4話 王都到着
「タツヤさんは何故に王都へ」
馬車に乗せてもらい、腰掛けに座って先ずは自己紹介をした。その時、同じくして走り出す馬にガタンと身体を縦に揺られながらも名乗りあげる。
そして少年も名乗った。
『僕はクレーティアス伯爵家次男、スライ・メロ・クレーティアスです。メロとおよび下さい』
とは言うがそう簡単にメロなど呼べそうにない。だから俺はクレーティアス様と呼んでみたが、あまり好ましくない呼び方らしかった。なので、渋々慣れない呼び捨てで話す事にして今に至る。
「そうですね。村で育ったのですが、上京と言いますかなんと言いますか」
だめだ、上手い話が見つからない。
と言うのも今に始まった事じゃない。日本の事を隠すことはないと思うのだが___鈴華から何も言われていないから___逆に日本という国からきた異転生者です。なんて言っても信用してもらえるはずがない。この世界の国々について教えてもらったが類似国は愚かそんな名前の国は無い。
純粋な黒髪の人間が多い国もあるらしいが、その国の名前は忘れたから話を持ち出せない。
だから結局、また嘘を考えて嘘をつく。
「そうですか、確かに村での収入よりも王都での収入の方が安定しますし、どちらかと言えば高給です」
うんうんと頷く彼に俺は「そうなんですよね……」そんな切り出しで話の流れを絶たないように繋げていた。途中で話を終えたら多分緊張して喋れなくなる。
そんな話の中で聞いたメロさんが王都に寄る理由としては、メロさんの仕事らしかった。どうやら稀なスキルを持っていたようで、それがその仕事に必要なスキルでもあるみたいだ。しかしながら___言ってはなんだが___まだ子供なのに大変だ。
「まぁ今月も始まったばかりですし。彗の日は必ず訪れます。今日を乗り越えれば後3回。そう考えれば他の大人達よりも仕事なんてしてないようなものです」
メロさんが言ったこの彗の日というのはこの世界での1週間の読み方だ。
日「陽」太陽を意味していて「ヨウ」と読む
月「光」月を意味していて「コウ」と読む
火「炎」炎を意味していて「エン」と読む
水「泉」水を意味していて「セン」と読む
木「緑」木を意味していて「リョク」と読む
金「彗」星を意味していて「スイ」と読む
土「土」大地を意味していて「ド」と読む
中々覚えられなかったと思っていたが地味に覚えているものだ。
予習混じりに俺は感嘆の息を漏らす。
「流石ですね、そんな事メロさんくらいの歳の子は考えられないですよ。メロさんくらいの歳の僕なんて遊んでいましたし」
「……それは、羨ましいですね」
そういうとメロは懐を探って藁を編んで作られた箱を取り出した。
「最近流行りのマカロンです、どうぞ」
そこには色取り取りの甘い匂いを放つお菓子があった。
「そ、そんな。僕なんか。大丈夫ですよ」
「いえいえ、遠慮なさらず。馬車旅はもう少し掛かります。小腹が空く頃でしょうし」
そこまで言われたら断れない。遠慮して断ったら相手の気遣いを無視しているようなもの。これだから言葉というのは難しい。
食べたくないわけではないけど。
「そ、それでしたら一つ頂きます」
マカロンは6つ、下に藁がクッションのように敷き詰められた上にチョコンと乗っていた。少し窪みがあったから、横に傾けても落ちなかったのだろう。
日々一つない綺麗な造形のマカロン。鼻腔がくすぐられすぐにでも頬張りたい所だったが、一口食べて思い留まり咀嚼して、二口目も食べた。
「美味しい……」
鼻から抜ける甘い匂い、舌を適度に刺激する甘さと食感。外はサクッと中はフワッと、それも市販されるようなものではなく、高級専門店が作ったような技術もあるようだ。昔近場のケーキ屋で売っていたマカロンとは全然違う。
「貴重なものをありがとうございます」
「いえいえ、お気に召したようで光栄です」
それからも話が弾んだ。いや、弾むように頑張った。でも、それは嫌でもなかった。寧ろ、楽しんで会話ができた事に自身の心の方が弾んでいた。
あの空間ではタイピングに集中ばかり、アイツと喋るにしてもそうそう無いから、日に喋る言葉は100も行かなかっただろう。
