#3:お粥
漂流者研究ファイル2:漂流者
沖ノ環島に突如とした現れた巨大生命体。その姿は海洋生物を模しており、兵器等が融合している場合もある。
生体、出現理由などは未だ分かっておらず、調査研究が現在行われている。
「うおおおおおお!」
ツバサは「飛べ」と強く念じた。
瞬間、その想いに応えるかのように、白いアークメイデンの背中からレーザー状の真っ赤な翼が出現した。
「うそ!?」
めぐみは目を見開いた。
「出力装置無しでどうやって動かしてんの!?」
愛海の眼鏡に、純白の装甲が映し出されているモニター画面が映り込む。
「いっけえええええ!」
飛びあがれ!
そうとだけ念じた。
瞬間、期待は天空に舞い、一瞬で漂流者との距離を詰めた。
しかし、勢いがつき過ぎてそのまま中に浮かぶ巨大ザリガニに頭から激突してしまった。
「うぎゃっ」
衝撃でコクピットの中が激しく揺れる。
態勢を整えなきゃと思ったその時、急に前が見えにくく……あれ?なんか左目だけ暗く……手に力が……入らな………頭…………いた、い―――――――。
機体は、そのまま冷たい水面へ打ち付けられた。
3話 お粥
「……う……んぁ?」
ツバサは、ゆっくりと瞼を開けた。目に突き刺さる外界の光を感じ、自分が今まで寝ていたんだということを思い出した。
でも、寝る前は一体何をしていたんだっけ?そもそもここはどこだろう。
ボーっとする意識の中身体を起こすと、見覚えがある黒髪の美少女がベッドの横の椅子に座っていた。
「よかった!気が付いたんですね!」
美少女は、心底ほっとしたと言わんばかりの表情を浮かべていた。
「……ここは?」
覚醒し切っていない頭にやっとのこと浮かんできた言葉はそれだった。
「ここは、『リバイブバスターズ』本部の医務室です」
「リバイブバスターズ?」
ツバサは、聞きなれない言葉に頭を傾げた。
「この島に出没する『漂流者』を調査研究、そして撃退するための組織です」
桜色のセーラー服を身に纏った少女は、にこやかにそう続けた。
「ところで、覚えていますか?ツバサさんが4thに乗った時のこと」
「ふぉーす?」
瞬間、ツバサの脳内に気を失う以前の出来事がまるで映像の早回しのように蘇った。
「あ……」
間違えて乗ったフェリーと、それを襲った巨大ガニと、蒼いロボットと、赤と白のロボット。そして……
「腕、大丈夫だった?」
傍らに座る少女、めぐみが戦闘に巻き込まれ腕を負傷したということ。
「そんな……3日も経ったので大丈夫ですよ。それよりツバサさんの方こそ大丈夫なんですか?」
「え?みっか?え……?」
ツバサはめぐみのその言葉を聞き、言葉を失ってしまった。
「ツバサさんが漂流者を撃退した後気を失って、その後3日も寝込んでいたんですよ?」
「は!?そんなに!?」
「そうだよ」
二人が声をする方に目を向けると、入り口の扉が開き、健康的に肌が焼けている眼鏡娘が入ってきた。手にはお椀とコップが乗ったお盆を持っていて、青色のセーラー服の袖を捲っている様子から、活発そうな印象を受けた。
「紹介しますね。彼女は『青野愛海』さん。アークメイデン2ndのパイロットです。」
めぐみがにこやかにそういう間、愛海はずっと黙っていた。
「アタシは赤崎ツバサ。よろしく」
「知ってる。めぐみから聞いちょる」
愛海は手に持ったお盆をベッドの横の台の上に置き、めぐみの横の椅子に座った。
「そっちは知っててもこっちは初対面なんだけど?」
ツバサは唇をとがらせたが、愛海は表情を変えることなく話を続けた。
「そんなことより、ほら。」
愛海はそう言うと、お盆に乗っている茶碗とレンゲを手に取った。
「はい、あーん」
口元に差し出されたレンゲの上で、お粥が白く輝いていた。
口の中にお粥が運び込まれる。柔らかく溶けた白米の感触。そしていままで感じたことがないほど米の味が口の中に染み渡り、鼻の奥までその香りが広がっていった。
「うまぁい!」
こんなにおいしいと思ったお粥は今まで食べたことがない。そう感じる程に、口の中にあるそれは美味で、感動するものだった。
「食事も3日ぶりくらいなんやろ?いろいろ考える前にこれ食べて元気つけんと」
それまで無愛想な印象を与えていた愛海は、ふわっと笑った。
(無愛想かと思ってたけど、こんな顔もするんだ)
その表情を見て、ツバサは思わずドキっとしてしまった。
*
「で、この島で一体何が起こってるの?」
ツバサは久方ぶりの食事を採った後、その事を聞いてみることにした。
聞きたいことは山ほどあったが、一番知らないといけないのは、あの時眼前に広がっていた明らかな『異常』だった。
「半年前、突然奴ら(漂流者)が現れたんです。」
めぐみはスマホを操作し、画面をツバサに見せた。
