31話 耳と尻尾が生えた姉妹
俺は、スリをした子供の案内されるままに歩いていた。
歩き進めていくと、歩いて来た明るい感じから暗い感じの場所に変わっていった。
家は廃れ、ボロボロになっていたり、路上で寝転ぶ無精髭を生やした男の人。
今案内してくれている子と同じような布製のフードコートを着ている子。
より暗い路地裏の隙間からは、ナイフを持った柄の悪そうな男がいた。
なんとも暗いというか、薄暗い。
太陽は、この場所だけを照らしていないかのような錯覚を起こさせるほどに暗かった。
「なぁ、君。本当にこっちなのか?」
怪しくなってきたので聞いてみる。
「そうだよ。ここはスラム街」
スラム街。
極貧民が過密化した場所のこと。
治安がとても悪く、死が最も近い場所。
それで合点がいった。
歩く道の中で見る人々の姿が目に見えて暗く、着ているものはボロボロで、やせ細っているのは顔を見るだけで分かった。
「君は本当にここで住んでいるのか?」
今更だが、抱えた時もそうだがとても軽かった。
俺からして子供だが、12、13歳の子にしか見えない。それなのにかなり軽い。
「うん……私達はここでしか生きていけない」
「そうなのか……」
俺は最悪な環境というものを味わったことがないのだが、これは見るだけでもわかる。人間が居ていい場所じゃない事が。
この子が生きてきたのが、本当にここだと言う事に信憑性が出てきた。
「いやだとは思うけど、もう少し待って」
そう言われて気づいた。
身体が震えている事に。
劣悪な環境という事もあるのだが、生存本能自体が警鐘を鳴らしているのだ、ここに居てはいけないと。
「ごめん」
知らないうちとは言え、震えていたことで気を遣わせた事に謝る。
「いいよ、それが普通だから。寧ろ、ここ出身じゃなくて怖くない奴なんて、余程の馬鹿か強いやつだけ。そんな奴らはほんと稀」
「そうか」
その後からは特に会話がなく、トボトボと歩き進める。
「着いた。ここだよ」
気づくと、一つの廃れた家に立っていた。
窓が割れ、家が傾き、木が腐っている。
申し訳程度にドアが付いていたが、開けて入って見るとそれだけで取れてしまった。
「あ、ごめん」
「いいよ別に。私も出た時にはやばいなって思ってたし」
「ごめん」
中は異臭を放っていた。
家具はなくだだっ広い。奥に階段があり、登るよう促された。
上がるたびにキシキシと叫び声を上げる階段は、登るだけでも怖かった。
登りきると目の前には、扉がない部屋があった。その一室は、割れた窓ガラスが目立った。
「ただいま、レスカ」
子供はそう言った。
「お帰りお姉ちゃん」
その問いに答えた人がいた。この子のいもうとだろう。
部屋の中に入る。
中はベッドが一つだけ置かれているが、それ以外は何もなかった。
そのベッド上には女の子が一人座っていた。俺はその女の子をみて驚いた。
その女の子には、耳と尻尾が生えていたからだ。
「耳、尻尾?」
「あ、レスカ。フードは絶対しとけって言ったよな」
そう言った子供に目を向けると、フードが取れ、そこからは耳が見えた。
俗に言う獣人か……?
獣人の女の子はそうレスカと呼んだ女の子を咎める。
「ごめんなさい。ねぇ、それよりも、その人誰?」
女の子は俺に気づき、不思議そうにみた。
「スリをして捕まった。その時に事情を聞かれて、妹が本当にいるなら見逃してやるって言ったから見せにきたの」
「約束だからな」
そう言いながら子供を離す。
「お、お姉ちゃん。私たちの居場所を見つけるために言ったとか思わなかったの?」
驚きながら顔を青ざめる女の子。
それを聞いて俺が抱えていた女の子が「あっ」といってこっちを振り向き土下座をした。
「お、お願い!妹だけは見逃してください!」
「い、いや。しないから、大丈夫だよ」
そういいながら女の子を起き上がらそうと屈む
「お、お姉ちゃんに触らないで!」
起き上がらそうとすると、もう一人の女の子がそう叫んだ。
「あ、ごめん」
確かにそうか。別に言葉でもいいもんな。
「土下座までしなくていいよ。そんな事しないから」
そもそも、捕らえてなんの得があんだよ。
「ほ、ほんと?」
声を震わせながら土下座した女の子聞いてきた。
それに笑顔で答える。
「ああ」
それを聞いて尻餅をついた。
「よ、良かった〜」
そう安堵の息を吐く。
「お兄さん、本当に何もしないの?」
「ああ、約束する。神に誓ってもだ」
そういった瞬間、もう一人の……レスカと呼ばれた女の子が顔を顰めた。
「ごめんなさい。私、神っての、嫌いだからなどと言わないで」
その顔は憎悪に満ちていた。その顔は、本当に憎いと思っている顔だった。
「ごめん。分かったよ」
沈黙が支配する、重苦しい空間。この環境が拍車をかけより濃く、現実というものを醸し出す。
そんな時だった。
「邪魔するぞー」
野太い男の声が下の部屋から聞こえてきた。
それを聞き、尻餅をついた子供、女の子が急いで立ち上がった。
「やばい、もう来たのかよ」
そう言った女の子は、顔を焦りに変えた。
「お兄さん、今すぐ飛び降りるよ。レスカも」
「え、飛び降りる」
「うん、早く。窓から」
そういいながら俺の手を引く女の子。
そこは割れたガラス窓の場所だった。
「え、本当にここから?」
結構高いよ、この高さは。女の子が言うには、ここから飛び降りろとのことだ。
「いいから、はやく!」
声を潜めつつも「早く」とまくし立てる。
くっ、ここは漢を見せろ!
