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私の家族である動物達の残り三匹と無事に再会を果たし、今私達は最初に通された”謁見の間”から王様が極々私的な人達と会うためにある部屋、談話室へと来ていた。
私の左隣にはアイザックさんが座り、私達の足元にはカンナとヤヨイと元の姿に戻ったサツキ(柴犬、雄、四歳、赤)が伏せており、膝の上にキサラギ(ノルウェージャンフォレストキャット、雄、三歳、シルバータビー&ホワイト)が乗っている。
ハヅキ(白猫、雌、五歳、白)は私の右隣でお座りしている。
そんな三匹をガン見するアイザックさんと、そんなアイザックさんを微笑ましそうに見守る国王様。
「……」
何だ、この状況。
「あの、」
「うん? あぁ、ごめんね。つい」
「あ、いえ。それであの、お話とは?」
恐る恐る発した声にアイザックさんが申し訳なさそうに目尻を下げる。
国王様はそんなアイザックさんに苦笑して側に控えていた男の人から一枚の紙を受け取った。
「話と言うのはこれの事だよ」
「……これって」
ヒラリ、と渡された一枚の紙。
そこに書かれている内容を読んだ私は思わずアイザックさんを仰ぎ見た。
”養子縁組み申請書”。
そう書かれたその紙には既に”養父”と”養母”の欄にアイザックさんとミシャーラさんの名前と押印がある。
更には”証人”の欄には国王様の名前がある。
「それが、君が義兄さんの代わりに受ける罰だよ」
「へ?」
「さっき言ってたでしょ? 義兄さんが罪に問われるならその罰は君が受けるって」
「確かに言いましたけど、これが罰……?」
これは、罰と言うにはあまりにも……
「私には得しかないじゃないですか。これじゃあアイザックさんにとっての罰になってしまいます。私が代わる意味がないです」
「いいや、これは君への罰だよ。君はこれから義兄さんの家族になって貰う。そうしてその身を国の監視下に置くんだよ。義兄さんは公爵だからね、この国から出る事なんてそうそう無い。その養子となる君も勿論、簡単には他国に行けない様になる。それほつまり、元々自由の身であった君をこの国に縛り付けるという事になるんだ」
「……」
けれど、それでも罰と呼ぶには至らない。
国王様は”監視”と言ったけれど、それは”保護”とも言える。
ただ私を無理矢理にでも納得させるために言い回しを選んでいるだけだ。
「難しく考える必要はないよ」
窺う様に見上げた先、私と目があったアイザックさんは笑って言う。
「その申請書は元々用意してあった物なんだよ。二日前に僕がフィリットに渡したんだ。罰とか言ってるけど、それは君が断らない様にするための彼の勝手な方便だよ。気にしなくていい」
「あー、義兄さんばらさないでよ」
「……」
不満そうな声を上げる一国の王。
思わず呆れた目で見てしまったのは仕方ないと思う。
「あ、じゃあさっき言ってた見極めるとか、実行に移せるってこれの事だったんですか?」
「その通りだよ」
「ただ義兄さんは公爵だからね。そう易々と誰でも養子に迎えていい訳じゃない。”公爵家の養子”に相応しいかどうか、ちゃんと見極める必要があったんだよ」
「成る程」
「試す様な真似をしてごめんね」
「いえ、必要な事だと思いますので気にしませんよ。それで、何で私を養子にと?」
「何で? うーん、そうだね、君が……君達が、とってもいい子だったから、かな?」
「いい子、ですか?」
「うん。あー、なんだろう、言葉にすると難しいね……ただ、君達と過ごしたここ数日はとても楽しくて、充実していて、あぁ、いいなって思ったんだ。この子達と家族になりたいなって思ったんだよ。僕とミシャーラの間には子供が居なくてね、まぁ、それでも別に良かったんだけど、君達と暮らしてみてこの子達が僕とミシャーラの子供だったらとても素晴らしいのにって思って、それをミシャーラに言ったら彼女も同じ様に思ってたみたいでね、話はあっという間に纏まったんだ。まぁ、本当ならカンナちゃん達も全員養子に迎え入れたいところなんだけど、ペットとの養子縁組みは出来ないからね。こればっかりは仕方ない」
「……」
だからね、とアイザックさんは笑う。
「僕達と家族になってくれないかい?」
その笑顔が余りにも眩しくて私は目を細めた。
何でか目の奥がグッと熱くなって、視界がボヤけてしまったせいで”養子”の欄に書いた名前がほんの少し歪んでしまったけれど、私達の父になった人が、それが私らしくていいと笑ってくれたからそれでいいと思えてしまった。