私は奴隷ではない
私は奴隷ではない
どうして離婚したの?
と友人に聞かれたことがある。
もちろん、相手が嫌いになったから、相手を、一緒に生きていく家族として許容できなくなったからである。
理由は死ぬほどある。
ファザコンとしか思えない、息子ちゃんダイスキ!な父親がいて、息子や自分に従順ではない嫁が気に入らず、批判ばかりされていたことも大きな要因ではある。
でもやっぱり、前夫を人間として到底受け入れられなくなった出来事がある。
それは、前夫が性行為を強要してくることだった。
私が眠っているときに、私の意思は一切考慮せずに強行してくるのだ。月経中だとか、仕事で翌朝が早いとか、そんなことは一切関係なかった。
眠っていて、ふと気がつくと、
「お前なんか、しょせんは俺の奴隷だ!」とか「犯してやったぞ!どうだ!」とか「女は男に服従するもんだ!力でかなわないとはそういうことだ!」とか言いながら、行為の真っ最中になっている。そんなことがだんだんエスカレートして、最後の一年ぐらいは特にひどかった。
子どもができれば、前夫が望むような「家庭内で満足する従順な妻、母親」になるのでは?と考えていた部分もあったようだ。
それはあちらの親たちも思っていたようで、子どもはかすがいだとか、子どもができてはじめて夫婦になるとか、事あるごとに言われて、早く子どもを!と繰り返して言われた。
「子どもができたら、さすがの奈都子さんも仕事仕事とか言っていられないよね。」とも言われた。
結婚生活について、友人や自分に愚痴まじりで相談することはあった。
でも、これだけは結局誰にも言えなかった。誰かに相談して、「夫婦の営みを受け入れるのは妻の義務」とかしたり顏で言われたら、自分は壊れてしまうかもしれない、とそれが怖かったし、誰かに相談してもどうしようもない、と諦めていた部分もあった。
どんなにぐるぐる考えても、解決方法は離婚しかない、と思えた。
とりあえず、子どもができたら人権剥奪専業主婦まっしぐらだ!と感じていたので、誰にも言わずにピルを服用して、妊娠を避けていた。こんな夫と子どもを育てていけるとは、到底思えなかった。
離婚する一ヶ月前にも、前夫がまた性行為を強要し、
「来月妊娠していなければ離婚する。」
と言った。
翌朝私は、仕事を休んで婦人科に行き、アフターピルを処方してもらって服用した。
これでやっと区切りがつけられるんだ、と思ったら、なんだかものすごい解放感があった。
今つくづく思うのは、自分も前夫も「離婚することは良くないことだ」と固定観念に縛られていたということだ。
もちろん、自分たちだけではなくて、少なくとも今の日本では、離婚は悪いことという風潮が強いと思う。
前夫は、男尊女卑ではあったが、心の底から悪人というわけではなく、頭が良くて、のんびりした穏やかな部分もある人間だった。
それが、ここまで状況が悪化するまで離婚に踏み切れなかったのも、「離婚する前に、まだ修復する努力をするべきなのでは?」とどちらもが考えていたからだ。
また、ここまで状況が悪化した原因があるとすればそれは、子離れができず、嫁に息子を取られたくない一心で、事あるごとに口を出してきた前夫の父親の存在だと思う。
前夫にしてみれば、自分の父親が妻を悪く言い、妻がどんどんストレスをためていく様子は、見ていて楽しいものではなく、だからと言って親を否定することもできず、ストレスがあっただろう。お互い、余計なこと言わなきゃ良いのに、とか思っていた節がある。
家庭内暴力まがいの行為を繰り返したり、自傷行為を私の目の前でやって見せたりと、とにかく彼も精神的に不安定な状態が続き、まともに話し合うことも難しかった。
今の自分が、もしあの頃の自分にアドバイスできるなら伝えたい。
「心が死んじゃうようなつらい毎日なんて、さっさとやめていいんだよ。」
ってね。
読んでくださってありがとうございました