だから、こうして喋っていることが楽しかった。
でも、終わりは来るものだ。
「坊っちゃま、セト様。もうすぐ王都に到着いたします」
ローレンスは少し振り向き、そのガラス越しに語りかけた。
「ありがとうローレンス。はぁ……。タツヤさんは口達者のようで。とても有意義な時間でした」
「僕も、メロさんのお話が聞けてとても良かったです」
外は夕暮れに染まり、夜の帳が刺し始めた頃。紅が闇に染まる幻想色に照らされながら馬は勢いを上げる。そうして見えてきたのはとても大きな壁、言うなれば城壁がずしりと構えられていた。
「でかいなぁ」
「王都は何処の国よりも大きいですから、迷うことだってあるそうですよ」
メロはそう笑っていうが正直笑えない。この壁、どうやって作ったのかが分からないほど大きく、視界に収まりきらない大きさ故、途方も無い巨大さなのだと心を震撼させられた。
またその壁は少しずつ大きくなっていき、少なくなった人の列も粒ながら見えてきた。
それから数分、俺たちは城門前に到着していた。
「着きましたぞ」
「お疲れ、ローレンス」
メロは労いの言葉をローレンスにかけるとまた懐から何かを取り出した。それは紙切れのようで三つ折りにされた書類のようだった。
「……タツヤさん、ここでお別れですね貴方とお話ができてとても楽しかった。また御縁があるといいですね」
渡された紙には見たことの無い文字があったが___鈴華に粗方教えてもらったが___その文字の上に立つような感じで、俺が読める日本語が載っていた。
それによればクレーティアス家との仲を証明する、そんな感じの内容の気がするのだが……。
「あの、これは?」
「タツヤさんへのお礼の様なものです。門兵に提出していただければ通行料は無しになると思います」
「え、そんな、いいんですか!?」
仲を証明するって、そういうのもありなのか。でもこんな凄いものを高々今日一日話しただけなのに貰っていいのか。寧ろ俺の方がお礼しなければならない。そんな考えが頭の中で渦巻く。
でもメロは屈託のない笑顔で「ええ」と頷いた。
「全然頂いてください。それと、何かありましたらここ一月は王都にいますので気軽に別荘に訪問して下さい」
そして開けられたドアの前にはローレンスが立っていた。
「長旅お疲れ様でした。貴方は雄弁のようで、見習いたいですぞ」
「あはは、そんな事ないですよ」
小さな階段を降りると、馬車が少し傾いて戻っていき、扉を閉められた。
「それとですが、先の書類は仲を記すモノであって軽々しく使えるモノではありません。メロ様直々に仲を持つということですので、ないとは思いますが、もし、貴方が良からぬことをしたらそれはメロ様への侮辱であり泥を塗る行為である事を努努お忘れなく」
ローレンスは耳打ちでそこまで言って一歩下がり頭を下げた。
「これからもクレーティアス家をよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします」
そうしてローレンスは馬を再び操縦し、右手の門へと進んでいった。あれは貴族専用の門なので、俺が言っていいような場所じゃない。逆の左の門が今から俺が並ぶ場所だ。
ただ、夕暮れ時ということでそう待つことはなさそうだった。30分もすれば自身の順番が回ってくる。
「次! 通行料300ラルク!」
覇気のある大声に少し耳がキンキンする。メロさんとの会話は物静かな感じだったので余計に耳が痛い。
「ええと、それなのですが、これで……」
俺は早速メロさんから貰った書類を門兵に渡す。すると何度も交互に見返してお待ち下さいと言い残し、姿を消した。その間、俺の後ろにいた人達はもう一人の門兵に金銭を要求されていた。
それから数分後、門兵は急いで走ってきていた。鎖帷子を揺らし、胸の鉄板が重そうだったが慣れた走り方だった。
「お、お待たせしました。確認が出来ましたので、お通り頂いて構いません。よ、ようこそ王都キリアへ」
そうして通された先はとても大きな街が広がっていた。
一章以降は3500程度の文で進ませようと思います。