桜舞う
ようやく一話ですん
桜が舞う中、何人もの子供達が校門をくぐりぬけて行く。今日は入学式、小学生から中学生に上がる子供達がわらわらと新しく学舎となる校舎に足を進める。
真新しい制服を着て表情も明るくやって来る子供達の中から外れた桜の木の下、やけに眠たそうな子が一人。
名前を紅月 紫吹と言う。
短い少し癖のある黒髪に白い肌、黒縁眼鏡をかけた女の子だ。眼鏡の奥に隠れる暗い赤色の瞳をぐっと細めて遠くを見た。クラス分けの紙が大きく張り出された看板の前には子供達とその親でひしめき合っていて、とてもその中に行って見に行こうという気にはなれなさそうだった。
紫吹はんー、と考えた後、制服の上から着ていた灰色のパーカーのフードを被って木の下から出た。このパーカーはとある特別な理由によって着用している。
「ちょっと失礼しまーす…っとっとっと」
人波が少ない所を掻き分け前に出る。看板を見上げると、自分のクラスが見て取れた。
一組、十五番、紅月 紫吹
確認してすぐに人混みを出た。あのままいたら押しつぶされそうだと思った。
するりと抜けて昇降口に向かう。入学式には叔父が来ることになっているが、仕事の都合で遅れると言っていた為紫吹は一人で来た。
昇降口で靴を履き替え、教室に向かおうとすると、自分と同じように教室に向かおうとする人の群れで通行止めを食らった。まるで車の往来の様だなと思いながら紫吹は人波が引くのを待って壁際に寄った。
バッグを足の間に挟んで待っていると、隣から声を掛けられた。
「ねね、何組?」
振り向くと、まず最初に長い銀髪が目に入った。腰まである髪が舞い、頭の天辺のアホ毛がぴょこんと揺れた。明るい青い片目がこちらを見ていた。右目には眼帯を着けた女の子は、ぼーっとしていた紫吹に声をかけたのだ。
「一組です…」
「おっ、私もだよー。よろしくねー」
手を取られ、一方的ではあるが握手を交わした。されるがままだったが、人の波が少し引いたのを見て、足元のバッグを持った。女の子も同じ様に着いてきた。
「あ、私城ヶ崎カイトと申しまっす、君は?」
「紅月紫吹、です」
若干押され気味に返すとカイトはにこにこ笑って教室のドアの前でぴたっと立ち止まった。
「とーちゃーく!!入ろ!!」
「ん」
がらがらっとドアを開き教室に入る。既にもう半分ほどが騒がしく集まっていた。
まだ先生は来ておらず、生徒達は席にもつかずに彷徨いたり所々集まって何か話したりしていた。紫吹とカイトは自分の席を探し座る。案外席が近くにあってカイトがすぐに話しかけてきた。
「先生どんな人かなー、気になるねー」
「うん、どんな人だろな」
「怖くないといいなー」
「そうだなあ」
話しているとドアが開き、引率らしき先生が入って来た。いつの間にか集まっていた生徒達が席に着いたのを確認して、廊下に並ぶよう指示を出した。
入学式が始まるのだ、紫吹は少し眼鏡の位置をなおした。