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絶海孤島のアークメイデン  作者: 天草光
1/8

#1:沖ノ環島

はじめまして。天草と申します。

リハビリ兼執筆修行のために連載小説を書くことにしました。

どうかお楽しみください。

1話 沖ノ環島


その日は3月だというのに、身を切り裂くほどの寒さだった。ここが鹿児島市の港湾地区だということを忘れてしまうほどに……。


 海岸沿いのコンビニに、二台のバイクが停まった。

「チクショー……。こんなに寒かったら仕事になんねえや」

 コンビニから出てきた青年は、寒さに顔をしかめながら買ってきたコーヒーの缶を開けた。

「こんな寒い日はあったかい飲み物に限るよねー。おにーさん。」

「あぁ?」

 聞き覚えのない声が聞こえ、青年は思わず缶から口を離した。

 視線を少しだけ落とすと、高校生か、大学生くらいの少女が、自分が買ったのと同じブラックコーヒーの缶を弄び、佇んでいた。

 大学生にしては少し幼すぎる気がするが、髪は綺麗に染まった茶色で、赤いライダージャケットとデニムのパンツ。まるでベテラン女性ライダーの出で立ちである。靴は何故か安全靴。怪我防止だろうか?

「おにーさんもライダー?」

少女は、缶から視線を逸らさずに話しかけてきた。

「「も」ってことは、やっぱあのバイクお前のか」

 自分が停めたオフロードバイクの横に、夕日のように真っ赤なロードスポーツが停まっていた。

「けっこう荷物積んでるけど、旅行中か?」

「そ。日本一周の途中!」

「は、はあぁ!?」

 青年は、少女の放ったその言葉の衝撃の反動で、持っている缶を落としそうになった。

 高校生くらいの女の子がバイクに乗っているというだけでも驚きなのに、そのうえ、女一人旅。そして日本一周。驚きなんて言葉ではとうてい表せない。彼の頭の中ではショックのドミノ倒しが起こっていた。

「でさ、次は沖縄行きたいんだけど、どこの港行けばいいの?」

 少女のその言葉で、青年はドミノ倒しから戻ってきた。

「そっか……ここの港広いからな」

 交差点の案内標識に目を向けた。


『鹿児島港前交差点』

 ←市役所方面

↑桜島フェリー乗場

→種屋久、奄美、那覇行乗場

↓産業道路方面


「あっちかな。桜島フェリーと逆方向」

「そうなんだ。サンキュー!」

「鹿児島港は行き先ごとに乗り場違うから、行く港間違えんなよ!」

「わかった。はいこれお礼」

 少女は、青年に飲みかけのコーヒーを押し付けた。

「は?」

「じゃあね。ハンサムなおにーさん」

「ちょ……おい!」

 少女は、「ハンサムなおにーさん」に投げキスをして、港へと走っていった。

「なんだったんだ、あいつ」

 


「いまごろあのおにーさん、現役のJKに話しかけられたって舞い上がってんだろなー」

 赤いバイクに跨った少女は、沖縄行のフェリーが漂着している港へ向かって走っていた。

「オキナワ行……ここかな?」

 港湾地区の二車線道路をしばらく走ると、小さな看板が見えた。カタカナで『オキナワ行』と書いてあり、視線を看板の先に向けると、小さな待合所と、港に入ってくる船が見えた。

「やばっ!もう来てんじゃん!」

少女はアクセルを捻り、『オキナワ行』の埠頭へと急いだ。

看板に張り付いたゴミが、バイクが通り過ぎた後の風で飛ばされ『オキノワ行』の看板に戻ったことに、彼女は気づかなかった。


「ホントにここ沖縄行なの?」

 とりあえずバイクを停め待合所に入ったが、想像していたよりも粗末な場所だった。

 中にはベンチと自販機とトイレしかなく、室内の奥に乗船手続をする受付カウンターが配置されていた。室内は少し薄暗く、そして待合所に居る人々からも、何となく暗い雰囲気が出ていた。

 そしてそれが彼女には、部屋の暗さだけが原因ではないような気がした。

「あ、あの~」

「何ね?」

 少女がカウンターに話しかけると、50代後半くらいのオジサンがめんどくさそうに出てきた。

「フェリーに乗りたいんですけど……」

「これ書いて出して」

 粗雑な態度とは逆に、丁寧に差し出された用紙に目を落とした。

「氏名、住所、乗船目的……。書かなきゃいけないの?」

「当たり前やらいよ。そいが分からんと船には乗せられんど」

「そい?へ?」

 差し出された用紙と、聞き取れないオジサンの言葉に混乱していると、船の汽笛が聞こえてきた。

「やっば!とりあえず書かなきゃ」


氏名:(赤崎 ツバサ)

住所:(旅の途中なのでナシってことで☆)

