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当店本日も営業中  作者: 夢猫
異世界に来てしまいました。
10/21

9

 アイザックさんから他の子達が見つかったと報告を受けて一時間もしない内に私達は身なりを整えて馬車に揺られていた。


「ここが王城……」


 数十分の移動を経て辿り着いたのはこの国の王様が居る場所。


「さぁ行こうか」


「あ、はい」


 慣れた様にスタスタとお城の中に入って行くアイザックさんに続く。

 門番の人達はアイザックさんを見て道を開けてくれたが、その後に続く私と犬の姿のカンナとヤヨイを見て訝しげな顔をしている。

 特にカンナとヤヨイに視線が向いている。

 まぁ、止められる事は無かったので予めアイザックさんが何か伝えてくれていたのかもしれない。


「さぁ、準備はいいかい?」


 お城の無駄に広い廊下を歩いて辿り着いた大きな扉の前、アイザックさんの問いに笑顔を作ろうとして失敗した。

 

「何の準備ですかね?」


「この国の王に会う心の準備だよ」


「……」


 いや、まぁ、そりゃあ何となく予測は出来ていた。

 アイザックさんに王城に行くと言われた時にもしかしてとは思った。

 着いたのが王城で、やっぱりとも思った。

 だがしかし、心の準備は出来ていない。

 それとこれとは話が別だ。


「あの、一ついいですか?」


「何かな?」


「アイザックさんが残りの子達を探す様に頼んだ、とっても頼りになる人物ってもしかして……」


「そうだよ。この国の王、フィリット・センカ様にだよ」


「……」


 私は無事にこのお城から帰る事が出来るのだろうか?

 まさか国王様に頼んでいたなんて……

 そりゃ、確かに頼りにはなる。とっても頼りにはなるけれど……


「さぁ、行くよ」


「え? ちょっ、まっ!!」


 私の制止も虚しく開けられる扉。

 真っ直ぐに伸びた赤い絨毯のその先、いかにも、な椅子に座っていた人物が入って来た私達を暫くの間ジッと見てからスッと目を細めた。


「その娘達がお前が言っていた者たちか、ルルジアナ公爵?」


「えぇ、おっしゃる通りです、国王陛下」


 綺麗に腰を折ったアイザックさんに習い、私も見よう見まねで礼をとる。

 カンナとヤヨイは私の横でお座りで待機だ。


「お前から異世界の者達を保護したと聞いた時には驚いたぞ。しかも他にもイヌ? とネコ? だか言う生き物が三匹程この国に来ている筈だから至急探して保護して欲しいとまで頼みに来たのだからな」


「えぇ、お手数をおかけしてしまい……」


「お手数、だと?」


 アイザックさんの言葉に王様の瞳に険が宿る。


「お前は我が国の”公爵”だ。我が王家の次に権力を持っている家なのだぞ。お前自身の魔道具研究室室長という肩書きも、動物学者という肩書きも、この国に……否、他国にとってもとても重いモノだ。そのお前が得体の知れない者達を保護し、残りの者達も探し出して保護しようとしているなど……もしその者達が他国からの間者だったのならどうするのだ? そうでなくともその者達がこの国に災いをもたらす者であったのなら?」


「……」


「お前の行動は余りにも軽率だ」


「申し訳ございません」


「『お手数をおかけして』と言ったな。確かに探すのに騎士団の者達を使いはした。だがな、対した人手は割いていない。その様な事をせずともお前が探していたモノ達は直ぐに見つかった。それほどまでに目立ち、そして騎士を呼ばれる程に国民達が恐れたのだ。お前の言う”この世界に居ない生き物”の事を。本来ならばその様な者達に対して早急に対応策を出し、国民を安心させるのが貴族位を賜っている者の役目。だがお前はその者達を私に相談するよりも早く保護し、手元に置いた。国家反逆罪と取られても可笑しくない行為であるぞ。お前の行動が世間にもたらす影響をもう少し考えろ。罪に問われたいのか?」


 眉間に刻まれた深い皺が、そのまま王様の機嫌に繋がっているのだろう。

 責める様に向けられた言葉。

 困った様に眉を下げるアイザックさんの隣で、私は怒っていた。

 態度にも言葉にも出さない様に、耐えて耐えて、それでも確かに怒っていた。


「この責任、どうとるつもりだ? アイザック・ルルジアナ公爵よ?」


 その一言でプツン、と切れた何か。

 それまで耐えて耐えた怒りが、意図も容易く限界点を越えたのだ。


「学が無いもので、難しい事は良くわかりません」


 発した言葉は思ったより大きく響いた。

 シン、とした空間。その場に居る人全員の視線が私に集まっているのが分かった。

 それでも止めない。言いたい事はこれからだ。


「王様の言っている事はきっと正しいのでしょう。確かにこんな得体の知れない者達を保護して衣食住を与えるなど軽率にも程があります」


 アイザックさんが背負っている責任は、私には到底理解出来ないものだ。

 だから、私よりもそれについて詳しい王様がアイザックさんの行動を『軽率で罪に値するモノ』だと言うのならそうなのだろう。


「けれど、彼の行動により私達が救われたのも事実です」


 そうだ。あのままなら私達は今頃どうなっていたのか分からない。

 私達は彼に救われた。

 それは、それだけは、私が確かに知りうる唯一の事実で真実だ。


「だから、アイザックさんが罪に問われるというのなら、その罰は私が受けます」


 前を向け。目を反らすな。

 これが、これこそが、何も持っていない私が、私達を救ってくれた彼に返せる、今出来る精一杯だ。

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