5話_Rescue operation_
気が付いたら二カ月が過ぎてました…。目標を達成するためにも上げていこうと思います。
「起きてくださーい。朝ですよー。可愛い可愛い美少女がお腹すかせてますよー」
いつもと違う目覚めだった。バキのどこかこちらを落ち着かせる声じゃなく、透き通った無駄に元気な声がまぶたを開かせた。
「美少女と自分で言うにはあざとさが足りないな」
ギャンブルをやめることからおすすめする。金をすりつつ、布団を見てとこ上手と言い始める美少女は厭だ。
「日本で図々しい奴は嫌われやすいぞ」
そう言いつつ葉梨は顔を洗う。まだ疲れがとれた訳ではないようで、洗った後も力なく、地上に出てきてしまったモグラを体現するような表情をしていた。
そんな土竜少年の腰にへばりついて移動する乞食少女。ぱっと見ケンタウロスである。
一応自分の足で歩いているので負荷は少ないが鬱陶しい事この上なし。
「ご飯無いんですか。イスクラさんはペコペコです」
「イスクラさんや。お前さんが米に辿り着くには条件がある」
「条件…ですか?」
萎んだ目で見上げるイスクラは腹を見たせれる可能性が湧くと、獣のような爛々と輝く目に変わる。
「何ですかそれはっ。靴でも何処でも何でもなめちゃいますよ!」
初対面の時の事務じみた固さは何処に行ったのか。とんでもなくフニャフニャ低姿勢である。
葉梨はイスクラの肩を持ち、目線を合わせて言う。
「条件は一つ、橋姫攻略の協力だ」
「は?え?それは普通に私の案件ですけど。関わっていたんですね。動かなくても良いですよ?」
「いや、駄目だ。あくまで共闘だ」
魅力的な提案に見向きもせず即座に蹴る。
イスクラの表情が変わる。
イスクラ=クォーツは歴戦の祓魔術師だ。今までに妖怪の霊によって人が死ぬのを厭というほど見てきている。そもそも魔法が作った摂理に、人より上位のものとして基本幻想種は設計されているのだ。人が、よりにもよって一般人が勝てる道理はない。
「巫山戯ているじゃねえですよ。舐めているんですか、超常のもの達を。一般人がどうにか出来るわけが無いじゃないですか」
「証明すれば良いんだろ?一般人じゃないことを」
パチン!
そう言いつつ葉梨は指を鳴らす。
…。
…………。
…………………………………。
『え、これ我が出ないといけなかった?』
両手を顔に当ててしくしくと泣く葉梨の後ろに可視化したバキ。
イスクラはバキの角、目、着物を見て瞠目する。
「茨木童子…。Я не могу понять。SSレートの化け物が何でこんな所に。いや、こんな所だからですか。師匠が14年前に討伐したと言われてましたが、弟の体の中に封印していたとは」
『封印ではないわ。契約じゃ』
「なるほど、茨木童子特有の方法ですね」
「なんか俺のターンだと思っていたんだけど、知らない情報がざっくざく出てくるな」
したり顔で頷いているイスクラに、昔を懐かしんでいるかのように目を細めるバキ。
聞く限りバキ姉、茨木童子はロシアでも有名らしい。茨木童子と言えば日本の有名どころでもあり、ソーシャルゲームでも名前があがることがあるので若者も知っていたりする。
「憑依でも封印でもない契約ですか…。あの師匠なら悪いように契約していないでしょうが」
『あの風香じゃからな。基本契約上我は小僧の手助けをするようになっておるからの。協力はするぞ』
イスクラはバキをじっと眺めて、次に葉梨の方に目を流す。
なぜか葉梨の手には汗が出る。
「確かに見た限りでは信頼関係もあるように感じますし、茨木童子が居るというなら橋姫への対抗策も納得します。というか盲点でしたね。使役者は管理が不十分になりがちな非生物を媒介にするか、自分自身を媒介にして人間を辞めていくかの二択だと思ってました。契約となら必要以上に浸食、フェーズ3になることもないでしょうね」
