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第二章 討伐作戦 その2

汚れた身なりを整えてさぁ飯だとギルドを出ようとしたところ、珍しい光景に出くわした。


「よければうちに来ないか?」

そう声を掛けているのはレザーアーマーを着込んだスキンヘッドの男。後ろにいる長髪を束ねた男もスキンヘッドの仲間だろう。よくあるパーティかクランの誘いである。

しかし周りの人たちはやけに注目して見ている。


というのも、誘われている相手が目を引くのだった。白いローブを羽織り口元を布で隠しているその姿は、

「白魔法使い?」

ゲームで出てくるそれらを連想させられた。

この世界では魔法を使う人はローブを好んでつけている。理由は全身を包み込み、視界を狭めることで集中力を高めるためらしい。

そんな訳で街中やギルドでもたまに見かけるのだが、大体は濃い色であり白色のローブというのは初めて見かけた。

ちなみに神殿出身者のヒーラーも濃い色のローブをつけているので白いローブは単なる趣味なのだろう。


変わった趣味ではあるが、メイジの冒険者というのは珍しくパーティに一人いるだけでそのパーティに箔が付くと言われるほどだ。

周りで注目していた人たちも今の誘いが失敗したら自分たちのところに誘う気なのかもしれない。

一人で森を駆け回っている自分と比べれば羨ましい限りである。

と、こちらの視線に気づいたか白いローブの人が振り向いてくる。かなりきつい感じの目元で、見られるとそれだけで威圧されている気分になる。

不躾に見すぎたかな。

サザキは気まずくなり取り繕うように会釈をしてとっととその場を去るのであった。


仲間がほしい。

ギルドの光景もあって、食事中サザキはその事ばかり考えていた。

ドラゴンヘッドのベオロからは気が向いたらいつでも来いといと言ってもらっているし、ハンターにクラスアップした今ならルーキーとしてパーティを組むことも出来るだろう。

ただ、名声や功績を求めないサザキのスタイルでは若手や上を目指すパーティとは合わない部分が出てくると思っている。

命がけの商売だけにパーティのスタイルだけには齟齬を残すべきではないというのがサザキの考えだ。

とはいえ、サザキの求めるスタイルのパーティは大抵自分の限界を知ったか、衰えを感じた古株がほとんどでサザキが入れるような所がないのが実情で未だソロを貫いている訳である。

そんな人恋しくなる日に限って大部屋に話すような相手も居ずにさびしい夜を過ごすのであった。


「変わらず人気だねぇ」

白いローブの人は3日経っても未だどこのパーティにも入らずにいた。

初日ほどでは無いが未だ声を掛ける人が後を絶たない。

ダンジョンに行って帰ってくるだけで3日経つので多くのパーティと顔合わせをしようと思えば実はそれほど長い期間というわけでも無い。

「条件がなかなかきつくてな」

返事を返したのはベオロである。ギルドでちょうど出会い話し込んでいた。

「誘ったんだ」

「そりゃ喉から手が出るくらいほしいからな」

さすが人気のメイジである。

「選り好み出来て羨ましい限りで」

「そういうお前もうちを断り続けているんだがな」

「藪蛇だったか」

その日の晩飯はベオロの愚痴をひたすら聞かされる羽目になった。あまりにそれが長いのでしこたま飲んで奢らせたくらいはご愛嬌。


日が明けて変わらずサザキは森の中であった。

午前中なので薬草を探しているところなのだが、何かが気になり落ち着かない。森の様子が普段と違う気がするのだ。

嵐の前の騒然とした空気。そんな印象を受けるも天気は快晴で穏やか、荒れる兆しすらありはしない。


今日はもう帰ろう。


魔法のある世界に居るのだ。サザキの知らないような気象や現象があってもおかしくはない。

リスクは最低限に抑えると決めるとさっさと道を引き返していく。


入り込んでいた藪から抜け出て獣道を戻り始める。

「イテッ」

注意が周りに逸れていたせいで足元の枝を引っ掛けしまった。

獣道は文字通り獣が通るので、あまり引っ掛けるような草木は無い。

運が悪かった。そう思って枝を外そうとしてそれが折れていたため先端がとがり引っ掛かったのだと分かった。

周りを確認すると、獣道沿いに草木が折られている。

今まで出会わなかっただけでほかの人が来たのか。最初はそう考えたが、それなら枝などは折るのではなくサザキのように切り落とすはずである。


あり得るのは今まで獣道を通らなかった大型のモノが通り、それで周りの枝や草が折られたというものだ。

折られた木や草を辿ると、途中で獣道を外れて進んでいる。

ここまで折られた後を辿って来てしまったのは自分の行動範囲、縄張りにしている場所に分からないモノが居てほしくないという思いからだった。だからはっきりとした証拠があれば即座に引き返すつもりであった。

