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ジョーカーを待つ街

『ジョーカーを待つ街』

 街はいつも腹が減っている。

 飢えを満たそうと、毎日多くの人々を飲み込む。ビルの中に飲み込まれ、そして電車の管から吐出される。空腹を知らせる騒音が今日も響く。


 その様子を見ている1人の男。太陽が水平線に沈んで空が暗く落ちていく。上を見上げるとキラキラと星が輝き始め、下を見下ろすとキラキラとネオンが輝き始めた。男は笑った。その手には肉切り用ナイフ。「ジョーカー、俺は腹が減った。」


 ある街の灯りの1つ。ある男は残業に追われていた。へとへとになった目は、ふと何かを感じて鋭くなった。携帯電話の日付と時間を慌てて確認する。「そうか、今日か・・・ジョーカー、いよいよだな。」男は鞄とジャケットを慌てて手に取るとビルを飛び出した。


 電信柱の灯りの下。男はタバコにゆっくりと火を灯した。ライターなしで。男は火を自由に操ることができる。ふーっと煙を吐き出すと、暗くなった空を見上げた。「やれやれ。俺は隠居したってのによ。のんびりさせてはくれねぇなあ。・・・ジョーカー。」


 アパートの一室。薄暗い灯りの中、女がカードをめくる。彼女の未来予知は1つの未来を暗示した。「ジョーカー」。女は深呼吸をした。「いかなくては。運命の時間が迫っている。」


 賑やかなカラオケルーム。少女が友達と流行りの曲を熱唱している。その時、携帯電話がアラームを知らせる。画面には「ジョーカー」の文字。少女の顔が青ざめる。「どうしたの?」友達が訪ねる。「ごめん、用事忘れてた!今日はもう帰るね!」少女は慌てて荷物をまとめると、部屋を飛び出した。「間に合うかな。・・・ジョーカーの時間に。」


 1人の老人が、公園のベンチに座っている。そこに、1人の男が走りこんでくる。息を切らしたその男に、老人が話しかけた。「ジョーカー・・・かね?」男は答える。「ええ。」老人は空を見上げた。「この街の全てがジョーカーに踊らされておる。テレビやネット、新聞にラジオ、全てがジョーカーだ。・・・お前も、どうしても行くのか。」男は答える。「ええ。それが私です。」老人はゆっくりと身体を起こした。「では、ワシも行くとするか。」

男は驚く。「師匠、しかし、お身体は。」「構わんよ。ワシも、見てみたくなった。・・・ジョーカーという奴を。」「・・・師匠、行きましょう。・・・待ってろ、ジョーカー。」


 ジョーカーは、不敵にも笑った。これから来る、ひと癖もふたくせもある客達をどう料理してやろうか。彼のお気に入りの調理道具は万全だ。仕込みも既に終えている。ジョーカーは腕を振ると、水が逆巻き、哀れな生贄の肉片が散った。地獄の炎がこんがりとその肉片を焼きあげる。パーティの登場人物たちを、楽しませてやろう。

 街中から客達が揃った。「いよいよ・・・時間だ。」ジョーカーは肉切りナイフを構えた。


 メディアで絶賛!『ジョーカーの焼き肉料理店』本日いよいよオープン!

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