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絶海孤島のアークメイデン  作者: 天草光
6/8

#6:乾いた影

漂流者研究ファイル5:太洋丸

元々は海中資源の調査、研究のために開発された機体。武器のパイルバンカーはその名残である。その他の武器は追加で装備された酸素魚雷とバルカン砲。

太洋丸は搭乗者である愛海が命名したもので、父の乗る漁船からその名を取っている。

 温泉がある交流センターを出たら、外は若干薄暗くなっていた。

 島民は無料で入ることが出来る交流センター内にある温泉は、7時を過ぎると閉まってしまう。年頃の女の子であるツバサは、夜中ののんびりとした時間帯にゆっくりと入りたいところであったが、こればかりはどうしようもなかった。

「この(まち)は、終わりの時間が早いなあ」

 街灯が一本しかない通りを歩きながら、ぽつりと呟いた。

 なんとなく、自分の部屋に戻りたくない。そう感じたツバサは、一人港の堤防まで歩いていた。

 太陽がすっかり隠れてしまった水平線を、ぼんやりと眺めた。太陽が沈んでしばらく経つが、それでも尚西の空は明るかった。

 明るく染まる宵闇の空が何故だか眩しく、ツバサは目を細めた。

「ここいたんだ」

 振り向くと、スウェット姿の愛海が立っていた。首元にタオルがかけてあり、シャンプー香りと愛海の香りが混ざった湯上りの空気が、ツバサの鼻まで伝わってきた。

「なかなか戻って来んから、ばーちゃん心配しちょったよ」

 愛海は溜息をつきながらツバサの方へ静かに歩みを進めた。

現在、ツバサは愛海の家である宿に居候をしていた。夕食は、愛海の実家が営んでいる民宿の時間に合わせて食べている。そのため、こうやって愛海が外に出ているツバサを探しにくることがたびたびある。

「もうちょっとここにいたい」

 ツバサは堤防に腰掛け、また水平線の方向へ向き直った。その瞳には、いつもの自信気な輝きが見られなかった。

 愛海は黙ってその横に腰を下ろした。

 二人は何も話さず、暗くなっていく水平線をじっと眺めていた。


「いつになったら終わるのかな」

 どれだけ時間がすぎたか、ツバサが口を開いた時には、暗さで周りが見えづらくなっていた。

「終わるって?」

「戦い」

 ツバサは、左側にそびえ立つ岩山の方を向いた。愛海もそちらの方向へ目をやる。剥き出しの岩肌に、漂流者(リバイバー)が叩きつけられた痕が痛々しくこびり付いていた。

「もし、大学にいくお金が貯まったとして、その頃には漂流者のことも全部分かって、そして戦いも終わってんのかな」

 そういうとツバサは膝を抱え、身体を丸くした。

「ど、どうしたん?今日のツバサおかしくない?」

 愛海は、違和感というより、軽い恐怖を覚えていた。

 いつもどこか高飛車で、余裕そうな立ち振る舞いをしているツバサが、突然弱々しい姿を自分に見せた。自分が知っているツバサの姿はどこにもなく、隣には身体を丸めて固くなっている少女しか居なかった。

「ごめん、やっぱなんでもない。戻ろ」

 そういって立ち上がったツバサは笑っていたが、どこか悲しそうで、それが無理をしているということがすぐに理解できた。



 夕食の後、愛海は自室に戻り学習に取り組もうとしていた。島に高校がないため、自分ができる学習といえば通信教育のテキストと、webで公開されている授業動画くらい。

 それでも、自分の将来のために、毎日ただひたすら問題を解いていた。机に向かえば、時間が過ぎてゆくのも気付かないくらい没頭していた。

 でも、何故か今日は全く手が進まない。机に座って30分経とうとしているのに問題用紙は真っ白のままだ。

 解き進めたくても、問題に集中しようとする度にツバサの顔が浮かんでくる。

 二人で家に戻った後の夕食の時間は、いつものように桜庭重工の作業員や建築会社のオジサン達と楽しそうに会話をしていた。

 しかし、いつもなら夜中までお話に付き合っている筈なのに、今日は食事を終えたらすぐに自分の部屋に戻っていった。

 なんでだろう……。アイツのこと、デカい顔して勝手にしゃしゃり出てきたヨソ者としか思っていなかったのに、夕方に見たあの顔が頭から離れない。

 どうして、こんなに心配しているの?

