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「つまり、この世界では飼い主が居る動物はもれなく人の姿に成れる、と」
「うん、そういう事だね」
色とりどりの花が咲き乱れる隅々まで手入れされた中庭のほぼ中央にある東屋でアイザックさんと向き合った私は今しがた聞いたこの世界の常識を確認する様に口にした。
曰く、この世界の名前は"ウィルテナ"。
5つある陸地に13の国が存在している。
"センカ"は13の国の中で四番目に大きな国である。
この事を聞いた瞬間、私の"可能性"でしかなかった考えは確かな"現実"として成り立ってしまったのであった。
そして、この世界一番の特徴が、動物が人の姿に成れるという事である。
大切な事なのでもう一度言おう。
動物が人の姿になれるのだ。
ただしこれには条件があり、きちんとした"飼い主"のいる動物だけが人の姿に成れるらしい。
因みに人の姿でいられる時間にも制限があり、最長で三時間。短い子だと数分だそうだ。
一時間ほどしたらまた人の姿に成れるそうだが成っていられる時間は変わらないそうだ。
「じゃあ、やっぱりさっきのは……」
「さっきの二人かい? 君達の反応から憶測するに、君はあの子達の飼い主なんだよね? なら、あの二人が人の姿に成れても何ら可笑しな事ではないよ」
あっけらかんと言われた事実。
大体の予測は出来ていたといっても、やはり衝撃は大きい。
「あれがカンナとヤヨイ……」
「……うーん、さっきから思ってたんだけど、君達はいったい何処から来たのかな?」
「え?」
呑気に紅茶を飲みながら聞いてきたアイザックさんの言葉に思わず動きが止まる。
いつかは聞かれると思ってはいた。
けれど、果たしてソレは告げてもいい情報なのだろうか?
ここまで親切にしてもらっていてなんだか、"異世界の人間"と言うのがこの世界でどのような認識をされているのか分からない。
下手に言ってしまえば最悪殺される可能性もあるのだ。
「昔、この世界には"魔法"というモノがあったらしいんだ」
「え?」
唐突に話し始めたアイザックさんに思わず間抜けな声が出る。
「もう数百年前に失われてしまった不思議な力の事なんだけどね」
「魔法……」
「その時代の人達が残した不思議な道具がこの世界には多数あるんだよ」
「不思議な道具?」
「"魔道具"と僕等は呼んでいる。この国でも幾つか発見されているけど、その中の一つがこの国の王城にあるんだ」
「はぁ」
「君達を発見する約一時間前にその魔道具が何らかの要因で発動したって報告を受けているんだよ」
「へ?」
「今は以前と同じ様に沈黙しているみたいだけど、既に過去の物となったソレが動いたのは今回が初めての事でね、その原因も分かっていない。ただ、その後直ぐに君達を発見した事から、君達と何らかの関係があるのではないかと僕は思っているんだ」
「……」
「因みに、その魔道具はこの世界と別の世界を繋ぐ事が出来る物だと調べがついている訳だけど」
「……」
それはつまり、私達が異世界から来たという事をもう殆ど確信に近い形で認識しているということだ。
黙り込んでしまった私にアイザックさんが優しく微笑む。
「君達がどこの誰で、何処から来たのかは言及しないけど、僕は君達がここに居る間にやる事については内容にもよるけど、全面的に協力するつもりだよ」
「……どうしてそこまで?」
「もし魔道具の発動で君達がこの世界に来たのであれば、それは魔道具を有しているこの国の責任だし、何より僕は魔道具の研究室室長をやっている身だからね。魔道具関連で起きたあらゆる出来事は僕の責任だ」
「……」
真っ直ぐにこちらを見つめてそう言ったアイザックさん。
そんな彼に応える為に私も姿勢を正す。
「アイザックさんの考えている通り、私は……私達はこの世界の人間ではないと思います。少なくとも私達が居た世界の名前は"ウィルテナ"ではありませんでした」
「そっか」
頷いたアイザックさんはしかし、先程の発言通りそれ以上何かを言及する事はなかった。
その事に酷く安心すると同時に彼ならば信じても大丈夫だと強く思えた。