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第一章 冒険者の生活 その2

朝、起きだす人たちに交じってギルド裏の井戸に行き身だしなみを整える。

受付に声をかけた後、朝食を露店で適当にすまして森へと向かう。

日中ずっと採集を行い夜は食ったらすぐに寝る。

そんな生活も二週間過ぎていた。

ビワもどきには本当に助けられた。

昨日あらかた実は取りつくされ、猿たちもどこかに行ってしまったが、その一週間のおかげでなんとか薬草などを見つけられるようになった。

一日の稼ぎ銅貨4~5枚、頑張れば宿にも泊まれるがそうなると貯金が出来ないので未だギルド生活だ。着たきりになっている服は、ジーパンはまだしもシャツはよれよれであちこち引っかけて破れてしまっている。


「サザキさん、おはようございます」

宿泊用の大部屋から出ると、出勤してきたミールシナと鉢合わせた。

「おはようございます」

二週間もギルドを出入りしているので顔見知りも増えた。

「サザキさんが来て二週間ですか。ここからががんばりどころなので頑張ってください」

「頑張りどころ?」

「はい、大体初めは節約しながらがんばるんですが、ある程度余裕が出ると宿に移りたくなるんですよ。けど、一度移っちゃうとこっちに戻るのが嫌になっちゃって、装備もそろっていないのに無茶して稼ごうとしてしまうんですよ」

確かにありそうな話だ。しかし、サザキとしては会社に泊まり込む感覚に近く、また宿といわれても日本のと比べてしまうと個室として区切られているかいないかの違い程度でしかなく、そこまでギルドに泊まることを苦痛とは思っていなかった。

「なるほど。じゃあまだしばらくはお世話になります」

「はい、ゆっくりしていってください」

ミールシナはおどけるサザキに笑って返してくれた。

顔見知りが増えたといっても話し込むような親しい相手は居ないので、こういったちょっとした会話がかなり嬉しかったりする。

同じ大部屋の人とパーティを組んだり出来ないかと考えたもしたが、同郷の者で固まっていることや十台前半といった年齢に壁を感じてしまい声を掛けられずじまいだった。


レベルは二週間で16まで上がっている。

ステータスは予想通り0~2の範囲で増加したが、うれしいことに魔力が3増えた。微々たる数字だがもとが3だったので倍である。

他のステータスも大体が倍になっており初期の値が低かったこともあってステータス上はなかなか見れたものになったと自分では思っていた。


とはいえ、筋力が倍になったからといって握力や持てる重さが倍になるというわけでは無く、せいぜい森の中で息切れしていたのが休憩を挟まなくても良くなったという程度なのでとても戦えるようになったとは思わない。それに装備も揃っていない。

