プロローグ モモノ・ローグスト
その日は今回のダンジョン探索が無事終了したことを祝って盛大に打ち上げが行われた。
戦利品もかなりのものだが、下層まで行けたという事がなによりの成果だった。
うまくいけばこれで二つ星に成れるかもしれないのだ。
そんな理由もあり宿への帰路に着いたのは夜もかなり老けた時間であった。
辺りの家々から洩れる光もなく、なんとなく魔道ランプも使わなかった。
夜道を照らすの月明かりのみだ。
大通りを外れると家々が影になり手の先すら見えなくなるが、足取りはしっかりしている。
夜目は効かないが、獣人のモモノは感覚が鋭い。
闇に閉ざされていても歩きなれた道程を帰る程度なら造作も無い。
本人は気が付いてなかったが、宿が近くなりモモノは足早に路地を進んでいた。
だからつまずいた時には盛大に転んだのだった。
「ふがっ」
みっともない声が漏れるが、体を投げ出されながらも冷静に状況を判断していく。
真正面から倒れていく中で体にひねりを加えながら体を縮める。
縮こまったことで回転力が増した体は側面を地面にぶつけながらさらにもう半捻りをいれ、
這いつくばるような姿勢で素早く身を起こしあたりを警戒する。
長年の冒険者生活で身に着けた身のこなしだ。
モモノは闇に閉ざされた路地の隅々まで神経を張り巡らせる。
つい先ほどまで自分が足を引っ掛けるようなものは無かったはずだ。
たっぷり5分近く様子を伺った後、ようやく何もないと判断して魔道ランプに火を灯す。
暗闇に閉ざされていた路地がわずかな光に浮かび上がり、物陰の闇はいっそう濃いものとなった。
ランプに照らされた先には無防備に手足を投げ出した一人の男が倒れていた。
「ちょっと!」
あわてて駆け寄り様子をうかがう。
衣服に乱れはなく、呼吸も安定している。
特にけがなども見当たらない。
「こんなとこで寝てんじゃないよ」
単に寝ていただけの男に気が付かずに過剰な反応をしてしまった。
その恥ずかしさをごまかすために寝ていた男を蹴りつけるのであった。