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3話 貴族の救い手

身体にかかる包み込まれるような浮遊感。視界を埋め尽くす光は青っぽさから白に変わりゆく。そんな感覚と虚脱感の中でようやっと、身体は自身の言うことを聞くようになった事に気づく。


目は不思議と軽い。身体も心なしか重たくない気もする。そんな身体の感覚を覚えながら、ゆっくり開ければ映ったのは緑色の活き活きとした雑草。その雑草に留まっていたてんとう虫みたいな生き物が、意識が鮮明になるに連れて自身が寝転んでいるのだと言うことを教えてくれた。


「ん、ん……」


のっそりと起き上がる。

顔を徐に上に上げれば燦々と輝く太陽の光。

身体は不思議と重くない。


「そうだ、俺は……」


さっきまで夢半分だった意識。それが覚醒してからは状況を少しずつ理解していくことが出来た。


異転生、俺は異世界に来たんだ。


なんとなしに振り向くと森がある。


前を向けば草、後ろを向けば森という現象は緑の多い日本でもない光景。大きく根をはる木々に、根強く生きる雑草。世界でもこんな場所はないだろう事はみて取れるだけに、ここは異世界である事を改めて理解する。そして、それと共に鈴華に言われていた事を思い出した。


『あちらに着き次第ステータスの確認をお願いします」


ステータス、自身の身体能力を数値化した板、そんな感じだったはずだが……。


「確か、開示する時はデータだっけか」


それも、聞く分には半透明の薄い板が出現すると言ってたけど百聞は一見にしかずだ。


「データ」


そう発言するとピローンと言う機械音と共に、目の前に青白い薄い板が現れる。


おお、成る程。確かに青白い。微妙に発光しているしなんか新鮮だ。


=====================

瀬戸達也(せとたつや)19歳

●lv1


生命力 1/1

魔楼 1/1

体力 1/1

力 1

速 1

守 1

魔力 1

魔抗 1

運 運が極まっています。


●スキル

鑑定lv1 生成lv1

●パッシブスキル

ー無しー

●ユニークスキル

加護

●称号

《神運》《運だけに振った愚者》

《女神の加護【橘鈴華】》


経験値0/10

=======================


そうして一息ついて、何度も目を擦る。しかし、目の前の数値はピントボケということでもなく、本当にただのえんとつ。流石に「嘘だろ」と、これの感覚を知っていない自分でもポロリと口から飛び出ていった。


俺は一体このステータスをどれくらい見続けたのか。唖然とした口は、一向に閉じない。


鈴華から聞いた情報ではレベルが1の場合、成人男性のステータス平均値は50程と言っていた。加えて、HPは200が平均と聞いた。だからそんなものなのかと思っていた。のだが、こうも1が羅列しているなんて、ゲシュタルト崩壊を起こすくらいの勢いだ。


「それにこれ。もしかしなくても(つまず)くだけで死ぬよな……」


HP平均が200なのに1なんて、例えしょうもない事でも普通に死ぬ。躓こうが、小石をぶつけられようが、小指をタンスにぶつけようが即死だろう。


そこに加えての事。


……運が極まってるってなに?


落ち着いてステータスを見てみれば運の数値欄は数値ではなく文。凡そ、測定不能とかそんなレベルなのだろうか。


結局の所よく分からない。ちらりとみた称号欄には《運だけに振った愚者》と、馬鹿にされているし。別に俺はこの世界のことを熟知しているわけでもない。だから、変に落胆しなくていいとは思うのだが……。事前情報があれだ、この情報が嘘という事もないし。


 はぁー……。


「クローズ」


長い溜息を吐き、ステータスを閉じて再び俯きがちな頭を起き上がらせる。

まぁ、何だろう。


俺は早々に見切りをつけた。


というのも、ステータスはレベルによる変動か、特殊な木の実を食べる以外___単純に身体を鍛えても微量でレベル程___上がることはないものらしいからだ。


とことん、絶望させてくれる。


……だけど、俺は前を向く。前を向いて、取り敢えず、何処か村か街に向かう事を考えた。このステータスじゃ生きていける気がしない。だから生きるにも今後の方針を決めるにも先ずは安全を確保ができてから考えよう。


