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絶海孤島のアークメイデン  作者: 天草光
2/8

#2:アークメイデン

漂流者研究ファイル1:沖ノ環島

鹿児島県南部にある離島。海底火山の隆起により誕生した島。火山は今でも活動しているが、観測が200年以上噴火は見られていない。島は自然が豊かで、牛の放牧が行われていたり、野生のクジャクがいたりと生命を直に感じることができる。

歴史は古く、その昔、源平合戦で生き残った平家武士「在寄俊法(ありよりのとしより)」がこの島に流れつき、島の住民に助けられたという伝説が残っている。


「もしもし、めぐみです。はい。無事到着しました。」

 めぐみと名乗った少女は、スマホを耳にあて、大型のトラックが降りてくる様子を見守っていた。

「今の所異常は特に見当たりません。問題なければ時間通りに格納庫に到着できます」

 海から吹いてくる風が、腰まで伸びている艶やかな黒髪を揺らした。

「問題は、「この後」無事か、なんよ」

 横で並んでいる少女は、その小麦色の細い右腕を逆側に伸ばした。

愛海(まなみ)さん、怖いこと言わないでくださいよ」

 めぐみは、苦笑いを浮かべた。その苦笑いもどこか上品で、育ちがいいことを伺わせた。

「何でよ。いつも船が来たときには必ず……」

 トラックが港に降り、続けて真っ赤なバイクが出てきた瞬間だった。


 船体が巨大なカニのハサミで引き裂かれ、船は大爆発した。


2話 アークメイデン


 鼓膜だけでなく、身体の奥まで轟音に揺さぶられる。

「今回もか……」

 愛海は、足元のエナメルバッグからヘッドセットを取り出し、装着した。めぐみも、トレンチコートのポケットからインカムを取り出した。

「2nd、発進準備お願いします!」

 炎が上がっているフェリーに向かって、愛海は駆けていった。

 その途中で、赤いライダージャケットを着ている人が倒れているのに気付いた。

「めぐみはその人を、整備班は港の人を避難させて!」

 めぐみは頷き、すぐそばでうずくまっている人に駆け寄った。おそらくさっきトラックと一緒に降りてきたライダーだろう。

「大丈夫ですか?」

「いてて……。なんなのアレ……」

めぐみは、その人がヘルメットを脱いだ瞬間驚きの表情を浮かべた。

「お、女の人だったんですか!?」

 綺麗に染まった茶髪、整った鼻筋、シャープな輪郭、キリッとして澄んだ色をしている双眸。

「こんな美人な女のコがなんでバイク乗ってるの?って顔してる」

「ひゃっ」

 バイク乗りの少女の吐息が、肌に伝わってくる。思わず赤面してしまった。

「そうじゃなくて、あんなに派手に転んだのに怪我一つないなんて」

「そりゃあ、プロテクター入りのジャケット着てるし、ヘルメット被ってたからね……。デキる女の嗜みだよ?ってそういういのどうでもいいって!」

ツバサは、自分が乗ってきた筈の船と、それに襲いかかっている巨大なカニを指差した。

「あれは一体何なの!?」

「あれは、漂流者(リバイバー)。この島に生息する指定有害生命体。いわば『疫病神』です。」

 巨大なカニは、堤防に手を伸ばした。

「アタシのバイク!」

「ダメです!」

 めぐみは駆け寄ろうとしたツバサを抑えた。

「漂流者は、機械類を見境なく捕食する性質を持っているんです。近づいたらあなたも巻き込まれます!」

「でも!」

 漂流者は、バイクをハサミで掴みあげ、そのまま口に放り込んだ。

「そんな……」

 メキン、バキン、とうてい咀嚼音には聞こえない音が、ツバサの目の前で鳴り響いていた。

「アタシのバイクが、喰われた?」

 鹿児島まで共に旅をしてきて、もはや相棒ともいえる存在がいとも簡単に壊されてしまった。それも、こんな一瞬で、あっけなく失うものなのか……。

目の前の光景が信じられなくて、目の前が真っ暗になっていく感覚を覚えた。


『うおおおおおおお!』

 

