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当店本日も営業中  作者: 夢猫
異世界に来てしまいました。
11/21

10

「だから、アイザックさんが罪に問われるというのなら、その罰は私が受けます」


 凛と発せられた声。

 強い意思を宿した瞳は真っ直ぐにこの国の国王を捉えていた。


 僕が異世界から来たという子達を拾ったのは興味本意からだ。

 王都から少し離れた草原に倒れていた一人の女性とその女性の回りをうろつく二匹の見たことのない生き物。

 動物学者でもある僕は、その見たことのない生き物に心惹かれた。

 ただ、その生き物達は倒れている女性の傍から動こうとせず、無理矢理連れていこうとすればけたたましく吠えて威嚇してくる始末。

 そうなってしまえば仕方ないので、倒れている女性も一緒に保護する事にしたのだ。


 そうして何とも自分勝手な理由で保護した彼女達は、とても素直でいい子達だった。

 彼女達を手元に置く為の方便として言った、自分の持つ肩書きを利用しての”責任”を本当に果たしてしまおうと思える程にいい子達で、彼女達と過ごす日々は楽しかった。

 だから僕は思ったのだ。

 彼女達を、


「ふふ……ふはははは!!」


「!?」


 思考の海に意識を落としていた僕の耳に突如大音量の笑い声が入って来た。

 思わず上げた顔。その視線の先には心底楽しそうに笑うこの国の王、フィリット・センカの姿があった。


「は? ……え?」


 混乱しているのか間抜けな声を上げるユヅキさんに苦笑する。

 これは仕方ない。

 先程までの真面目で重苦しい雰囲気を、それを作り出していた本人が霧散させたのだから。


「さすが、アイザックが連れて来ただけの事はあるね。中々に面白い()だ」


 未だに治まらない笑いに目に涙まで溜めて言う国王にユヅキさんの目が大きく見開かれ、そのまま数度瞬いた。

 それもそうだろう。

 もしかしたらソレ自体に重さがあるのではないかと思ってしまう程に重い声音と、それに伴う言葉を吐き出していた筈の彼から今しがた出てきたのは、何処と無くポヤンとした少しだけ遅いテンポの、歳に似合わず若々しい声と、笑い混じりのたぶん褒めているであろう言葉だったのだから。


「フィリット、あまり人をからかうものじゃないよ」


「あぁ、ごめんね義兄(にい)さん。だけど、ちゃんと見極めないといけなかったのは確かでしょ?」


「まぁそうなんだけどね。それでも僕がお前の前まで連れて来た子達なんだから、それだけでもう充分に信用出来るって思って欲しいな」


「それは分かっているけどさ。まあいいじゃないか。これで義兄さんが考えていた事も実行に移せるんじゃない?」


「確かにね」


「え? は? てか、え、義兄さん?」


 話について来れていないユヅキさんは未だ混乱中だ。

 お座りで待機していたカンナちゃんとヤヨイ君も不安そうに鼻を鳴らす。

 そんな彼女に笑みを返したのはフィリットだ。


「彼の妻、ミシャーラは僕の姉さんだからね、彼は義兄になるんだよ」


「え、ミシャーラさんって王女様だったんですか!?」


「そうだよ。第二王女だったんだ」


「……」


 ポカン、と開かれた口は彼女の驚きの現れだろう。

 驚かせるつもりはなかったが、結果的にとても驚かせてしまったので謝罪をしようと口を開いたその時、けたたましい音を立てて廊下へと繋がる扉が開かれた。


「主!!」


「「結月!!」」


 慌てて止めに入る騎士達の間をすり抜けてユヅキさんに向かって一目散に駆けて来る三人には、カンナちゃんやヤヨイ君と同じように獣耳と尻尾がついていた。


「あ、そうだった」


「ぅぎゃっ!!」


 フィリットが忘れてたとばかりに声を上げたのと、三人の突撃によりユヅキさんが潰れた様な声を出して倒れたのは同時だった。


「主よ! ご無事でしたか!!」


「結月、ここ何処なのー?」


「もう、今まで何処に行っていたの? 心配したんだから」


「ぅ……ま、ちょっと待って……取り敢えず下りてっ!!」


 ユヅキさんの必死の訴えに三人が彼女の上から退く。

 立ち上がったユヅキさんが自分を囲む三人をジッと見つめる。


「えっと、サツキ?」


「はい!」


 元気よく頷いたのはユヅキさんより頭一つ分背の高い二十代前半の男だった。

 黄金色の短髪と同色の獣耳。クルンと内に巻かれた尻尾も黄金色だ。焦げ茶色の瞳は真っ直ぐにユヅキさんを見ている。


「それと、キサラギ?」


「そうだよー」


 のんびりとした口調で応えたのは銀の長髪に水色の瞳の十代後半の男の子だ。

 背はユヅキさんと同じくらいなのだが、しっかりとした体形をしている。

 それでも威圧感が全く感じられないのは、ウトウトと眠そうな目と白銀の獣耳とユラユラと小さく揺れるフサフサの尻尾のせいだろう。

 しっかりと開けば大きいであろう目は半開きで、体全体からやる気のなさが伝わってくる。


「じゃあやっぱり、あなたがハヅキ?」


「ええ、そうよ」


 鈴の音の様な声と見惚れてしまう程に綺麗な微笑みを浮かべて応えたのは、白髪のショートヘアーに金色の瞳の二十代の女性だ。

 整った顔立ちと細い体にキュッと引き締まった括れ、白い毛並みの獣耳と細身の尻尾も彼女によく似合っていた。


「探していた子達はその子達で合ってるよね? これで全員揃ったかな?」


「あ、はい、そうです。これで全員です。ありがとうございました」


「義兄さんの頼みだもん。断る訳がないし、断ったら姉さんが怖い。あれで怒らせると結構恐ろしいからね」


 フィリットがウィンクつきでそう言えばユヅキさんが小さく笑った。

 王城に来てから初めての笑顔だ。

 そんな二人を横目に僕は今しがたユヅキさんに名前を呼ばれた三人を観察する。

 耳や尻尾の形状からしてサツキと呼ばれた彼はイヌで間違いないだろう。

 それじゃあ、残りの二人はユヅキさんが言っていたネコという事になる。

 

「早く元の姿を見たいなぁ」


 思わず漏れた言葉にユヅキさんとフィリットが揃って笑った。

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