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運に任せて平和に異世界で暮らしたい!!  作者: 鍵ネコ
第2章 王都に辿り着いても苦労は絶えない
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4話 討伐の果てに

こうして王都の外に出たのは昨日ぶりか。かなり久しぶりな気がする。それでも、新鮮な空気に草原というこの空間。はっきり言って未だ慣れない。馬車に乗ってただけだから正味の話、ほぼ始めだけれど。


「ここ近辺では弱い魔物しかいないので安心して下さいね」

「あ…はい……」


と言われて、中々そう安心できるはずもない。それよりも、強めの緊張感を抱いているから余計に頭の中でどうしたらいいのかという考えが湧いてくる。

特に、レベルを上げるということは魔物を殺すという事。つまり、俺はした事もない殺しをしなくちゃならないし、第一殺す為に使う武器を扱ったことすらない。


そう言った事実的根拠が積み重なって、最悪死ぬと予言するのだから怖くなってもきていた。


死なない為に死ににいく。何とも言えないな。


だから、悩んでいた。躊躇していた。

歩けば歩くほど、段々怖くなってきて歩調が合わなくなって、足が絡んで転びかけた。

そして仕舞いには、脚を止めてしまっていた。


「どうかしましたか?」


アルカナさんは心配そうに振り返る。

だが俺は俯きながら曖昧に返事をした。


「い、いえ。何でも」


何というか、大人なのだからもっと気を強く持ちたかったのだけれど、こうも死や殺しに直面しているとブルーになる。


「……だめなら、無理をしない方が良いですよ」


しかし、その彼女の言葉に俺は恥ずかしながら突き動かされる。半分プライドみたいな感じだけれど。


「だ、大丈夫です」


ああ、大丈夫。大丈夫だ。今更怖くなったから引き返すなんて出来ないんだから、こんな事してても意味が無いんだ。態々ライゼンさんがここまでしてくれたのに、そんな事したらライゼンさんの気持ちを踏み躙る事になるし。それに、アルカナさんも暇じゃないはずなのに、指名ということで来てくれた。


《ま、頑張れ》


あの言葉もそうだ。

俺は、恩を返していかないといけないんだ。

だから、頑張らないと。大丈夫、大丈夫だ。


そして俺は震える脚のまま、一歩踏み出した。


そう。気持ちは何であれ頑張るっきゃない。大丈夫。

この知らない世界で生きるには生きるだけの努力をする以外、生きる道はないんだ。


そうした葛藤の中、1匹、視界の中に耳の長い白い生き物が入ってきた。


「あ、居ましたね。野ウサギ(エルビット)です。ビットが魔物化していたらエルが付きます。気性が荒く攻撃的なのですがそこまで強い相手でもありません___」


アルカナさんはそんな解説を加えて、素早く近づき、キュアァと威嚇していたエルビットの両耳を握り、持ち上げた。


「大きさも、普通の(ビット)より二倍程度の大きさですし、殺すのも難しくはありません」


ですが。


「貴方の先程からの歩き方を見る限り、この手の物を扱うのは初めてですね」


気落ちしている分、慣れない装備に余計フラフラしていたのか、複雑な気持ちでいっぱいっぱいだった。


「ええ。恥ずかしながら」


だが、彼女はそんな俺を肯定するように珍しく無いと言ってくれた。


「ある程度私が教えますのでその通りにして頂ければ問題ありません」


本当に優しい。


励ましの言葉は心に響いた。よし、心機一転頑張ろうとも思った。だけれど、彼女の言う通りにできるかと言えば出来そうになかった。


取り敢えず剣を抜いてみるが、この兎、エルビットは後ろ両脚を使って俺を威嚇するように蹴っていた。


別にそれが怖いと言う事ではない。


怖いと言うより、可愛そう……。

他にも憐れみ、迷い、不自然さ。色々、この兎の必死な目を見ていると浮かんできた。

必死に抵抗して死にたくないと、鳴き叫んで。


これを見させられて、一般人が生き物を殺せるのだろうか。


目に見える生き物の摂政は出来ない。それが、今現代に生きて来た俺たち人間の成れの果てである。

いい加減にして、他人まかせにしていたのだからそれもそうだ。


出来なくて当たり前だ。

手が小刻みに震えて、歯軋りが口の中で響く。


「何をしているんですか? 何回かすれば慣れますから、取り敢えずその剣でエルビットの首根に刺してください」


そうして指示を出されるが……。


余りにも無慈悲な話だ。

こんなに抵抗しているのに殺さなくちゃならないなんて。何もかも、平和すぎる世界にいた俺なんかが、殺しが当たり前の世界にきたせいだ。


殺せば強くなる。嫌な世界、でも、良い人がいる。だからそこまで嫌いじゃない。


その時、ライゼンさんの励ましの言葉が頭を過ぎる。


《ま、頑張れ》


そうだ、ここでずっと躊躇ってたってなにも、変わらないんだ。来る道中も覚悟して来たじゃないか。生きるにはこの世界のやり方に則って生きていくしかない。死なないと決めたならやるしか無い。