そういうことで俺は転生初日にして暗い気持ちで歩みを進めた。躓かないように最新の注意を払って草原をまっすぐに。


 そうして代わり映えのしない景色を眺め続ける。何もいない、何かに出くわす事もない___別に悪い事ではない___。遠くの方で何かが蠢いているのは見えるが俺の居る範囲において関係のない事だった。それから体感2時間位歩き続けると、舗装された土の道が見えてきた。


あれは、街道じゃん。


漸く見えた舗装された道に、少し駆け足で向かう。


そんな時だった。


この街道の右手から少し遠いが何かが走って来ているのが見えた。それも、よくよく耳をすませば競馬のテレビ中継の時に聞くような、俊足で駆け走る馬の蹄の音。そこに加えて、何か車輪付きの手押し荷台のような音がする。


それから数分もすればよく見えた。二頭の馬を巧みに操る老人と、その後ろにある豪華な作りの御者席(ぎょしゃせき)


西洋の馬車、そんな感じだな。


昔、そういう世界の歴史的なものを調べていたことがあり、その中で昔の車___馬車___についても調べていたからそこらの知識があった。


だからか、初めて見れる光景に、ウキウキと眺めていた。目の前を駆け抜けるのだろう、徐々に荷台のガタガタと揺れる音が大きくなってくる。それを俺は過ぎるのを待っている___訳ではない。


興味とかそんなものもあるが、実際馬車があるという事は人がいるという事。今どこにいるか分からない。下手したらこの草原で野垂れ死ぬかもしれない。


俺はすっと手を挙げる。

すると、徐々に馬車は勢いを緩め、少し先に進んでで止まった。


「……どうかしましたか? 旅のお方」


そして、少し尋ねようと老人に近づいた時、馬車のドアが開き、中からは人が出て来た。どうかしましたか? と尋ねながら。


ただ、意外だったのは、出て来たのが少年であった事。否、まるで絵に描いたような容姿の謂わば美少年だったことだ。金色の髪に、翡翠色の目をしている。服装も、色々な所に意匠が凝っており、素人目にも分かる高価そうな服を着ていて、首にはダイヤ型のロケットペンダントを着けていた。


「あ、すいませんお忙しいところを」


そんな服装から察するに貴族、そんな所だろう。この世界には貴族階級が存在しているから、貧富の差は目に見えて分かる。俺が居た日本は1億総中流とも言われていて皆平均的服装などしていたが、ここでは尚更著しい差があると鈴華が教えてくれた。


「ちょっと場所がわからなくなってしまいまして、ここって何処だか分かりますかね?」


だから不思議であった。

凡そ貴族というものは平民などが___それも高々一人が___手を上げたところで馬車を止めるはず無かった。大概無視される。


しかしまぁ、偶然気が変わったか、元からそんな性格なのかどちらにせよ、馬を止めてもらえたことには最大限礼を尽くすべきだろう。


「ここは王都と帝都を結ぶ街道です。僕達は今王都に向かってる所なのですが、貴方は何方をお目指しに?」


加えて、気遣いまで。


……でも帝都か。いよいよ中世とかそこら辺の色が濃くなってきた。が、帝都に寄るよりも王都の方がいい。鈴華情報によると王都は発展途上国。賑わいもあり職を探しやすいとも聞くからだ。


「私は王都に用がありまして。ただ、何せ村から出るのは初めてで……」


これは嘘、ではなくはない嘘だ。土地勘がないのは嘘じゃない。村___日本___から出るのも初めてだし、嘘は付いていない。


「そうですか。それでしたら乗って行きますか? お連れしますよ」


そう微妙な嘘をついた矢先の事だった。

まさかの乗車しませんか? と尋ねられた。驚きを隠せず、本当ですか? と口を半開きにしながら聞き返すと「ええ」と頷く。聞き間違いではない。なら相当な性格をしているな、この貴族。