『我唯一の方法じゃな』
「流石ですねー。元々Sレートだと言われていた茨木童子が格上げした理由、契約・等価交換の異能。代償さえ払えば魔法とも契約することすら可能の破格の異能とは」
かなり得意げにチラチラ見るバキに葉梨は感嘆したけどなんかそれを口に出しにくくなっている。
「あの、なんだソレ。フェーズとか、Sレートとか…。あと契約・等価交換の異能も」
その言葉を聞くとイスクラはぎょっとした目をする。
「管理出来てねーじゃねーですかぁ!!」
「うおっ、急に大きな声出すなよ」
顔を顰める鈍い男に言い聞かせるようにイスクラは喋る。
「いいですか、良く聞いて下さい」
「お、おう」
「幽霊が出現するにも種類があるんです。自然に出てきて、ぽっと出で消えていく非人為系。これは持続時間が長くないのであまり重視されません。その徘徊の途中で自分の媒介になるものを見つける者も居ますが。ソレとは別に、儀式を通して降霊される人為系。これは大概の場合術者が媒介を用意するので、非生物か生物かの違いはあろうと媒介に入り込み、長時間の現界をするでしょう。そして幽霊は己が自由に活動するため、媒介を乗っ取ろうとします。それを浸食度と言い、フェーズで表されます」
「フェーズってのは危険度なのか…。俺、バキ姉がそんな危険な者とか知らなかったぜ?」
『戯け。毎夜追いかけてくる亡者共を見れば、押してはかるべきものだろうに』
そうだ、確かにそうなのだ。考えてみれば分かるはずのことだが、そんなことが分からなかった。感覚が日々の生活で麻痺していたのだ。
自分の迂闊さに背筋に震えがはしる。
「それでですね。フェーズ1(ワン)は媒介が明らかに主導権があり、幽霊となったものの力を一部“異能”を使えるので、かなり便利です。肉体的不調もないでしょう。この状態は余り幽霊が表に出てないので、探知術式にも引っかかりません」
「だから俺達にイスクラは気づかなかったのか」
「そうですね。だからフェーズ1は厄介なんです。まぁ大体はそれ以上の能力を術者が望んだり、幽霊がはやく浸食しようと躍起になるのですぐフェーズ2になります」
「それは…」
危険なのではないか?、と続けようとしたがイスクラの顔を見ると分かる。聞くまでもない、非常に危険なのだ。
「…続けますよ?フェーズ2(ツー)は媒介自身に影響を与え始めてた段階で、この時点で媒介が生物であり、精神力が幽霊に負けているものは主導権を幽霊に奪われます。媒介自体が幽霊の生前に近づき、より多くの力を振えるようになり、また使える異能の種類も多くなります。媒介が非生物ならこれ以上の浸食はありません。非生物であるメリットはここで浸食が必ず止まることですね。この現象を利用したアーティファクトとかもあります。最後にフェーズ3(ファイナル)完全に媒介が意志を乗っ取られ、尚且つ体も幽霊の生前と同じものとなる状態です。これはもう手遅れですね。私の部隊では見かけると殺害を推奨されています」
「殺害を推奨?!」
日本にいると聞くことはあろうと、その言葉に本気の殺意を乗せたものを聞くことは少ないのではないだろうか。
生きている世界が違う。初めて出会った時も感じたが、改めて思う。
「当たり前です。それはもう死者復活と変わりません。媒介となったものの意思は無いのです。大概の場合は相手の命が無くなっても生に縋り付いた者共です。モラルなんて期待する方が間違いではないですか」
彼女はそんな生き死にの世界を歩いて来たんだろうと。
日常回と思わせてのシリアス。…シリアスにする予定はなかったのにおかしいなぁ?