車両:中型二輪


「乗船目的……」


乗船目的:・作業員 ・役所関係者 ・教育委員会 ・調査、研究 ・その他


「その他でいいよね……」

 ツバサは、その他の所に丸をし「観光」と付け加え、受付のオジサン差し出した。

「中型……1200円」

「はい1200円!じゃね!」

 ツバサは運賃を渡すと待合所を飛び出していった。

「あげな(あんな)トコに何しに行っとよ」

 受付のオジサンは、乗船手続の用紙を眺めながら首を傾げていた。


 ツバサは、表に停めていたバイクに跨り、フェリーの方へ向かった。

(とりあえず車の後をつければいいかな)

 船に乗り込んでいく車両の後についてツバサもフェリーに乗り込む。

 誘導員の指示に従い、バイクを停める。海の匂いと、機械油の臭いが入り混じった空気が、船に乗ったという実感を湧き起こしてくれる。

 ツバサがバイクを停め、ヘルメットを脱ぐと、その空間に違和感を覚えた。

「なんか、暗い」

 車両甲板からは外も見え、天井部には電灯もついている。だが、不自然な暗さがその空間にはあった。

 そして、ツバサはその違和感にすぐ気づいた。

「なに……?このデカいトラック……」

 視線の先には、見上げてしまう程に車高があるトラック。全体を見渡そうとすると、首を痛めてしまいそうになってしまう。

 いったい何が積んであるんだ?確認しようと視線を荷台に向けたが、黒いシートに覆われていて、何が積まれているか分からなかった。

「そこー!危ないから早く船室入ってー!」

「ひぇっ!は、はーい!」

 誘導員の怒鳴り声に驚き、ツバサは慌てて船室へ向かった。


「あんな怒鳴らなくてもいいのに……」

 カン、カン、と、船室に向かって鉄階段を上る。

「こんなことでいちいちカリカリしちゃって、人生損してんだよ」

 言いながら、船室ロビーの扉を開けた。異変に気付いたのはその瞬間だった。


『火山と歴史の島 沖ノ環』


「へ? 火山? おきのわ?」

 まず最初に目に飛び込んできたのが、沖縄とは似ても似つかない土地が描かれているポスターだった。

 ツバサがイメージしていた行き先は、ハイビスカスと白い砂浜と、そしてシーサーが闊歩しているトロピカルアイランド。

 だがしかし、ポスターに写っているのは、天にそそり立つ雄々しい火山と、果てしなく続く竹林。そして笑顔が眩しい黒毛和牛……。


(もしかして……)


ここで彼女は、自分が犯した過ちに気付いた。

「乗る船……」

コンビニで出会ったおにーさんの言葉が頭をよぎる。


――鹿児島港は行き先ごとに乗り場違うから、行く港間違えんなよ


「間違えちゃった」


 無情にも、船の汽笛が鳴った。

『本船は、沖ノ環島、沖ノ環港へ向けて出港いたしました。到着時間は、14:40分―――』

時計は、9時ちょうど。

『到着まで、船の旅をお楽しみください』

5時間半に及ぶ船旅が始まった。







――亀戸で2分間の停車って、一体何があったんだろう。

 いつもの事故だと思っていた……


――うそ……パパが?

 日常は、突然壊れた……


――パパは、一体何のために生きてたの?!ねえ!!教えてよ!!ねえ!!

 そこにいる人間全てが醜く見えた……


―――

 自分の中の、何かが千切れた……


―――――

…………






 ゆっくりと目を開いて、夢から覚めた。

「最悪だ……」

 目覚めの悪い夢を見てしまった。

 無かったことにしたい。自分の中の最悪な記憶。

「こんなに雰囲気悪いと、さすがに思い出しちゃうよなぁ」

 自分でも、思い出さないようにしていたのに、と、身体を起こしながら、客室を見渡した。

 鹿児島港の待合室同様、やはり乗客は暗い顔をしていた。

客室は、広々としたカーペットになっており、床に置かれている毛布と枕が仕切りの代わりになっていて、乗客はそこに思い思いに座り、また寝転がったりして、船内で過ごしていた。

ツバサは脱ぎ捨てていたジャケットに袖を通し、甲板に出た。

身体中に響く大きなエンジン音。そして海上に吹く強い潮風。流れてくる海の空気が鼻を伝い、全身を巡り、嫌な気分を洗い流していった。

「きもちいい~~」

 全身に海風を感じながら、甲板の手すりに寄り掛かる。

 そして海の方に目を向けると、巨大な火山が浮いているのが見えた。

「うわあ……すっげえ。」

 ツバサは、眼前のその光景に息を呑んだ。

 見渡す限り何もない海の上に、ただ一つだけ佇むその山は、どんどんと大きくなっていき、その様子がはっきりと見えるようになってきた。

 そそりたつ岩肌から立ちのぼる噴煙は、天まで届き、雲と同化していた。


『まもなく本船は、沖ノ環港へ到着します。船内にお忘れ物がないようご注意ください』


「よっしゃ。降りるかぁ」

 ツバサは、雄大なその島に背を向け、車両甲板へと向かった。

「最初はどんな島かと思ってたけど、なかなかおもしろそうじゃん」

 髪を弄ぶ指先は、艶やかに踊っていた。



**


 本土からの船が入ってくる。船からは、3週間分の物資や宅配物がこの島に運び込まれる。そして、船内にはアイスの自販機があって、それを買いにわざわざ学校の授業を抜け出してくる子もいる。