「クラゲ?」
画面に映っていたのは、港に大量に浮かんでいるクラゲの大群だった。
「それは、タダのクラゲじゃなかたんよ」
リンゴの皮をしゅるしゅる剥きながら、愛海はつぶやいた。
「そうなんです。このクラゲは一晩で合体していき巨大になって……」
「……なにこれ」
画面をスライドして次の画像を見たツバサは息を呑んだ。
「島内の電力を吸収し、そのまま爆発したんです」
道路中に散らばる無数のゲル状の物体。路上の車は横倒しになっており、家屋の壁にはヒビが入っていた。
「思えばそれが始まりやったなあ」
愛海はリンゴを切る手を止め、遠くを見つめるように目を細めた。
「その後、私達『桜庭重工』が電力の復旧にあたっていたら、今度はツバサさんが見たような巨大生物が出現したんです」
「あの、『私達桜庭重工』って……」
めぐみが話した言葉の違和感に、ツバサは思わず横槍を入れてしまった。
「桜庭重工の社長『桜庭一真』は私の父です」
怪訝な表情を浮かべるツバサに対して、めぐみはにこやかに答えた。
「めぐみって、社長令嬢だったんだ……」
自分の目の前に座っている大和撫子が、なんだか遠い存在に思えてきてしまった。
「そうそう。めぐみが一緒に持ってきていた初号機がなければ最初の漂流者は倒せなかったかも知らん」
愛海はどうぞ、と、切り分けたリンゴの皿をツバサに差し出した。
「初号機?アークメイデンの?」
ツバサは差し出されたリンゴを爪楊枝で突き刺した。
「アークメイデンは、元々資源採掘用の重機ロボだったんです」
めぐみはスマホの画面を操作し、アークメイデンのステータス表示画面を見せた。
「私達は、元々沖ノ環島が保有する火山資源の採掘と、その研究のためにこの島を訪れたんです。アークメイデンはその作業のために持って来たのですが、その時たまたま巨大生物騒動に巻き込まれてしまって……。」
「今に至る……か。」
アークメイデン初号機『ガイア』の重機を思わせる装備を眺めながら、ツバサはリンゴをかじった。
「その後、漂流者を倒すチーム『リバイブバスターズ』が作られて、ウチが乗る2号機『太洋丸』、今日は来ていないもう一人のパイロットが操る3号機『ナイトライガー』が戦闘用に開発されてこの島に配備された。」
愛海は足を組み直して続けた。
「そしてツバサが勝手に乗った4号機『イカロス』がこの間配備されて、輸送中にあんな事になったんよ」
ツバサは、港での出来事を思い出し、一人頷いていた。
「ふ~ん。で、その漂流者って一体何者なの?」
ツバサのその問いに、二人は一瞬黙ってしまう。
「……実は漂流者が何者か、何故現れるのか、まだ分かっていないんです」
最初に口を開いたのはめぐみだった。その表情から、めぐみが心に浮かべている悔しさが伺えた。
愛海も拳を握りしめ、同じく悔しそうな表情を浮かべていた。
「そっか」
ツバサはなんだか耐えられなくなり、リンゴが刺さっていない爪楊枝に視線を落とした。
「私達の仕事は、『アークメイデン』を操り、この島の漂流者を撃滅することです。それが、今の私達にできることです」
めぐみは静かに、でも強く微笑んだ。
「戦ってったら、ヤツらがどういうのかってのも分かるかも知らんし」
愛海も同じようにツバサに微笑みかけた。
「二人とも、すっごいことしてんだね」
二人の力強い表情を見てると、ツバサの胸は苦しくなっていった。
いままで自分は一体なにをやってきたんだろう……。
理不尽が重なって降り注ぎ、全てがどうでもよくなって何もかも投げ出して、日本一周とか言いながら現実から逃げて。
自責の念が、少しずつ、少しずつ広がっていく……。
「アタシさ、いろいろあって学校辞めてバイクで旅してたんだけどさ、なんか今までのこと考えると恥ずかしくなってきちゃった」
ツバサは、改めて二人を見ながら口を開いた。
「アタシも一緒に戦いたい」
つづく
予定よりはるかに遅れてしまいましたがなんとか投稿までこぎつけました。
書いては消しー書いては消しーの繰り返しでした。前回前々回で散らばった設定を回収するのに精いっぱいでした。回収しきれてない部分もありますが……。
そして明かされるめぐみの社長令嬢という肩書!意外と家庭的な愛海!
めぐみのキャラは以前から決めていたんですけど、愛海に関しては勝手に動いてくれてキャラが出来た感じですね。僕としてはクールな感じを一貫したかったんですけど、これはこれでアリかと。小説を書く楽しさの一つでもあります。
さて、一緒に戦うことを決意したツバサですが次回どうなってしまうのか!お楽しみに!
そしてよろしければ感想を是非お願いします。執筆修行中の身なので、どんな意見でも糧にしたいです!それではまた次回!