お金も寝るとき包まる大きな布を買っただけだが、それでも貯められたのは銀銭3枚だけで装備を整えるにはまだまだ先の長い話だ。


通貨の説明をしておくと、価値の低いものから銅銭、銅貨、銀銭、銀貨となり、さらにその上に金貨がある。

レートは下の貨幣10枚で上の貨幣1枚になる。金貨のみ、金銭がないので銀貨

100枚の交換になる。

サザキの一日の生活費はギルドの宿代銅貨2枚、食費銅貨1枚のおおよそ3枚になり、銅銭1枚が100円、銀貨1枚が10万円くらいの価値と思えばわかりやすいだろう。


サザキがギルド近くの馴染みの店で朝食にしていると正面の席に一人の男が座ってきた。

「失礼するぜ」

周りの客は少なく相席をするほど混んではいない。

「ここの店は量も味も文句ないんだが、肉だけは少ないんだよな」

訝しむサザキをそのままに運ばれてきたどんぶりをかき込み始める。

「そのおかげで安いから助かってますよ」

黙っているわけにもいかず当たり障りのない事を言ってから、男と同じようにどんぶりをかき込む。

「違いない。俺もずいぶん世話になった」

しばらく二人がどんぶりをかき込む音だけが響いた。


「いただきます」

断りを入れて運ばれてきたお茶に口をつける。

どんぶりを食い終わっても男が去ることはなく、サザキの分までお茶を頼んだのでありがたく頂戴する。

お茶はすっと通る香りがいいものだった。

「変わっているな」

湯呑を置くのを目で追いながら男が言ってくる。

変わっている、その言葉でサザキが連想するのは異世界のことだ。

「そうですか?」

サザキは冷静を装い何食わぬ顔で答えた。

「大抵の冒険者はせっかちでね。要件を切り出さない奴に悠長に構えられるのはよほど余裕のある奴か、腹の探り合いをしている商人くらいなもんだ」

男の感心した様子に、全くの勘違いをしていたことに気づかされる。

サザキにしてみれば自分に用事があろう怪しげな相手が来たので、出方をうかがっていただけなのだ。

「俺はベオロ、クランドラゴンヘッドのリーダーをしている。話しかけたのはあんたに興味があったからだ」


クランとは冒険者で作る協力組織の事だ。

共通の目的に万進するところから、互いに必要な時だけ協力するものまで様々なものがある。

今いるドイルズレイドの街で有名なのは、ダンジョン攻略を掲げる『深緑の友』、

商人とのかかわりが強い『金糸の結束』、傭兵達からなる『ブラッドカーニバル』の三つでこれらは冒険者をしていれば嫌でも名前は聞く事になる。


補足として傭兵と冒険者の違いは、傭兵は依頼した時点、過程に料金が発生し、対して冒険者は成果を出した時点、結果に料金が発生する。

実際には契約内容によって冒険者が参加報酬で受けることもあれば傭兵が結果報酬で受けることもあるので厳密に分けられているわけではない。


「ドラゴンヘッド?」

「ああ、二次職が4人いる11人のクランだ。うち半数が一ツ星冒険者になる」

2もしくは3PTで二次職の人数をみると中堅クラスのクランだろう。

「今うちに新人が二人来てな、そいつらと組めるメンバーを探している」

「なんで俺なんです?」

クランの勧誘というのは珍しいものではない。

依頼に合わせたメンバーの調整は日常の事であり、野良でその都度探すより効率がいいし、名前が売れればクランに対して指名依頼も入るからだ。

「ああ、新人はミオノとケーって言うんだが」

言われて頭をひねるとしばらく前にギルドに止まっていた二人の少女がそんな名前だったことに思い至る。

「ギルドの大部屋でしばらく一緒になったかな」

同郷から出てきたという二人の少女は、大部屋生活が耐えられなかったのか一週間もたたずに大部屋を出て行ってしまった。

「二人が押した?」

軽く挨拶したくらいのはずだが、なにか琴線に触れるものでもあったのだろうか。

「いや、ただ変わった奴が居たと話に出てきただけだ」

「なるほど。この年で新米冒険者は珍しいからね」

新米冒険者は大体が成人前後、15歳前後でなるものだ。サザキの年齢で新米となると今までの生活をすべて捨ててきた者になり大抵は異質な雰囲気をまとっているのだが、気負うでもなく普通に過ごしているサザキはかなり目立っていたのだった。

「それでなんだがあんたが良ければPTを組んでやってみないか?」

「さっきの話からじゃなぜ俺なのかが分からんよ。それに自分で言うのもなんだがステータス低いよ」

「ステータスは低くても構わない。俺があんたを気になったのはパーティでストッパーになるメンバーがほしかったからだ。若い奴だけだとどうしても血の気が多すぎる。その点、話してあんたなら大丈夫だと思った」

どうやら若者パーティのお目付け役がほしいという話らしい。

「なるほど。けどそれでも最低限の実力は必要でしょ」

足を引っ張るのは嫌だしあまりにも実力が無ければパーティメンバーもサザキの言うことを苦とは思えない。

「その点は心配ない。一次職までなら俺たちが手伝って一気にいける」

聞けば高レベルに交じって戦闘に参加することで最低限の実力まで引き上げることが出来るらしい。

パワーレベリング、ゲームで高レベルが低レベルを一気に引き上げる行為がここでも可能のようだ。


「いや、やめておくよ」

しばらく考えた末に結論を出す。

「まだ戦闘をしたことが無くてね。自分の方向性が決まる前に一気にレベルを上げても後悔することになると思う」

言いはしないが、異世界人の自分に何か特殊な事態が起こる可能性も考慮している。

そこら辺がはっきりするまでは親しくする人は厳選しておきたい。

「そうか、その判断ができる時点で惜しいが仕方ない。気が変わるようなら声を掛けてくれ」

サザキはベオロが去ったあともしばらく席に座って湯呑を弄んでいた。

自分を評価して誘ってくれたのは嬉しかったし、断ってしまった事への後悔が後々湧いてくる。

クラスアップすれば出来ることも増え世界も広がっただろう。

長い目で見れば断ったのは正しい判断だと思う。それでも逃した後だからこそその大きさに未練を感じて悶えるのであった。


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