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第二章 パーティ結成 その2

「あっちは湿気が多そうだからキノコ類があるはずよ。葉っぱが縦長で紫がかったのを探して。その陰によくあるから」

「こんな二つに割れたような葉っぱのツタが絡まっている木は無い?根が強壮薬になるの」

「このきのこは見たまんま毒キノコで普通は避けるけど、調薬すれば下剤になるのよ」

最近気温が上がってきたせいか、旺盛に生い茂る草木をかき分けてルーネイに指示されるまま草をかき分け土を掘り返す。


「あ、ちょっとそこの土手の下、あれ採ってきて。5メートルくらいあるけど大丈夫でしょ」

ちょっとくらいきつくても、次々に増えていく籠の中を見ると頑張れる気がする。

「生臭い感じの臭いしないかな。その苔がかなり高値なんだけど」

「いや、さすがに出来る事と出来ない事はあるからね。いくらなんでも犬や豚の真似は無理だから」


サザキが採集した時には薬草といくらかの食べ物を採るだけであったが、今籠の中にはまさに森からの恵みといった様相で山菜やキノコ、昆虫など多種多様である。

「まさかこれほどとは」

午前中だけで集めたとは思えない成果だった。

ルーネイの知識とサザキの強化された感覚の合わせ技は文字通り見落としなく森の中を漁り尽くしていったのだ。

「わたしとしてはあなたの能力に驚きよ」

ルーネイは驚くというより呆れた様子でサザキの能力を評した。

「ほんとにスキル様々だよな」

スキルの有無での違いに驚いたサザキはルーネイも同じなのだと思った。

「スキルだけじゃこうはいかないわよ。そもそもあなた目も匂いも音も全部同時に拾ってるじゃない」

「そうしないと見落としが出るだろ」

「ちーがーくーてー」

ルーネイが話の通じていないことに苛立って地団太を踏む。

「訓練してようやく2つの感覚を同時に強化できるようになるのに、平然と3つの感覚を強化しているあなたはなんなのってこと」


スキルというのは効果が持続するものでは無い。だから必要なときにのみ発動させるのだ。

ハンタースキルも普通なら用途に合わせて五感のどれか一つを強化するはずなのだが、サザキを見ているとスキルが発動しっぱなしのうえに複数の感覚が強化されている。尋常ではない事だった。


「あれ?『シックスセンス」って五感強化だって説明を受けてたんだが』

「そうだけど、普通は同時にやると気分が悪くなったりして出来ないの」

「それなら俺もなったって。あれは二日酔いよりひどかった」

「もういいわ」

話がかみ合わないことに怒ったルーネイだが、サザキはその様子をルーネイがまだクラスが無いのにスキルの苦労話などしたから機嫌を悪くしたのだろう程度に思ったのだった。


「そんなことより採集はこんなものでいいんじゃない?」

「まだ時間はあるぞ」

確かに普段の、それこそ3倍以上の量があったが、それでもサザキは今引き上げるのに難色を示した。というのも支出予定があるからだ。

ルーネイとパーティを組むにあたって、同じ場所に寝泊まりした方が都合が良い、またギルド宿泊のパーティというのは外聞が悪い等々言われたのだ。

それでも渋ると、「そこまでお金が心配ならわたしが出す」とルーネイに言われてしまった。

さすがに年下の娘宿代を出してもらうのは情けなさすぎるのでそこは断ったのだが、前回の討伐報酬の銀銭5枚、銅貨5枚を加えて約銀銭7枚が全財産のサザキには一泊銅貨5枚というのはなかなかの負担なのだ。


ちなみに報酬が多かったのは、参加費、案内費、戦闘参加費がそれぞれ銀銭1枚のほかにゴブリン3体とホブゴブリンの討伐がサザキにつけられたため、それが銀銭2枚と銅貨5枚になったのだ。


「なに?まだ宿代を心配しているの?」

「そういうわけじゃないけど」

年下にお金で諌められるのはみっともなくてとっさに否定したが、事実なので後が続かない。

「大丈夫よ。二人で分けても十分な金額になるから」

あっけらかんとルーネイは言ってくる。

「そんな事より、いいもの見せてあげる」

未だに不満げなサザキを余所に、ルーネイは森の開けた場所の中央に陣取ると外していたローブをかぶり直した。


水の精霊ウンディーネよ

我に水の祝福を与えたまえ

我、清らかなる水を従え敵に立ち向かわん

水の猛々しさをもって我が敵を打ち砕け!