殺して生きる、弱肉強食。


「ここ、です、よ、ね」

「はい、そこを出来るだけ素早く。その剣なら、ただ落とすだけでも斬れると思いますが」


アルカナさんはエルビットの巨体に足を置いて、より動きを固定させる。

そして明確になる、殺す瞬間までのカウント。


「ふぅ……」


殺しなんて、そう簡単に出来るもんじゃ無いな。

当たり前だけど。

辛いや。


でも___


じりっと草を踏み躙り、腰を落とす。

振り上げた剣は片手ではなく両手で握って、安定感を出す。これで、後は振り下ろす。


頑張るんだ、俺。


「余り力みすぎないで、しっかり狙って下さいタツヤさん」


その助言を受け、余りにもの怖さに閉じていた目をゆっくりと開ける。ブレる視界、合わないピント。それでも狙う場所をしっかり捉える。

そして俺は___


「っ……」


すっ、と、剣は首を貫通し、地面に突き刺さった。

気持ちの悪い感触。


エルビットは「キュ」という断末魔上げ、仰け反るようにして跳ねると、段々力なく体を落とし仕舞いに、多量の血を流して生き絶えていた。


それをやりきった時、なんとも言えない脱力感に見舞われた。包丁で肉を割く事と全然違う。あれはすでに加工されてる物だからなんの忌避感がなかったけれど、実物はこんなにも神経の使う事だったなんて。


震える脚は遂に力が入らなくなり、広がった血溜まりに尻を打ち付けた。


「はぁ、はぁ……はぁ」


殺したんだ、生き物を。

俺は……。


満身創痍のまま、荒く息を吐く。

途轍もない疲労感と脱力感は慣れないせいか、分からないがしんどい。


だと言うのに、反対に彼女は手早くエルビットを捌いていた。内臓や腸などの臓器を戸惑いなく取り出し、余分な血を出す血抜きまで。


こうも専門家との差があるのか。


なんか、やってて嫌になる。


「さて、どうでしょう。初めての殺しは」

「そ、そうですね。半端なく疲れました」


現に、胸の鼓動が聞こえるくらい息が切れている。

疲労困憊、満身創痍。高々___では無いが___1匹殺しただけと言うのは何となく理解している。

アルカナさんは後数回やったら慣れるとも言っていたから、まだまだ先が長いことも理解できた。


「それでは、先ずステータスを確認してもらって、今日は5レベルまであげたら切りあげましょう」


彼女は尻餅ついた俺の手を握り、軽々と持ち上げながらそう言った。


「わ、わかりました。データ」


=====================

瀬戸達也(せとたつや)19歳

●lv3


生命力 3/3

魔楼 3/3

体力 3/3

力 1

速 1

守 1

魔力 1

魔抗 1

運 運が極まっています。


●スキル

鑑定lv1 生成lv1

●パッシブスキル

ー無しー

●ユニークスキル

加護

●称号

《神運》《運だけに振った愚者》

《女神の加護【橘鈴華】》


経験値26/32

=======================


「上がってる……」


HPが1じゃ無い。


この数値を見た途端、言葉にし難い安堵感が湧いて来た。こ、これで、死因がタンスに小指ぶつけるとかじゃなくなる。そんなふざけてるようで至極真面目なありえる死因、可能性が消えた事に喜ぶ。


「もうレベルが上がったのですか。現在のレベルどれくらいで?」

「えーと、まだlv3ですね」


それを聞いてアルカナさんは首を傾げた。


「lv3ですか……。魔物を殺すのは初めてと言っていたのですが、どうしてでしょう」


それには少し思い当たるものがあったりする。


「多分、僕のユニークスキルのせいかと」

「ユニークスキル持ちですか、珍しい。どんな効果なんですか?」


と、聞かれるがステータス値以外のスキルや称号については自身でも理解していない。しかし、凡そ想像するにだが。


「自分でもよくわかってないんですけど、経験値数倍加とかですかね?」


あまりの自信のなさに曖昧に聞き返してしまう。まぁ、分からないのだから仕方ないと推測でしかない事を言い訳にしていると、アルカナさんが少し恨めしそうに俺の顔を見つめている事に気付いた。


「何ですかそれ。ユニークスキルは何も強力ですが、貴方のそれは何というか、その……せこいです」


確かにこれはせこい、と言えるかもしれない。

確定でlvが1上昇するだけではなく、獲得する経験値が凡そ二倍。反則級のスキルだと言えるな。


「なんか、すみません」


アルカナさんは、そこで自身の失言に気付いたようにして「あ……」と言葉を漏らした。


「いえ。その……。私こそすみません。大人気なかったです」


アルカナさんは少しばかり頬を紅潮させて、俯きつつ、恥ずかしさを拭おうとしてか早口になりながら「それでしたら、今日中でlv20位は行けそうですね。頑張りましょう」と言った。


さっきの言葉は思わずポロリと出てしまったのだろう。彼女のそそくさと歩いていく後ろ姿は、普段の凛々しい厳かな雰囲気から一変して可愛らしく見えてしまった。

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