 忘れよう、問題を解いて。

【1】空欄を埋めよ。

 (1)10世紀になると、戦いの技術に優れた都の(ツバサ)や、地方の豪族が台頭し、(赤崎ツバサ)が新皇を名乗り(赤崎ツバサ)を起こし私は問題集を鷲掴みにして壁に叩きつけた。

「なんなの……もう」

 何が分からなくなっているのか、今自分が抱いている感情の意味さえ、ぐちゃぐちゃになっていて、理解が出来なかった。

 いらいらして、ドキドキして、なんだか胸が締め付けられて、初めての感情が込み上げてきて、怖くなってきた。

 表の自販機でジュースでも買って落ち着こうと、部屋を出たその時だった。

「あ……」

 会いたくなかった。胸が苦しい原因。

「……」

 ツバサ、どうしたの? トイレ? 外行くん?

 かける言葉は沢山ある筈だった。

 

 でも、愛海は黙ってツバサの手を引き、自分の部屋へ招き入れたのである。

「……」

「…………」

 しかし、部屋に入ったところでお互い無言で突っ立っているだけであった。

 チクチクと、時計の針の音が大きく部屋に響いていた。部屋の外からは、大人たちの宴の声が静かに聞こえてくる。

「突然、パパが死んだ時の事思い出しちゃったんだ……」

 ツバサが口を開いたのは、どれだけ時間が過ぎた頃だったか、お互いに分かっていなかった。

「お父さん、亡くなってたんだ……」

 愛海はツバサの手を引き、部屋の隅にあるシングルベッドに座らせた。

「駅のホームから落とされてね……」

 声が震えていた。でも瞳は乾いていて、夕方同様いつもの輝きはどこにもなかった。

「パパ、お仕事めちゃくちゃ頑張って、「今年の夏は絶対に沖縄行こう」って言って……。でも、顔も名前も知らない人に……全部……」

 そこまで言うと、愛海の肩に顔を埋め、ベッドに倒れ込んだ。胸元に、少女の温もりと、湿っぽさが感じられた。

「漂流者と戦ってると、怖くなって……アイツら、何なのって……。前までそんなこと考えなかったのに」

 顔が近い、胸の音、聞かれちゃう。頭の中が情報と感情でかき乱され混乱していたが、弱々しく震える強気だった少女を黙って抱きしめた。

「今日は、こうさせて……」

 それからは、ずっと抱き合っていた。何も言わずに、ただずっと。



 気付いたら朝になっていた。

 いつの間にか寝たのだろう。もうすでにお互いの態勢はほどけていて、横を向くと彫刻のように美しく整った少女の寝顔があった。

 それに触れたいと思った。でもそれと同時にそれに触れたら壊れてしまいそうな、そんな錯覚を覚えた。

「ん……」

 顔に手を伸ばそうとしたその時、ツバサがゆっくりと身体を起こしたのに驚き、びくっと身を引いた。

「おはよ」

 ふわりと微笑んだ彼女の顔は、昨夜のような乾いた影はどこにもなかった。いつものように、力強くて、そしてどこか自慢げな表情の彼女が、そこにいた。

「おはよう」

 綺麗な顔。まつげが長くて、鼻も通っていて、見惚れてしまう。

 でも、何故か昨日のような胸を締め付けるドキドキは感じられなくて……。

「昨日は、ありがとね」

 ツバサはそういうと愛海の頬に手を添えて……



―――静かに唇を重ねた



つづく


迷走あるのみ。話が思いつかないなら好きな話を書こうとした結果がこれです。無茶苦茶だぁ。

雰囲気だけで汲み取ってくれたら幸いです。

感想お待ちしております。こういう話が読みたいっていうのもあれば是非。

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