朗々と詩を詠むように節を分けての言葉、いや呪文にサザキが顔を上げる。

ここは森の真ん中で辺りに川など水源は無い。

けれどルーネイの周りにはどこからか現れた水が漂い踊るように揺れる。

すっと頭上に掲げられた指に導かれるように、漂っていた水球が彼女の頭上に集まりバスケットボール程度の球へと形を成していく。


「ウォーターボール!!」


叫びと共に振りおろされた腕に投げられたかのように、水球は一直線に森へと飛んでいく。一本の木にぶつかった水球はその衝撃で四散しあたりにキラキラと散っていくが、木の方は所々皮がはがれており水球がそれなりの威力をもっていたことを示していた。


魔法を見せつけたルーネイがサザキを振り返る。

その表情は自信にあふれ自慢げであった。

「すごかったな」

「そうでしょ」

「見惚れてた。まるでおとぎ話の中の水の妖精みたいだった」

魔物やスキルといった非現実的なものはいろいろと見てきたが、サザキにとって初めて見る魔法はそれとは比べ物にならないくらいファンタジーで神秘的だった。

だからサザキは純粋に物語のようだと言ったのだ。

「そ、そう。そこまで言われるとからかわれてるみたい」

一方のルーネイは自分を妖精のようだと評価したのだと微妙な勘違いをして、顔を染めながら満更でもないのであった。


「ところで、ルーネイはまだメイジじゃないよな。何で魔法が使えるの?エルフの血?」

先ほどの光景を見てしまうとサザキも魔法が使いたくなっていた。そこで気になるのがルーネイが使えた理由である。

「別にメイジしか使えないわけじゃないわよ。ステータス次第で使えるようになるからベテランの冒険者なら奥の手にしている人も多いわ。魔法剣士なんて呼ばれる人も居るし」

「なら俺でも使えるようになるって事だよな」

「そうね」

「教えてくれ」


魔法はサザキの心を魅了していた。というのもファンタジーの世界といっても魔物はあくまで生き物だ。恐竜などと比べれば類人猿に分類されそうなゴブリンなど元の世界に居てもおかしくは無い。

火を噴く動物は居ないが高温のガスを出す昆虫ならいるし、毒ガスを吐くものなど掃いて捨てるほどだ。剣や鎧を着込んでの戦いだってそう昔の話ではない。

そう考えると、今までサザキが触れてきたものはあくまで元の世界の派生と捉えらることができたのだ。


それが、魔法は全くの未知だった。だからこそ子供のように純粋で抑えの利かない好奇心であった。

「どうしようかしらね。簡単に使えるわけじゃないし、わたしも調薬とか忙しいし」

「手伝えることは何でもする」

意地の悪い笑みを浮かべるルーネイに構わず、サザキは一途であった。

「そこまで言うなら教えてあげないことも無いわ」

「本当か、ありがとう」

未だクラスの無いルーネイはサザキとの関係を少しでも優位にしたくて提案したのだが、あまりに純粋にお礼を言われるものだから気まずくなり、せめてきちんと教えようと決めるのであった。


サザキが先導する形で慌ただしく街道まで戻ってくる頃になると、さすがに冷静さを取り戻し、少なくとも表面上は冷静になって歩みを遅めることにした。

それでも好奇心を抑えきれず勇み足になるたびに「サザキ歩くのはやい~」との文句を街に着くまで幾度もルーネイから言われる事となった。


「それでは、これらすべての買取金額は銅貨8枚と銅銭2枚になります」

渡された額の多さにサザキが驚く。ギルドで買い取って貰ったのは採ってきたものの半分ほどでこの金額になったのだ。残り半分はルーネイが調薬して売るため更に高値になるらしい。

「状態の良いものを望まれる形で持ってくる。それだけで買取値は全然違うんだから」

「すごいな」

後ろで様子を見ていたルーネイの言葉にただただ感心するのであった。

サザキが採って来た時より倍の値段が付いたものまであり、パーティ初日にしてルーネイの実力に圧倒されっぱなしであった。

「それじゃ次はこっち」

「買い物でもするのか?」

後は帰るだけだと思っていたサザキだが、ルーネイに手を引かれてやってきたのはいつぞお世話になったギルドの相談窓口。


「すいません、属性を調べたいんですが」

ルーネイはそう言いながら押し込まれるようにサザキを席に座らせた。

「ほらよ」

そこに居たギルド職員は後ろをごそごそとあさり何かを取り出すと、結構いい加減に机に置いてそのまま席を外してしまった。

「何をするんだ?」

置かれたもの、水晶球のようなそれを転がり落ちそうだったからと手に持って尋ねる。

「魔法を覚えるならまず属性を調べないと」

「火とか水とか?」

「そう。それじゃカウンターを握って集中して」

「カウンター?」

「それ、マジックカウンター」

そういってルーネイはサザキが持つ水晶球を指さしてくる。

「職員が居なくていいのか?」

「冒険者は必要以上に情報を出さないものよ」

そのために席を外したらしい。

「ルーネイは見ているじゃないか」

「パーティくんでいたらどうせわかるでしょ。それに私はサザキの師匠なんだから」


弟子になったつもりは無いんだがなと愚痴を言いながらも、マジックカウンターに興味もあり言われたように意識を集中させる。

水晶球はその中にわずかに光を帯びた。

「あれ?色がでない」

結構きれいだなと感心していたサザキの横からルーネイが手を伸ばす。

「ちょっと変わって」

後ろから乗り出すようにルーネイが水晶球をつかむと水晶球は水色のはっきりとした光を発した。

「壊れてはいないわね。ちょっともう一度触れてみて」

サザキの手に強引に水晶球に押しつける。

「やっぱり色が無い。これは問題かもしれないわね」


ルーネイが水晶球を確認したりしているが、サザキとしては乗り出すように密着してくるルーネイの方が問題であった。

ローブを着ていて分かりにくかったが、結構スタイルはいいのかもしれない。そんな考えばかりが頭の中を飛び交っているのであった。


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