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「成る程、犬と猫に触れ合う事を目的としたお店かぁ」
「はい。どうでしょう?」
次の日の夕方、仕事から帰って来たアイザックさんへ早速お店の事を話してみた。
「そうだね、面白いんじゃないかな。僕が新しく出したイヌとネコの生体についての著書の売れ行きもいいみたいだし、彼等に興味を持つ人達も多いだろうからね。そんな彼等に直接触れ合えるとなれば一度足を運んでみようと思う人も少なくないと思うよ。一度来た人がそれから先も継続して来てくれる様になれば商売としてやって行けるんじゃないかな」
「そうですか、ありがとうございます」
「ただ、癒しや触れ合いを目的とするなら、居るのが苦にはならない空間を作らないといけないからね。飲み物やお菓子、軽食なんかを提供すれば更にいいんじゃないかな?」
「あ、それは既にミシャーラさんに相談済みです」
「へ? そうなの、ミシャーラ?」
キョトンと尋ねるアイザックさんにミシャーラさんがおっとりと微笑んだ。
「えぇ、私達は朝食の時に話を聞きましたので。ほら、料理長の息子さん、お名前は何と言ったかしら? 確か、ヒューガーさん?」
「ヒューズだよ」
「そうそう、ヒューズさん。彼は町にベーカリーを開いていたでしょう? そこの商品を転売してはどうかと思うの。料理長には既に話はしてありますわ。本人に話してみてくれるそうよ」
「あぁ、それはいいね。じゃあ後は制服とか?」
「あ、制服はヴィアさんにお願いしていまして」
「え?」
パチパチと瞬いたアイザックさんが今度はヴィアさんに目を向ける。
「はい、承っております。私の知人に洋服を造るのが上手な方が居るのでそちらに頼んでみようかと」
「そっか。……そっか。これはもしかして、僕が最後に聞いた感じかな?」
「え? あー、はい、そうですね」
心なしかアイザックさんの纏う空気がどんよりしている。
「あら、あなたもしかして落ち込んでいらっしゃるの?」
「ミシャーラ。だって、僕が居ない間に皆だけで話が進んでいて、僕には最後に話すんだよ? 寂しいじゃないか……」
「それは……すみません?」
シュンと項垂れるアイザックさんに思わず疑問形で謝ってしまった。
「いい年齢の大人がそのような小さな事でいじけないで下さいな」
そんなアイザックさんに笑顔で止めを刺したミシャーラさんに思わず苦笑がもれてしまった。
「君ってときどき笑顔で毒を吐くよね……まぁいいや。お店を開く場所とかはまだなんだよね?」
「はい、まだですね。そういうのも含めてこれから皆で話し合っていこうかと」
「そっか。なら、場所は自分で見て決めておいで。案内はちょうど適任な人物が居るからその人にお願いすればいいだろうから……そうだな、明後日には下見の日にちを伝えるね」
「適任な人物、ですか?」
「うん。誰かは当日まで内緒ね」
楽しそうにニッコリと笑ったアイザックさんに曖昧に頷く。
この場で日にちを決めないという事はこの屋敷の人ではないという事だ。
いったい誰が来るのか気になるけれど、未だニコニコと笑っているアイザックさんは宣言通り当日まで言う気はなさそうので聞き出すのは早々に諦めた。
「じゃあ僕はぁ、皆に接客の仕方とか教えて行きますねェ」
側に控えていたシュウォン君がニッコリと笑顔で言えばヤヨイとカンナの表情が絶望に染まる。
彼は相当スパルタな様だ。
「では私もこの世界でお店を経営する上で必要な知識などを教えて行きますね」
元の姿のハヅキを膝の上に乗せてデレデレの笑顔で言うヴィアさんは迫力の欠片もなかったので、生徒の立場として少し複雑だ。
普段はキリッとしているから勿体ない。
「あぁ楽しみだわ。きっとステキなお店になるのでしょうね。お店の場所が決まったら私が開くお茶会で皆様にそれとなく宣伝するわね」
「それはいいね。貴婦人方は新しいものには目がないからきっとすぐに広まってお客様になってくれるだろうね」
朗らかに笑う二人にこちらも笑顔になってしまう。
この世界で出来た私の夢が少しずつ形になり初めている。
それがとても嬉しい。