ピチャ
衝撃が掛かるのを抑えようと足と手が着くように飛び降りる。地面は石のため、手が着いた時にピチャと音を立てた。
その後、女の子二人も飛び降りた。
どっちもフードコートを被っていた。
「このまままっすぐ逃げて!」
言われるがままに、ヤバそうだったので走り出す。
「ちっ、逃げたか。「嗅覚強化」成る程、今さっきか」
そんな野太い男の声が遠目だが聞こえた。
男は窓から顔を出し、俺たちを見た。
「逃げ切れると思うなよ」
男はそこから飛び降りた。
「え、いや、追ってきてるんだけど!」
背後からはかなり速い速度で追ってくる男がいた。
あれは早く追いつかれるぞ!
「分かってる!振り返らないで!ここを出るまで走って!」
そう発破をかけられる。
それと同時に、二人は走る速度を上げた。
ちょっ、俺これより出ないのだけど!
追いつくだけで精一杯な状況。背後からはどんどんと音が近づいてきていた。
「待てや!!」
厳つい顔の男が怒鳴る。
ま、待ちたくない!
捕まったら死ぬ!物理的に!絶対に!
死の恐怖による力なのか、少しだけ脚が速くなってきた。
「まだか!」
「あともう少し!」
走り続ける俺たち。
それに負けじと追い続ける男。距離はどんどんと近づいている。
これ、絶対に捕まる!
「「作成」!!」
走るのを止め男の方向に振り向く。
「お前!何したんだ!」
「お姉ちゃん!速く!」
「「生成」!!」
空気を媒介に、作ったのは鉄球。
「当たれぇ!!!」
大きく振りかぶり、鉄球を投げる。
運、何とか補正かけてくれ!
その願いは直ぐに叶った。が、嬉しくなかった。
「ちっ、なんだ!いてぇじゃねぇか!テメェ!ぶっ殺す!」
半透明の鉄球は男の胸板に当たった。が、パチンっと乾いた音を立てて落ちた。
俺はそれを見た瞬間直ぐに逃げた。
あ、あれはない。ないないない!想像できない!!
立ち止まり、動きに隙があったせいだろう。さっきよりもより近くなっていた。
ひーー!!!いやだ、死にたくねぇー!
「「作成」!!「生成」!!」
作ったのは大きな丸太のような大きさの何か。
大きさだけを想像したので何が出来たのかは分からない。
だが、何とか引っかかった。
男は大きくすっ転んだ。
それを見て直ぐに走る。
「グゾー!イッテー!!お前は殺す!!!」
明確な殺意を向けられる。
が、それには振り返らない。振り返られない。怖すぎて。
ひたすら走る。
すると遠目ではあるが女の子二人の姿と、光が見えた。
後、あと少し!
脚をもっと回転させる。
もう少し!
女の子二人はスラム街と王都との境目と言ってもいい場所を越えてこちらを見ていた。
光が射す場所まであと少し。
そして
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
勢い余りスラム街を越え、向かいの家の壁にぶつかりそうになる。
「はぁはぁはぁはぁ」
息も絶え絶え。
走ってきた方向を見ると鬼の形相で走ってくる男が居た。
「お兄さん!アレはダメだ!逃げて!」
や、やっぱりか!
女の子も俺と同じく走り出す。それと同時に男が飛び出した。
「殺す!!!」
あー!誰かー!誰か助けて!!!
鬼の形相で俺を追いかける男。
その距離はどんどんとあと少しで捕まる距離にまで近づいていた。
そんな時だった。
曲がり角を曲がったその時。
甲冑を着て、帯剣している集団を見つけた。
チャンスだと思い大声で声をかける。
「助けて!助けてください!殺される!!」
そう叫ぶと、状況を直ぐに理解したのか抜刀し駆け寄ってきた。
「後ろに下がってて」
「はいぃ!!」
走り続け、甲冑を着た集団を越える。
そして勢いを止めていく。結構走ったから歩き続けながらだ。じゃないと下手したら死んでしまう。
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
汗をベッタリとかきまくる。
それによるものもあるが、あの明確な殺意。あれが一番喉を乾かせた。身体の芯が凍り付き、水分を奪っていった。
その殺気は、今も向けられている。が、その男は甲冑を着た集団に取り押さえられていた。
そして、それを見て、俺は今生きているのだと本当に実感した。
キャラ後書き
ダメな方、飛ばしちゃってください
作者「お読みいただきありがとうございました」
達也「ありがとうございました」
レスカ「ありがとうございました」
女の子「ありがとうございました」
達也「いやー、死ぬかと思った」
男「結構痛かったぞ」
達也「ぎぃいやぁぁぁ!!!でたぁ!!!」
男「お、驚くなよ。俺も驚くから」
達也「あ、アンタも驚くんだ」
男「アレは役だ。こっちが素だ」
達也「圧倒的意外性」
レスカ「私たちこんな人に怯えて暮らしていたの?」
女の子「ほんとよね」
男「やめて、心が折れる」
31話でした
誤字脱字、変換ミス、言葉が変な所があったらがあったらお願いします
これからも読んでいただけるように頑張ります
評価して貰えると努力と励みになります。
ブックマークするとシルティーからの熱いキッスがーーー「絶対しないから」
ブックマークしていただけると励みになります
はい。話的には明らかにできませんでした。
ただ、察しはもうついていると思います。
はい。