爪跡といった熊とわかるはっきりとした証拠があれば・・・。


折れた草木を追う事半時ほど、恐れていた熊は居なかった。

居ないことを証明する簡単な方法がある。別のものが居ることを証明すればいいのだ。


森の開けた場所に人型の集団が居た。

黒ずんだ肌にしわまみれの顔、背丈はサザキの胸元辺りまで。

狩りの成果であろう鹿に生のまま噛り付いている口には牙のようにとがった歯が並ぶ。

ファンタジーの代名詞ゴブリンである。

辺りの気配を探るだけで20匹以上いる。

ギルドで受けた説明では個々の強さは無いものの繁殖力が強く、ダンジョンから出てきやすい魔物の一つに上げられている。見つけた場合は即討伐がゴブリンへの対応になる。

奇襲を仕掛ける、森に散っている奴から順に倒していく。そんな活躍を一瞬夢想するも実際に戦う勇気なんてありはしない。

息をひそめ気配を殺し、辺りにいるほかのと出くわさないようにしながら来た道を引き返していく。

森の中を小走りにで草木が引っ掛かることも気にせず一目散で抜け出した。そこまでは周りに気を払うだけの緊張感もあった。


街道に出て視界が開けるとさすがに緊張感も限界だった。

ただただ全力で街に向けて走った。しかも大声で叫びながら。


めっちゃ怖かったのだ。


とはいえすぐに息切れしてペースを落とすことになり、大声とともに恐怖も抜け出たようで冷静さも戻ってきた。幸い叫びながら走っているのを人に見られることは無かった。


サザキが勢いよくギルドに飛び込むと、昼間人が少ない事もあってか近くの人が皆こちらを振り向いた。

何人か腰を浮かせてすぐに動けるようにした人が居たのはさすがギルドだなどと感心しつつ窓口へ駆け込む。

「サザキさん何かありましたか?」

対応してくれたのはミールシナであった。

「森でゴブリンに会って」

「そうでしたか。怪我はありませんか?」

「あ、はい。隠れていたので」

慌てた人の対応に成れているのだろう。落ち着いて対応してくれたミールシナにつられるようにサザキの興奮も収まっていく。

「落ち着きましたか?」

「はい」

いい年こいて興奮していたことが恥ずかしくなる。

「それではゴブリンについて詳しくお願いします」

出来るだけ詳しく、と言っても場所と数くらいしかないのだが、話をしていく。

「分かりました。しばらく待っていてください」

そういうとそそくさと奥へと引っ込んでしまった。

所在が無くなりギルドの隅で突っ立っているしかないのだが、さっきので注目されたままでちらちらと見られるのがとても居心地が悪い。

ミールシナが戻ってきたのはいい加減待ちくたびれてサザキを見る人などいなくなってからだった。


「ギルドからの緊急依頼を発行します。内容は近隣に確認されたゴブリンの偵察および討伐。参加者には一律銀銭1枚の報酬、戦闘があった場合には追加で銀銭1枚、また今回は緊急依頼ということでゴブリンの討伐報酬は銅貨を1枚足した3枚となります」

ミールシナがロビーで依頼内容を読み上げていく。

サザキが持ち込んだゴブリンの情報は緊急依頼という形で対応されることとなった。今日中に確認だけでも取りたいようで今から出発の強行軍だ。


ギルドに居たいくつかのグループが参加を希望しそれにミールシナが対応をして行くのを見ながらサザキは考えをまとめていた。

サザキには道案内として強制参加を言い渡されていた。

報酬は欲しいが、あのゴブリンとやりあうなんて御免こうむる。参加費銀銭1枚のかに情報料として銀銭1枚がさらにもらえる。それだけで十分なので戦闘は避けようと決めるのであった。


参加するのは計14名。

討伐が起きた際に中心となる一つ星パーティ『明け星』の5人、そのサポートになる中堅クラスパーティの4人。

案内役のサザキ、連絡や雑用としてルーキー2人、同行のギルド員1人、そしてなぜか後方でのサポートと紹介された噂のメイジ1人。

2台の馬車に乗り込み昼食を取りながらの打ち合わせとなる。

予定としては昼過ぎに森に入り、対応できる数なら夜までに終わらそうというかなりの強行軍になる。

というのも、動き回るゴブリンを追うのは困難なためどこかわからない被害を待つより先手を打てるなら打ちたいのだそうだ。


「サザキです。今回はよろしく」

馬車が同じになったのでメイジの人に話しかけることにした。

今まで魔法というと生活魔法しか見たことが無かったので、実はかなりの憧れを持っていたのだ。

「ルーネイよ」

サザキは顔の大部分を隠していたので何となく妖艶な女性をイメージしていたが、声色とそっけない態度はかなり幼いものであった。

「ルーネイは後衛に居るってことは回復魔法が使えるのかな」

黙っていてルーネイから話すことは無さそうなのでサザキから質問をしてく。

が、こちらを訝しむように見るだけで返事はもらえない。

「あ~、やましい気持ちがある訳じゃないから」

相手が若い女性なら声を掛けられる事に過剰に反応したかもしれないと思い、あわてて大仰に手を振り違うと示す。

「今まで魔法を見たことが無くて、それで興味があったんだ」

「その年まで冒険者をやっていて?」

普通に考えればサザキの年なら10年近く冒険者をやっていることになる。勘違いするのも当然だろう。

「いや、冒険者になったのも最近でね」

「それで薬草ばっかり集めていたの」

どうやら最近のギルドでの事を見られていたようだ。

「まだまだ実力不足でして」

相手としては嫌味を言ったのかもしれない。若ければ見栄もあるのだろうが、突然来た異世界で生きていけるだけ稼げている事は十分誇れることなのでサザキは気にしなかった。

「その年で冒険者になってもろくな未来は見えないけどね」

「だろうね。ま、生活出来るだけの収入があればいいから気楽に薬草取りを続けるよ」

ダンジョンに行って収入を増やしたいと思ってはいるが、主に採集で稼ごうと思っているので偉業を成したいわけでもない。

「かわってるわね」

そういうとルーネイは黙ってしまう。


「魔法は」

「あ~、もうっ」

おずおずと尋ねるとめんどくさいと言わんばかりの態度を取られた。

「白いローブは薬師の印よ。ローブが白なのは薬品が掛かった時すぐ分かるように、口を覆っているのは毒を吸い込まないように。わたしは回復魔法なんて使えません」

そう言うとぷいと横を向いてしまった。

勘違いをしていたのは悪かったが、そこまで怒るようなことだったのだろうか。

森に着くまでの残りの時間彼女の機嫌を損ねた訳を考えるが答えは出ず、若い女の子の考えなんてわからないと結論をつけるサザキであった。


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