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当店本日も営業中  作者: 夢猫
異世界に来てしまいました。
6/21

5

 服を着たカンナとヤヨイが東屋に来たのはそれから少ししての事だった。


「ゴシュジンサマ!!」


「ご主人様!!」


「うわっ!?」


 姿が見えたと思った瞬間にこちらに向かってダッシュして来た二人が抱きついて来る。


「ちょ、ちょっと待って……前が見えない……てか、苦しい……」


 腰に一人と覆い被さる様に前から一人。

 前は見えないし、二人ともぎゅうぎゅうに締め付けて来るので苦しい。


「ほらほら、二人ともちょっと落ち着いて。ユヅキさんが苦しそうだよ」


「ぐえっ!!」


 苦笑混じりのアイザックさんの声が聞こえた瞬間、締め付ける力が更に強くなった。


「このひとだれ!?」


「さっきからずっと知らない人達に囲まれて恐かったんだからね!!」


「この人は、アイザックさんって言って……いや、本当、ちょっと、放して貰える?」


 ニ度目の訴えでやっと目の前が開けた。

 締め付ける力も幾分弱まったがそれでも二人が放れた訳ではない。

 前から覆い被さっていた一人が後ろに回り、後ろから抱き付き直しただけである。

 腰に一人と背中に一人。

 後ろからかかる圧迫が半端ではない。

 が、しかし、先程よりはだいぶましである。


「えっと、カンナ?」


「うん!」

 

 首筋にグリグリと頭を押し付けている一人に確認する様に呼び掛ければ笑顔で返事が返ってきた。


 茶色と黒の混じった肩までの癖っ毛に茶色の瞳と少し太くて丸い眉毛が特徴的な二十代前半くらいの笑顔がとっても可愛い背の高い女性だ。

 その頭には黒い毛色の垂れ耳があり、後ろではブンブンと大きく左右に揺れる尻尾が見える。


「そしてヤヨイ?」


「そうだよ!!」


 腰に抱きついている男の子に呼び掛ければこちらも笑顔で返事が来た。


 チョコレート色の髪に青みがかった瞳の十代前半の男の子は私がこの世界で目が覚めて最初に出会った子だ。

 その子の頭にも髪と同色の耳がありピクピクと忙しなく動いている。

 尻尾は名前を呼ばれた時だけ大きく振られていたが、今は垂れてしまっている。


 あぁ、そういえばヤヨイ(この子)はビビりで人見知りだったなと思い出す。

 そして、それを思い出したところでストン、と納得してしまったのだ。


「あぁ、あなた達は本当にカンナとヤヨイなんだね」


 溢れる様に口から出た言葉。

 見慣れた犬の姿ではない、獣耳と尻尾を生やした姿。

 それでも、この二人は私の大切な家族なのだ。


 擬人化バンザイ!などと気軽に思えたなら良かったのだけれど、現実にソレを目の当たりにしてしまうとそうも言ってられない。

 そでもなんとか噛み砕き飲み込んだ現実。

 私達は何の因果か異世界に来てしまい、共に来たペットは人の姿に成れる様になったのだ。


「……」


 ヤヨイの頭へと恐る恐る手を伸ばす。

 怖々と触れた髪は手触りが良く、数度撫でてやれば垂れていた尻尾が嬉しそうに振られた。

 それに何だかほっとして、小さく笑みが溢れる。


「そっか。これは現実か。そっか……」


 どこかで夢かもしれないと思っていたが、どうやらこれは紛れもない現実らしい。

 ならばやる事など決まっている。

 ここが何処であろうと、ここに来させられた目的が何であろうと、私達は先ず、この世界について知り、そしてここで生きていかなければならないのだ。


「カンナ、ヤヨイ、彼はアイザックさん。成り行きは見てたと思うけど、倒れてた私を保護してくれた人だよ。挨拶して」


 成り行きを黙って見守ってくれていたアイザックさんへと視線を向ければ、二人の視線も同様に彼へと向く。


「アイザック・ルルジアナです。お名前を聞いてもいいかな?」


「カンナだよ」


「……ヤヨイ」


「そう。カンナちゃんにヤヨイ君、よろしくね」


「うん!!」


「……」


 基本的に人見知りはあまりしないカンナが元気よく応えたのに対し、すっかり私の後ろに隠れてしまったヤヨイは小さく頷くだけだった。

 

「もう、ヤヨイ。ちゃんと出てきて挨拶して」


「いーやーだー!!」


 後ろから引っ張り出そうとすれば激しく抵抗されてしまった。

 けれどヤヨイ、忘れないで欲しい。

 あなたが引っ付かんでいるソレは私の腰なのだと。

 抵抗の為に掴む力を強くすれば当然、その痛みは私に来るのである。


「ちょ、痛い痛い!!」


「むーー!!」


「あぁ、大丈夫だよ。僕は気にしてないから」


 むくれるヤヨイに溜め息を吐き出して困っていれば、見かねたアイザックさんが笑顔でそう言ってくれたのでお言葉に甘える事にする。


「さて、話の続き、と行きたいところだけど先にちょっと聞いてもいいかな?」


「あ、はい、いいですよ」


 そう応えた瞬間だった。

 それまで穏やかに微笑んでいたアイザックさんの目がキラリと光り、好奇心を隠しもしない輝かんばかりの笑顔に切り替わったのは。


「その子達は何て言う生き物なんだい!?」


「……はい?」


 そう言えば、さっきの部屋でも似たような事を聞いてきたなと思いながら、前のめりで聞いてきたアイザックさんに若干引いてしまったのは仕方ない事だと思う。

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