だが、天から聞こえてきた女性の雄叫びと、何かが割れるような鈍い音でツバサは我に返った。

「そして、あれがあの疫病神を殲滅するための救世主」

 海のように深い蒼のボディ。

 攻撃的な印象を見る者に与える鮫を象った頭部。

 右腕に装着された巨大なパイルバンカー。

 港を守るように、20mほどの巨大なロボットが仁王立ちしていた。



「アークメイデン」





「性懲りもなくフェリーを沈めて……」

 蒼いアークメイデンのコクピットで、パイロットの愛海は声を荒らげた。

 モニターに写っている巨大なカニが憎たらしくて、頭が爆発してしまいそうだ。

「ウチらは生活かかってんやぞ!」

握りしめた右ハンドルを振りかぶり、殴るようなモーションで前へ突き出した。

その動きと連動して、アークメイデンも同じように拳を放った。

右腕に装着されたパイルバンカーで、漂流者の腹部を抉った。漂流者はこの一撃が効いたのか、奇怪な悲鳴を放った。

『やった!』

 コクピット内の愛海は、漂流者の苦しんでいる表情を見て小さくガッツポーズした。

「いや、まだです!」

 めぐみの声は震えていた。

「あれ、やばくない?」

 傍らで見守っていたツバサも、表情が引きつっていた。

「アガガガガガがガががガあgggggg」

 苦しんでいたと思われていた巨大なカニは、その大きな身体を小刻みに震わせていた。

「愛海さん!はやくトドメを!」

 めぐみがインカムで指示を出した時にはもう遅かった。

 ぱき、ぱき、という音が聞こえてくる。そして、その音の感覚は短くなっていき……

「あギャアAアアア!!」

 爆発するように甲羅が辺りに飛び散り、その中から羽の生えたザリガニが出現した。

『どんな姿でも倒せば関係ないやろ!』 

 愛海は、さっきと同じように、ザリガニにパイルバンカーを打ち込もうと拳を振りかぶった。

『ウラぁぁああああ!!!』

 しかし、その攻撃は空を切った。

『なっ!』

「上です!」

 愛海が上を見上げると、ザリガニが空高く飛び上がっていた。

『そんな……。海上戦仕様のこいつじゃ……』

 愛海に悔しそうな表情を浮かべている暇はなかった。

 割れたザリガニの腹部から出てきたそれに、見ていた者は全員目を丸くした。

「「『ガトリング砲!!??』」」

「ギェエええエエ!」

 愛海が操縦するロボに向かって、弾丸の雨が降り注ぐ。

「きゃああああああ」

 銃弾の衝撃は、コクピットまで響いてくる。

「こっち!」

 ツバサはめぐみの手を引いて、港の待合所に駆けこんだ。

「屋根がある場所ならとりあえず大丈夫っしょ」

 建物の外では、ザリガニの流れ弾が地面に穴を開け続けていた。

「ケガはない?えっと……」

 ツバサは、自分を助けてくれた美少女の名前を呼ぼうとして、困ってしまった。せっかく助けてもらったのに名前を聞きそびれてしまっていた。

「桜庭めぐみです」

 微笑みながらそう答えた彼女の声は透き通っていて、人の声を聴いたとは思えないような心地よさを感じた。

「アタシは赤崎ツバサ。さっきはありがと!」

 ツバサは微笑み返すと、すぐに表情を元に戻した。

「って自己紹介してる場合じゃなさそうだね」

 外では、まだ戦闘が続いていた。

『早く逃げて!』

 アークメイデンは、港で逃げ遅れた人を守るように、銃弾を受け続けていた。

「早く!こっちだ!」

「こっちです!」

 ツバサとめぐみは待合所を飛び出し、逃げ遅れた人たちを誘導した。

「あとはこの子だけです!」

「わかった!」

 最後に走ってきた女の子をめぐみが抱え上げたその時だった。

「危ない!」

 ツバサは反射的にめぐみの手を引っ張った。

 めぐみの腕から振り落とされた女の子をツバサは受け止める。

 瞬間、めぐみの腕を銃弾が掠めた。

「きゃああああああ」

 ツバサに覆いかぶさるように、めぐみが倒れ込んでくる。

 ツバサは、抱きかかえた女の子が傷口を見ないように、顔を隠すように抱きしめた。

 傷は浅かったようで、破れた袖から血が滲む程度だった。

「そんな……」



『くっそ!もう耐えられない!』

 コクピットの画面にはDANGERの赤文字が表示されていた。

愛海の操縦している機体『アークメイデン2nd 太洋丸』は、海上で戦うために作られているため、このような空を飛ぶ敵は想定していなかった。そのため、無駄だと分かっていても、できるべき事といえば耐えて増援を待つか、相手の体力切れを待つかしかないのである。

