幕間
死地を求めていた。
そんなもの、既に己の中にあると知りながら。
とうに力は尽きている。
惰性のような、本能のような、か細い生命線に突き動かされ、歩み、地を這い、砂埃でその身を汚し、泥に塗れながら、ここまで来た。
だが、もう限界だった。
背負った罰は、身体より先に心を蝕み、気力を奪い去っていた。
生きる気力を。
後悔なんて生温いものではない。
これは、もはや恐怖だ。
彼女は今、自分の罪に恐怖している。
その重みに、重圧に、迫り来る黒黒とした感情に、逃げることもままならず、飲み込まれ、その闇の中で恐怖している。
後悔など、できるはずがない。
振り返れば、自ら死を選ぶであろうその記憶は、背を向けていても呪いのように縛りつけ、痛めつける。
それがもう、限界だったのだ。
耐えられない痛みなど、ないと思っていたのに。
絶えることのない痛みなど、知らなかった。
無知だった。
知ることを恐れていた。知ることを忌避していた。
知れば、壊れてしまいそうだったから。
でも、それは間違いだったのかもしれない。
あのとき、全てを知って理解していたら、壊れてしまえていたのなら。
その方が、どれだけましだったろう。
この罪は、この痛みは、この記憶は、一生消えない。
真っ当に歩み続ける限り、その足枷となり、首輪となり、地に縫い付ける鎖となり、その生を苦しみ、恨むこととなるだろう。
真っ当に、歩むなら。
……真っ当でなかったのなら。
いや。
そんな考えは、捨てるべきだ。
もう遅い。
遅過ぎた。
全ては死へ収束している。
終わりへ、向かってしまっている。
もう逆らえない。
じきに、誰かが彼女を見つけ、殺すだろう。
そうでなくとも、この都市で、彼女は誰にも手を差し伸べられず、息絶えるだろう。
もしかしたら、罰を受けるかもしれない。
だが、それもまた運命であり、釣り合いなのだろう。
罪と罰は決してイコールにはならない。
だが、罪人は、受け入れうる限りの罰を受けなければならない。
罪に見合うだけの罰を、受けなければならない。
だとしたら、彼女は。
彼女の罪に見合うだけの罰は、一体なんなのか。
何百の命を手にかけた――――――穢して、汚して、ぐちゃぐちゃにした彼女に、与えられる罰は。
もはや、死以外にあるまい。
だから、彼女は、その最期を受け入れる。
自ら、己を消し去ることで。
そしてそれは、ある意味では、罰からの叛逆だった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……………………逃げちゃって、ごめんなさい」
彼女は、救いを希う。
弱さに溺れ、許しを乞いながら。
そして、彼女は、『アリサ=ステラリウム』は、自らを葬る。
闇の、奥深くへ。
叛逆の希望に、鍵を託して。
ここまで読んでいただきありがとうございます、中二病です。今回は短めなので、幕間というサブタイトルにしました。今回おまけなしです。
よかったら次回も宜しくお願いします。