、白、青って具合に高くなっていくんだったかな? だから、青い火が一番温度が高い……はずだ。


「青い火か……綺麗かもなぁ」


 と口にした刹那、目の前にあった火球の色が赤から青へと変化した。

 ……ああっ、そうか! 魔法は想像の具現化だから、頭の中のイメージがまるっと反映されるのか!

 まずいな……このままだと、意図せず魔法の殺傷能力を底上げする事になるぞ……。


「青い炎か。綺麗なものだな」


 きっとこの世界には燃焼の原理とか、その解説とかは無いんだろうな。だってアルシェーラ先生が青い火球を見て、ちょっとうっとりしてるし。

 こんなもん、危険物以外のなんだって言うんだ。


「先生、危ないですよ?」

「うん? まあ、魔法とはいえ火……火炎だからな。それは危ないだろうさ」

「……いえ、そうではなく」

「……じゃあ、なんだ?」

「その火球、めちゃくちゃ温度が高いので」

「温度が? それがどう危ないんだ?」

「……どう、と訊かれると少し説明に困るんですけど。何か、大きな岩か何かありませんか?」

「岩? それくらいなら私が創ろう。ほら」


 アルシェーラ先生がそう言って手を振ると、高さ2メートルくらいの、オレからしたら大きな岩が地面から生えてきた。


「じゃあ、いきます」

「うん? うん」


 許可も得たので、早速、青くなった火球を岩にぶつけてみる。

 すると、岩の火球の当たった場所は熔解し、どろりと地面に流れていった。


「…………おい」

「はい」

「これは、ファイアボール、だったな?」

「そのはずですけど……」


 後にも先にも、さっきの火球が『ファイアボール』の魔法で生み出された事実は変わらない。


「どこの世界に岩を溶かすファイアボールがあるんだ!」


 ……いやぁ、多分どの世界にも無いんじゃないかなぁ……。


「……アルマ。お前は少し……いやかなり、普通の奴とは違う。そこで、特別訓練をしてやろう」

「特別訓練……!」


 なんとも素敵な響きじゃないか。

 それはそれとして、特別訓練って一体何をするんだ?


「アルシェーラ先生。特別訓練とは、何をするんです?」

「模擬戦だ。私とお前で模擬戦をする」

「はあ、模擬戦……」

「そうだ。実戦で力の使い方を学べ」


 いきなり実戦か。

 ……まあ、習うより慣れろって言ったりするし、手っ取り早くて良いかな。


「わかりました」

「よし。じゃ、ちょっとついてこい。さっきからそこで呆然と突っ立ってるお前達もだ」


 アルシェーラ先生が少し呆れたような表情で姉上達に声をかける。


 そういえば、姉上達は特に何を話すでもなく静かにしていたけど、どうしたんだろ?

 そう思って姉上達の方に顔を向けると、そこには、驚きの表情のまま固まってこっちを向いているフレイ姉上達がいた。

 そんなに驚く事があったのか……。

 世の中って何があるかわからないもんな……。

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