だが、同行させていただけるならそれを断る理由もない。知らない土地で差し伸べてくれた手を離すなど愚かだ。


「すいませんが、お願いしてもよろしいでしょうか」

「はい、いいですよ」


そうして順調に話が進んでいた、かに思えた。しかしながら、そう簡単に乗せてもらえるはずもないのだろう。馬を操縦していた老人は少し怒り気味に少年を咎めた。


「いけません坊っちゃま。こんな下賤な者が我らクレーティアス伯爵家と同行するなど」


白いスラックスと 燕尾(えんび)のある執事服。よくある執事の格好。少年のお目付役か。


「なぜだい、ローレンス」


話が拗れるなぁ。と先が少し暗くなったと思えば少年は彼、ローレンスを呆れた顔で見つめた。

それに執事は、即座に答える。


「それは、清き伯爵家の血が___」

「___ローレンス、またそれかい?(けが)れるなんて昔の考えだよ」


もう何度目の事? 少年は少しため息混じりに息を吐いた。


どうやら前にも何回か同じような場面があったのだろう。今話していて分かってきたが少年は根が優しい性格で、平民だろうと気安く話しかけてくれる。それは話していて嫌そうな顔が一つも無かったという事が記している。しかし、あのローレンスと言う人は血筋、血統、お堅いというより常識的な貴族感覚を持った執事であるということが。


「いえ、そのようなことはありません!」


ローレンスは食い下がった。少年のお目付役、少年を間違った方向性だと思ってか、少し語尾が強い。

だが、臆する事なく少年は言葉を被せた。


「あるよ。そもそも、人助けにそんな事関係ないでしょ」

「大ありですぞ」

「じゃあどんな事?」

「平民如きが伯爵家の者と___」


ローレンスがそういうと、少年は「はぁー」と明確な溜息を吐いた。


「ローレンス、君はいい加減そんな昔の教えなど捨てなさい」

「違いますぞ坊っちゃま! お忘れですか! 幼少期の事を!!」


ローレンスは少しばかり息を上げ、どうしても嫌なのだろう、目には血が走っていた。


「坊っちゃまは___」。続け様に言い放つローレンス。このままでは二人の仲が悪くなってしまう。そう思い『私は大丈夫です』と声をかけようとしたが、先の言葉に少年はピクリと目元を歪ませて、ローレンスを見据えていた。口元を少し震わせながらでも、意思を強く持って。


「君はいつも、いつもそうだ! 僕は昔の事を忘れてない! ……忘れた事もない。けど、助けてくれたのも同じ平民の方々なんだ。だから僕は、僕はそんな差別をしたくないっ」


気圧され、ローレンスは押し黙るようにして口を一の字に閉じる。


「坊っちゃま、ですが……」


少年は、軽く息を吐いて。


「ローレンスが僕の為を思って言ってくれている事は分かってる。……けど、お願いだから僕を信用してくれないか。責任は自分でとるから」


その言葉は重く、心に響いた。他人の俺でもその気持ちの強さは感じれる。


「坊っちゃま、いけません」


しかし、ローレンスは否定する。でも、先程の口調とは違い、落ち着いた雰囲気だった。

だがそれは少年にとってただの否定にしか聞こえなかったのだろう。


「なんで、ローレンス。何がダメなの、僕の何が間違ってるというのさ! 僕が自分で責任を取るとも言った! ローレンスは、ローレンスは僕を信じてくれないの!?」


少年は泣くようにして叫ぶとローレンスは首を横に振った。


「坊っちゃまが、そこまで思っているなんて思いもよりませんでした。……執事として面目御座いません。私は少し過保護になりすぎていた」


ローレンスは、胸元のポケットからハンカチを取り出すと少年の涙を拭い、優しい笑みを作った。


「坊っちゃまはまだ責任を取れる年齢じゃありません。監督責任は私目に御座います。坊っちゃまに何かあれば私の首を差し上げましょう」

「ローレンス……」


そんな事、すらりと言えたローレンスに俺は尊敬した。少年のしている事は正味の話、ホームレスを自宅に招き入れるくらい危ない事をしている。それにあやかる身があーだこーだは言えないが危険は高い。それなのに彼は少年の言葉を聞き入れて理解した。


命を捧げるとも言った。

そんな事並大抵の人間が言える事じゃない。例え、生死がはっきりとした存在であるこの世界であっても。


「大方迷い子でしょう。さ、お乗りになって下さい」


それからのローレンスの振る舞いは打って変わって当たりが無くなっていた。


「ローレンス……」


ありがとう。


そして俺は何かすごい場面に出くわしたなと改めて思った。



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