当店、本日も
カラン、と扉につけたベルが鳴る。
来客の合図だ。
「いらっしゃいませ!」
「ませー」
笑顔で言った私に続けてヤヨイが私の腰に抱きついた状態で言った。
彼の頭に生えている獣耳がピクピクと動き新しいお客様の動きを注意深く窺っている。
尻尾は垂れた状態で小さく揺れているので、やはり警戒している様だ。
彼の人見知りとビビりはまだまだ直りそうにない。
「あー、お客さん? いらっしゃいませー」
店の奥からひょっこりと現れたのは欠伸を噛み殺したキサラギだ。
「ご案内しますよー。あ、おやつの持ち込みですかー? いいですよー。僕にも後でちょうだいねー」
眠そうな声音とは裏腹にきちんと仕事をこなすキサラギはしかし、後半に行くに連れて敬語がとれてきている。
お客様が持って来たおやつを見た瞬間にキラリと光った瞳は相変わらずだ。
「ほら、ヤヨイもお客様に飲み物の注文聞いてきて」
「えー!? キサラギがいるからヤヨイいらないよー!」
「要るの。キサラギにくっついてていいから、ほら」
ブー垂れるヤヨイの背を押して送り出し、今手が空いているカンナを呼ぶ。
ブンブンと尻尾を振ってこちらに来たカンナの頭を撫でてキサラギとヤヨイに接客されているお客様へと視線を向けた。
それだけで意を汲んでくれたカンナがのそのそとそちらの方へ行けば、お客様の歓声が聞こえてきて思わず笑みが溢れる。
「上機嫌だな、主」
「あれ、サツキ何で人の姿なの?」
「お客様がこの姿に成って欲しいと言うものだからな」
「成程。ご苦労様」
わしゃわしゃと幾分高い位置にある頭を撫でてあげれば黄金色の毛を持つ尻尾が大きく左右に揺れた。
「俺も接客に回るか?」
「うーん、先に休憩に入っちゃって。ついでに買い出し済ませて来てくれる?」
「了解した」
「あ、ヤヨイ連れて行って。あの子にももうちょっと人に慣れて欲しいからね」
「分かった」
頷いたサツキが未だにキサラギにくっついていたヤヨイを連れて奥へと引っ込む。
次いで数人のお姉様方に囲まれたハヅキへと視線を向ければちょうど起き上がって伸びをした彼女が一声鳴いた。
時間切れを報せる一声だ。
その声に時計を見たお姉様方が残念そうに声を上げて、ついでに腰も上げた。
次々と別れの挨拶をして行ったお姉様が完全に居なくなってからこちらへやって来たハヅキがスルリと体をすり寄せる。
「お疲れ様、ハヅキ。暫くは自由にしてていいよ」
それに応えたハヅキは定位置である窓辺のクッションの上で丸くなった。
そんなハヅキを遠目に見ながら目を綻ばせるお客様達。
そこそこ忙しく、けれどとても穏やかな時間が流れるここは犬と猫に触れ合う事を目的とした専門店、『満月』。
犬が三匹に猫が二匹。ついでに人間一人で経営している小さくとも賑やかな癒しの空間だ。
カラン、とベルが鳴る。
今日も、『満月』は営業中です。