しかし、そろそろ機体が限界を迎えようとしていた。

『きゃああああ』

 ヘッドセットから悲鳴が聞こえてきて、愛海は背後の待合室を振り向いた。

「な……めぐみ!」

 入り口から僅かに見える建物の中から見えたのは、腕を抑えているめぐみの姿だった。

「よくも……めぐみをおおおおおおお!」

 愛海は、空高く飛ぶ漂流者に向けて右腕を伸ばした。

 太洋丸に装着されたパイルバンカーが展開し、巨大な(やじり)が露わになった。

「くらえええええええ!!!」

 愛海が叫ぶと同時に、バンカーが漂流者目掛けて射出された。

 バンカーはザリガニの頭部目掛けて飛んで行った。

 その一撃が命中する瞬間、ザリガニは宙返りをしてバンカーを避け、太洋丸に突っ込んでいった。

「まず

い」と言い終わらないうちに、漂流者の体当たりがヒットし、太洋丸は港に打ち付けられた。

「がはああっ」

 辺り一面に砂埃が舞い、衝撃で待合所のガラスにヒビが入った。


「おいおいおいおい……勘弁してよ……」

 宙に浮かぶ羽の生えたザリガニ。

 銃弾で穴が開いた港。

 そこに横たわる巨大ロボット。

 肩から血を流す少女と、泣き叫ぶ女の子。

 生ぬるい南国の風が、硝煙のにおいを運んできた。


 これが、現実に起こっていることなのか、ツバサには理解できなかった。

 一字違いで訪れてしまった島で、怪獣騒動に巻き込まれるなんて、自分が知っている以上の逆境があるなんて……。


(そういえば、一緒に乗っていたトラックは無事なのかな)

 ヘンなところで頭が冷静になるもんだと、自分でも驚いた。

 めぐみ曰く「機械類に反応する」らしいから、あの巨大なトラックも例外ではないのでは。

 そう思い外を見ると、トラックが横転しているのが目に入った。

「あのトラックに積まれていたのって……」

 横転したトラックの荷台は、黒のシートが剥がれ落ちていて、船に乗っていた時から気になっていたそれが露わになっていた。

 

「アーク、メイデン……」


 白と赤の美しい機体が、港の上で不恰好に横たわっていた。


 ツバサはそれを見た瞬間、無意識のうちに待合室を飛び出していた。

 「ツバサさん!駄目です!」

 今度はめぐみの制止など聞かなかった。

 コクピットが露わになっている機体に駆け寄っていき、勢いに任せてそれに飛び乗った。

「あれ、これって……」

 シートの形状、ハンドルの位置。ツバサが乗ってきたバイクとほとんど同じだった。

「面白いじゃん……」

 ツバサは、コクピットの中でにやりと笑った。

 同時に、コクピットの扉が閉まる。


「もう目の前でムナクソ悪い事が起きるのは見てらんないんだよ……」

 ハンドルのグリップをギュッと握る。

「お前を……ブッ飛ばす!!」



つづく


2話遅くなりました。見た感じ他の方の作品は毎日投稿がされているのですごいなあ、と感心している次第です。ぼくには無理ですね……。

そして!2話でも!まだあらすじを抜けていない!大変だあ!!

今回と次回にかけて、世界観の説明をしていくっていう感じです。次回でアークメイデンや漂流者について掘り下げていければと思います。そしてキャラクターも……。勢いで描いているせいでどうもキャラが立ちませんねえ。難しいです。

てなわけで、感想、意見お待ちしております。些細なことでもいいです。修行中の身なのでドシドシお願いします!糧にしたいんです!!

それでは、また次回!

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