 船が入ってくる日は、人が少ないこの島が少しだけ賑わう。今日も、平日の昼間なのに人が沢山集まっている。

「やっぱこのドリンク不味いんやけど……」

 健康的に日焼けした黒髪の少女は、顔をしかめながら、ジャンパーの袖で口を拭った。

「それを飲むのも私達の仕事ですよ」

 褐色の少女から差し出されたドリンク剤の小瓶を受け取り、横に並んで佇んでいる大和撫子は微笑んだ。

「あの船に、『4th』が乗っとるんやろ?」

 褐色の少女は目を細めて、貨物の運搬作業をしているフェリーを睨んだ。

「そう。あなたが大好きなこの島を守るための新兵器。」

 フェリーから、見上げるほどの大きなトラックがゆっくりと降りてくる。トラックの側面には、『桜庭重工』の文字と、六角形の桜のロゴが浮かんでいた。

「アレに乗れば、戦いはもっと楽に……」

褐色の少女は、無意識に拳を固く握っていた。


「まだ降りられないの~」

 バイクに跨ったままのツバサは、フロントカウルに寄り掛かり前方のトラックが降りるのを待っていた。

 すぐに出て行けばいいのに、チンタラチンタラ進んでいて一向に出て行こうとしない。せっかく温めていたエンジンも切ってしまった。

 また、不自然なのはトラックの遅さだけではなかった。

「オラーイ!オラーイ!」

「ベルト切れナシ!」

「障害物ナーシ!」

「付近に敵影ありません!」

 ものものしい。まさにそんな雰囲気だった。特に「敵影」なんて、これじゃまるで軍隊みたいだ。

「ねえー!おにーさーん!」

 ツバサは、近くを通りかかった金髪の作業員に声をかけた。

「何ね!!」

 金髪の作業員は、こんな忙しいのに何だよという表情を浮かべていた。

「このトラック一体何!?」

 トラックのエンジン音や、船舶の重機音に負けないように、ツバサは声を張り上げた。

「そいは教えられん!!」

 間髪入れずに即答だった。

「なんで!!」

「そいは決まりやっで(だから)!!!」

 ツバサは、その返答にムッとしてこう返した。

「こんなかわいい女のコの頼みでも!?」

「なーん言っちょっとかよ!!?」

 さすが現地人。訛りが酷くて何を言っているか分からなかったが、作業員の表情から呆れているという事はなんとなく分かった。

 そんなやりとりをしているうちに、やっとトラックが船から降りた。

「ありがとうおにーさん!また会ったら遊んであげる!」

 ツバサはエンジンを入れて、船を後にした。

「まずは、泊まれる場所の確保からかなぁ」

 甲板から、港のアスファルトに降り立ったその時だった。


 身体の内側から響いてくる轟音。

 目にガラスが刺さるほどの閃光。

 素肌を焼くような高熱。

 

 自分の後ろで起こったという事はすぐにわかった。

「きゃああああああああ!?」

 衝撃でバイクから振り落とされ、地面を転がっていった。

「な……なに?」

 痛みを堪えながら身体を起こし、辺りを見渡した。

 さっきまで乗っていたフェリーが海上で燃えていた。

「うそ……」

 そしてその背後に、蠢く影があることを確認した。

 それはまるで……

「でかい……カニ?」


つづく


いかがだったでしょうか。

劇中にある地名は半分本当で、半分が嘘です。鹿児島港や、標識、沖ノ環島は存在しません。冒頭のシーンは、実際に何度も足を運んでいる場所なので、楽しく書くことができました。沖ノ環島のモデルとなった島はありますが、その話は次回のあとがきで話せたらと思います。

そして1話であらすじの半分行っていないという……(ていうかあらすじでネタバレ)

修行中の身なので大目に見てください(汗)

こんな感じであとがきでは作品の裏話的なことを書いていけたらと思います。週間更新ができたら理想かなあ。と思っておりますのでがんばります。

感想や、誤字、脱字報告など、些細なことでもいいので感想や意見などドンドンお待ちしています。修行中の身なのでなにとぞ……。

それではこれからよろしくお願いします!

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