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外灯が照らしている暗い夜道に歩いているのは若い男性。歳は20代辺り。コンビニ帰りか、ビニール袋を持っている。携帯を少し見た後、顔を上げて気付いた。
その男性の目の前、暗い夜に沈むように真っ黒な服で身を固めた人影が立っていた。
「…何だ?」
首を傾げて通り過ぎようとした時、存外小さな人影がくぐもった声を出した。
「…黒龍を知ってるかい」
え、と振り返った時何かが視界で閃いた。気付いた時には持っていたビニール袋が持ち手からすぱん、と切れて落ちた。
男が見ると、人影は右手に薄い光を返す刀を持っていた。人影はそれ以上何も言わず、刀を担ぐ様に構えた。僅かに見える赤い目が冷ややかに男を見据える。
人影は地を蹴って大きく前進、振りかぶった刀を真一直線に叩き込んで来た。男は引き攣った悲鳴を上げて逃げようとするが、足がもつれて思い切り後ろに転んだ。
その間にも刀を引き抜いてもう一度突進して来る人影に男の顔が引き攣る。もう駄目だ、とか何で自分が、など考えていた、その時。
「…?」
いつまで経っても痛みは来ない、音もしない。恐る恐る目を開けて見ると、また悲鳴を上げた。鼻先に刀の切っ先が突き付けられており、人影の顔らしき所を見ると、再度くぐもった声を出した。
「もう一度聞くよ、黒龍は知ってる?」
男は無我夢中で頭をぶんぶん振りたくった。それを見ると人影は刀を下ろし鞘に収め、上着を翻して去って行った。
明るい程に満月が照らしている夜、通り魔が現れ、間もなくして名前が付いた。
"月光龍"
それが、通り魔の名となった。