第一章 ようこそ異世界へ その3
道すがらモモノさんは冒険者について話してくれた。
冒険者だが、これは人、動物、魔物に限らず戦闘が発生する可能性がある依頼を受ける人たちの総称になる。
ドラゴン退治の英雄などに憧れる新人は多いが、実際は拠点とした街を中心に護衛や魔物を倒して生計を立てており冒険をしている人は少ないとのこと。
教えてもらって一番驚いたのが冒険者像の違いだった。
「正直、こんなに親切にしてもらえるとは意外でした」
丁寧に説明をしてくれるモモノに抱いた正直な感想だ。
「粗暴な冒険者に横暴な領主」
「なんですか、それ?」
「思い込みで物事を判断しちゃだめって言葉」
「実際は違うと?」
「冒険者同士の助け合いは活発よ。知らない土地で周りに頼れる人が居ないなんてことも多いから冒険者同士は可能な限り助け合うの。仕事で協力することも多いし、周りの評価には気をつけてるわ。周りの反感買ってまで力を誇示したがるのは経験の浅い新人くらいよ」
「言われてみたらそうか。けど冒険者同士以外では」
「冒険者の受けている仕事は大体が街に暮らす人からのものよ。依頼主の機嫌を好き好んで損ねるわけがないでしょ」
「じゃあ領主もですか」
「贅沢しているのは確かだけどね」
連れられてきたギルドの建物は中央区と外区を分ける大通りに面した三階建てのかなり立派なものだった。
中も荒くれ者のたまり場というよりも役所に近い。
奥に受付があり、手前は談話スペースのようでテーブルに少なくない人数が集まっている。
「ミルー、こいつ冒険者登録したいんだって」
モモノが職員の一人に声をかける。
「はいはい、新人さんね」
声をかけてきたのは落ち着いた雰囲気の女性だった。耳は猫耳だ。
「サザキっていいます。お世話になります」
近づいてきた女性に頭を下げる。
「それじゃがんばってきなさい」
「ありがとうございました」
受付へ向かうモモノにお礼を言うと振り返らずに手を上げてこたえてくれた。
揺れたしっぽに目が行ってしまったのはまぁ仕方ない事だ。
「サザキさんね。私はミールシナです。モモノさんに声を掛けられたのですか?」
そんなところですと返事を濁すと、良く道に迷った新人を連れてくるんですよと笑って教えてくれた。純粋にいい人のようだ。
「それでは登録を行いますのでついてきてください」
連れていかれた先は2階の小部屋だった。
「さて、ギルドに登録ということですが冒険者ギルドがどういったものかご存知ですか?」
「いえ、恥ずかしながらほとんど知りません」
「普通なら縁がない場所ですからね。では異本的なところから説明させてもらいます。それを踏まえたうえでギルドに所属するか判断してください」
冒険者についてはモモノさんに教えてもらったとおりだった。
追加の情報としては、拠点としている街に入る際には住民と同様に税金が掛からない事や魔物が大量発生した際には徴兵されることなどがあった。
また、今後の目安として一般的な冒険者のステップアップの説明がありこれがかなり役に立った。
まずステータスだが60でそれなり、120で一流とみなされる。これは60と120でそれぞれ一次職と二次職の『クラス』につくことが出来るからだ。
冒険者の醍醐味といわれるダンジョンは一次職になって挑むのが普通ので、それまでは採集や動物を狩ってレベルをあげるらしい。
最後に、モモノさんが使っていたテレパスを含めた生活魔法3つを教わった。
互いの感情を魔力に乗せて意思疎通を可能にするテレパス、任意の場所に魔力を残して位置を把握するマーキング、魔力の波動から本人を証明できる認証の3つだ。
普通はそれまでの生活で親から教わったりするそうなので、いずれも知らなかったことに驚かれたが適当にごまかしておいた。
「それではこれがギルドカードになります」
ミールシナさんは頑張ってくださいねと名刺サイズの金属板を渡してくれた。
ギルドの片隅で渡された金属板、ギルドカードを見つめる。
異世界に来て半日もたたず生活の方向性が決まったのだから幸運に恵まれているのだろう。
帰り方を探すにしろ、ここで生きていくにしろ生活のために稼がなくてはいけない。
日本がどれほど恵まれた場所かは知識でしかしらない。
日本の感覚でいたなら生きてはいけないだろう。
ギルドカードの登録名はサザキにした。
ファミリーネームをどの程度の人が持つのか分からなかったというのもあるが、それ以上に自分なりの決意であった。
「これからは日本人佐崎健吾ではなく、冒険者サザキとしてやっていく」
自分に言い聞かすように、その言葉をつぶやくのであった。